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神への階と十五柱の花嫁  作者: 輝夜月愛


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第57話:帝国の悪辣なる婚姻と、神王の冷たき怒り

【ゼクシア帝国・皇宮の奥深く】


「……素晴らしい。どんな最高級の絹も、お前たちのその美しさの前では霞んでしまうな」


ガリウス皇帝は、豪奢な玉座の間で満足げにワイングラスを揺らしていた。

彼の目の前に並ぶのは、純白の豪奢なウェディングドレスを纏った、十人の絶世の女神たち。

身長190センチ、股下110センチの圧倒的なプロポーションが純白のドレスに包まれ、十色のストレートロングの髪が美しく結い上げられている。


長女のベイラが、虚ろでありながらも熱を帯びた瞳で、ガリウスの足元に跪いた。


「すべては、最愛のご主人様(ガリウス様)のために。この身も、心も、貴方様のお気に召すままに」

「私たち十人は、ご主人様の花嫁になれる日を心待ちにしておりましたわ」

ヘカッテが甘い声で続き、他の娘たちもガリウスにすり寄る。


ガリウスは冷酷な笑みを深めた。


ライルたちが、必ずこの洗脳を解く手段を講じてくることは分かっていた。神王たる規格外の力と、神魔を味方につけたあの陣営なら、この古代の呪縛すら物理的・魔力的に破壊してくる可能性がある。


「ならば、呪いが解けた後でも『私を愛するように』仕向ければよいだけのこと」


ガリウスの狙いは、洗脳状態の娘たちを都合のいい兵器として使い潰すことではなかった。

洗脳下という「極端に素直で無防備な状態」を利用し、彼自身が最高の優しさと愛の言葉を囁き、甘い時間を共有する。そして、決定的な『婚姻の儀(既成事実)』を結ぶ。

そうすることで、もし後からライルが洗脳魔法を強制解除したとしても、娘たちの心には**「ガリウスと結ばれた幸福な記憶と、本物の愛情」**が消えずに残る。


魔法が解けてパパ(ライル)の記憶が戻っても、すでに自分はガリウスを愛し、妻となってしまっている――その絶望と矛盾で娘たちの精神を完全に崩壊させ、永遠に自分のモノ(所有物)にするという、悪魔のような計画だった。


「明日の正午、帝都の大聖堂にて、十柱の女神を私の『正妃』として迎える大々的な婚姻の儀を行う。

……ライルよ。貴様が結界を破って辿り着く頃には、愛する娘たちは心底から私を愛する『妻』となっていることだろう」



【ローレンツ邸・緊急軍議 ~突きつけられたタイムリミット~】


一方、ローレンツ邸の執務室は、重く張り詰めた空気に支配されていた。

水晶玉から得た帝国の情報と、娘たちの現状について、新たに加わった神魔ゼタ(元・魔王)が、冷や汗を流しながら報告を終えたところだった。


「……間違いない。帝国が使用したのは、精神を泥のように塗り替えるロストテクノロジー『愛と隷属の呪縛陣』。

ですが、問題はそれだけではありません。我が王(ライル様)、帝国は……明日の正午に、お嬢様たちとガリウス皇帝の『婚姻の儀』を執り行うと発表しました」


「……なんだと?」

ライルの声が、絶対零度まで冷え込んだ。


「ゼタ。ただ洗脳して兵器にするだけじゃなく、なぜ結婚なんて回りくどいことをするの?」

獣人の妻ミアが、ギリッと牙を剥き出しにして問う。


「……洗脳を『既成事実』で上書きするためです」

ゼタが苦渋の表情で答えた。

「洗脳魔法は、あくまで外からの強制力。いずれ解かれるリスクがあります。しかし、洗脳下とはいえ、実際に甘い言葉をかけられ、結婚の誓いを立て、もし……その先(純潔の喪失)まで進んでしまえば。

その時に刻まれた『感情』と『記憶』は、魔法が解けた後も【本人の真実】として残ってしまう」


「つまり……魔法を解いても、娘たちの心が手遅れになるってことですか!?」

第一夫人フィリアが悲鳴のように口元を押さえる。


「ええ。そうなれば、お嬢様たちは『パパを愛する自分』と『ガリウスを愛してしまった自分』の間で心が引き裂かれ、精神が完全に崩壊します。……ガリウスは、それすらも計算して、お嬢様たちの『心』を永遠に奪おうとしているのです」


ダンッ!!


分厚いマホガニーの執務机が、ライルの拳一つで粉々に砕け散った。


これまでは、「どうやって傷つけずに洗脳を解くか」という戦術の問題だった。

しかし今は違う。

明日の正午。それまでに娘たちを奪還しなければ、彼女たちの心も、純潔も、未来も、すべてが卑劣な皇帝に永遠に汚されてしまう。


明確な、そして絶対に超えられてはならない「最悪のタイムリミット」が突きつけられたのだ。


「……主さま」

サクヤが、震える手でライルの背中に触れる。


ライルは振り返らなかった。ただ、その全身から立ち上る黄金の覇気が、周囲の空間をギシギシと軋ませていた。

同化している最高神すら、「……ライルよ、怒りで現世の次元まで壊すなよ」とドン引きするほどの、底知れぬ静かな激怒。


「……ゼタ。帝国までの距離と、周囲の結界の強度は?」

ライルの声は、嵐の前の静けさのように平坦だった。


「帝国全土に、神気を反発させる多重の対神結界が張られています。通常なら、軍の進行に数日はかかる鉄壁ですが……」


「数日なんて待たない。明日、夜明けと共に僕一人で帝都の結界を正面から粉砕する。

サクヤ、みんな。君たちはその後から突入し、娘たちを無力化して呪縛を解く準備をしてくれ」


「ライル様! お一人で帝国の全軍と結界を相手にするなど……!」

エルフの妻セレナが止めるが、ライルは静かに首を振った。


「パパの可愛い娘たちに、ウェディングドレスなんて着せて……あまつさえ、その心まで汚そうとしたんだ。

……ガリウスの野郎には、この僕が直接、宇宙で一番後悔する『死』をプレゼントしてやる」


世界で最も不運だった男が手にした、世界で最も愛する家族。

その幸せを理不尽に踏みにじろうとする帝国に対し、神王ライルの「一切の容赦を捨てた大反攻」が、今静かに幕を開けた。


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