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神への階と十五柱の花嫁  作者: 輝夜月愛


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第56話:魔導帝国の甘き毒と、反逆の女神たち

【魔導帝国の罠 ~書き換えられる『愛』~】


古代魔導帝国・ゼクシアが辺境の地下に仕掛けたのは、単なる捕獲用の檻ではなかった。

それは、神の概念すらも書き換える禁忌のロストテクノロジー――『愛と隷属の呪縛陣』。


「パパの領民を返しなさい!」


救助に駆けつけた長女のベイラたち十人の女神が、地下空間の最深部に足を踏み入れた瞬間だった。

足元の魔法陣が禍々しい赤黒い光を放ち、彼女たちの足元から「泥のような呪いの鎖」が這い上がり、身長190センチの美しき肢体に幾重にも絡みついた。


「きゃあっ……!? な、なにこれ、魔力が……抜けて……っ!」

ヘスティアーが白炎を出そうとするが、呪いの鎖が魔力回路を強制的に遮断する。


そこへ、拍手をしながら一人の男が暗闇から姿を現した。

ゼクシア帝国の若き冷酷な指導者、ガリウス皇帝である。


「素晴らしい。これほどまでに美しく、規格外の神気を持つ兵器が十柱も手に入るとはな」


「だ、誰よあなた……っ! 私たちは、パパの……ライルの娘……っ!」


「その認識バグを、今から修正してやろう。お前たちの『最愛の存在』は、この私だ」


ガリウスが魔法陣の起動キーを強く握り込むと、呪いの泥が娘たちの首筋から脳内へと一気に侵入していった。



【侵食される心 ~新たなる『最愛のご主人様』~】


「ああぁぁぁぁっ!!」


十柱の女神たちが、長いストレートヘアを振り乱して頭を抱え、苦悶の叫びを上げる。

物理的な痛みではない。彼女たちの魂の根幹にある『ライルへの絶対的な愛と依存』というデータが、呪いによって無理やり消去され、別のものへと書き換えられていく恐怖と絶望だった。


「や、やめて……! パパ、パパぁっ……!! 助け、て……!」

リーフェの銀色の瞳からポロポロと涙がこぼれ、空に向かって手を伸ばす。


しかし、ガリウス皇帝は冷酷に微笑み、彼女たちの耳元で呪いの言葉を囁き続けた。


「お前たちを生み出し、愛を与えたのは私だ。ライルという男は、お前たちを騙していた卑劣な敵だ。さあ、私を見ろ。お前たちの最愛の主を」


「ちが、う……パパは……ライルは……っ」


激しく抵抗していたベイラだが、その琥珀色の瞳から、スゥッと「光」が消え失せた。

次いで、ヘカッテ、アフロディテ、ヘスティアーたちの瞳も、泥のような深い虚無の闇へと沈み込んでいく。


やがて、苦悶の表情は消え去った。

代わりに彼女たちの絶世の美貌に浮かんだのは、ガリウス皇帝に対する**「甘く、狂信的なまでの愛情と忠誠の笑み」**だった。


「……おはよう、私の美しい女神たち。お前たちの主は誰だ?」


ガリウスが優しく顎を撫でると、ベイラは頬を赤らめ、うっとりとした表情でその手に顔を擦り寄せた。


「……はい。私たちのすべては、最愛のご主人様(ガリウス様)のものですわ。

ご主人様の御心のままに、この命と神気、すべてを捧げます」


他の娘たちも、ガリウスの足元に恭しく跪き、その靴に口付けをして絶対の服従を示した。

最強で、最も純粋だったパパ大好きっ娘たちは、帝国の最も恐ろしく、最も忠実な『手駒』へと完全に堕ちてしまったのだ。



【絶望の通信 ~敵意に満ちた女神たち~】


一方、ローレンツ邸の執務室。

胸の奥で最高神が放った『娘たちの神気が書き換えられた』という警告に、ライルは顔面を蒼白にしていた。

そこへ、ガニスが血相を変えて通信用の水晶玉を持ち込んでくる。


「ライル様! 帝国から、全大陸への強制通信が……!」


水晶玉に映し出されたのは、不敵に笑うゼクシア帝国のガリウス皇帝。

そしてその後ろには――帝国の漆黒の軍服を艶やかに着こなし、冷酷な光を宿した瞳で直立する、十人の愛しき娘たちの姿があった。


『全世界、そしてライル・フォン・ローレンツに告ぐ。我がゼクシア帝国は、本日よりこの十柱の女神たちを「帝国の剣」として迎え入れた!』


「……ベイラ! ヘスティアー! みんな!」

ライルが水晶玉に向かって叫ぶ。サクヤや妻たちも、信じられない光景に息を呑んだ。


画面越しのベイラが、ライルの声に反応してスッと一歩前に出た。

かつてライルに向けていた甘い笑顔は欠片もなく、そこにあるのは、ゴミでも見るような**「完全な敵意と殺意」**だった。


『……ライル・フォン・ローレンツ。貴方は、私たちの最愛のご主人様(ガリウス様)の覇業を阻む、最も排除すべき敵です』


「ベイラ……!? お前、何を言ってるんだ! 目を覚ませ!」


『黙りなさい。次にその汚い口でご主人様や私たちを呼べば、貴方の領地ごと、その命を消し炭にします』


画面の中で、ヘスティアーが指先に白炎を灯し、ヘカッテが重力の渦を巻いて威嚇する。

彼女たちは本気だ。洗脳の呪縛はあまりにも深く、ライルを「最愛の主を脅かす憎き敵」と完全に認識していた。


『どうだ、ライルよ!』

ガリウス皇帝が高らかに嗤う。

『貴様に、この愛娘たちを傷つけることができるかな? 我らに逆らえば、明日、この女神たちを先兵として貴様の屋敷に突撃させる! 降伏か、娘と殺し合うか、どちらかを選べ!』


通信がブツリと途絶えた。



【ライルの苦悩と、最悪の戦いの幕開け】


執務室は、死のような静寂に包まれた。


「……てめぇ……っ!!」


ライルから、これまでで最大級の、怒りに満ちた神王の覇気が爆発し、屋敷のガラスがすべて粉々に砕け散った。

同化している最高神すらも息を潜めるほどの、静かで、底知れぬ激怒。


娘たちを人質にされたのではない。

**「絶対に攻撃できない最愛の娘たちが、殺意を持って自分たちを殺しにくる」**のだ。

彼女たちの規格外の力を考えれば、手加減などしていればこちらが消し飛ばされる。かといって、全力で反撃すれば娘たちを傷つけてしまう。


物理法則を無視した無敵の主人公・ライルにとって、己の力が一切通用しない、これ以上ない最高難易度の試練が突きつけられた。


「主さま……」

サクヤが、不安げにライルの袖を掴む。


「……サクヤ。みんな」

ライルは、ギリッと血が滲むほど唇を噛み締め、そして、深い決意を宿した瞳で妻たち(とゼタ)を振り返った。


「帝国は、絶対に許さない。……僕たちの手で、娘たちを無傷で取り戻すぞ」


最強の家族同士が殺し合う、最悪の防衛戦。

果たしてライルたちは、迫り来る「敵意丸出しの190cmの女神たち」を前に、どうやって洗脳を解き、卑劣な帝国を追い詰めるのか?


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