第54話:魔王の矜持と、神王(ライル)の底知れぬ器
【現代日本 ~魔都のへそ・東京スカイツリー~】
次元の亀裂の中心地。かつて東京のシンボルだったスカイツリーは、異界の植物と瘴気に浸食され、禍々しい「魔宮の塔」へと変貌していた。
サクヤの空間魔法により、ライルたちは一瞬にして地上から地上450メートルの天望回廊(最上階)へと降り立った。
「……来たな、愚かな人間どもよ」
ガラス張りの展望台の中央。瘴気で作り出された玉座から立ち上がったのは、漆黒の角と蝙蝠の翼を持ち、禍々しい魔力のオーラを纏った妖艶な**女魔王**だった。
「我は異界を統べる魔王ゼタ。次元の穴よりこの脆弱な世界に降り立ち、新たな支配者となる者だ」
ゼタが手を掲げると、展望台のガラスがビリビリと音を立ててひび割れ、強烈な重力波と闇の魔力が渦を巻いた。
紛れもなく、一つの世界を滅ぼし得る「本物の魔王」の力だ。
「あら、少しは骨がありそうですわね」
長女のベイラが、黄金のストレートロングの髪を優雅にかき上げる。
身長190センチメートル。股下110センチの圧倒的な美脚と八頭身のプロポーションを持つ十柱の女神たちが、一斉に魔王へと殺気を放った。
「パパの世界を荒らす害虫は、あたしが燃やす!」
三女ヘスティアーが白炎を放つ。
空間そのものを焼き尽くす神の炎。だが、魔王ゼタはそれを漆黒の障壁で辛うじて防ぎ切った。
「甘い! 神族の小娘どもが! 束になってかかってこい!」
ゼタは障壁を押し返し、無数の「闇の槍」を女神たちへと放つ。
リーフェの防壁とヘカッテの重力操作がそれを相殺し、展望台は神気と魔力が激突するすさまじい嵐となった。
(……さすがは魔王。娘たちの神気相手に、単身でここまで持ち堪えるか)
ライルは後方で妻のサクヤたちと共に、その戦いを見つめていた。
「パパ! ここは私たちが一気に……!」
「待て。お前たちは下がっていろ」
娘たちが本気を出してスカイツリーごと魔王を消し炭にしようとした瞬間、ライルが静かに、しかし絶対的な威厳を持った声で制止した。
「パパ……?」
ライルはゆっくりと前に歩み出た。
「お前たちの力を使えば倒せるだろう。だが、ここは僕の故郷だ。……僕がしでかした事態の尻拭いは、僕自身の手でやる」
◇
【主人公の証明 ~底知れぬ力~】
魔王ゼタは、前に出てきた無防備な青年に目を向けた。
女神たちのような圧倒的なオーラはない。ただの人間のように見える。
「小娘どもの後ろに隠れていた人間が、我に一対一で挑むというのか? 狂ったか!」
「狂ってないさ。ただ、君の力を確かめたかっただけだ」
「舐めるなァッ!!」
魔王ゼタのプライドが爆発した。
彼女は自身の命を削るほどの全魔力を解放し、スカイツリーの頂上に超高密度の暗黒球を作り出した。
触れれば原子レベルで消滅する、魔王の最大奥義。
「消え去れ! 《極大消滅・暗黒星》!!」
巨大な闇の奔流が、ライルを飲み込もうと迫る。
だが、ライルは剣すら抜かなかった。
ただ静かに右手を前に出し、彼の中に宿る『最高神の権限』と自身の『測定不能の幸運』を重ね合わせた。
「……確率操作。この攻撃が僕に当たる確率を……『0パーセント』に固定する」
カァァァァァァッ……!!
ライルの右手から放たれた目に見えない「運命の波」が、魔王の最大奥義と衝突した。
爆発は起きなかった。
魔王の放った巨大な暗黒球は、ライルの手のひらの数センチ手前で、まるで幻だったかのようにスゥッと「霧散」してしまったのだ。
「な……ば、馬鹿な!? 我の全魔力が、相殺されるでもなく……消えただと!?」
ゼタは信じられないものを見るように目を見開いた。
「もう一度だ! もう一度!!」
ゼタは狂乱して魔法を連発するが、炎も、雷も、呪いも、すべてライルに届く前に「不発」となるか「明後日の方向へ逸れて」いく。
ライルは無傷のまま、ゆっくりとゼタの目の前まで歩み寄った。
「ど、どういうことだ……貴様は、一体何者だ!?」
ゼタは恐怖に足がすくみ、ついにその場にへたり込んだ。
ライルはゼタを見下ろし、内に秘めた『新世界の神王』としての覇気を、ほんの一瞬だけ解放した。
ゼタの目にだけ、ライルの背後に「宇宙そのもの(二つの世界の最高神の威厳)」が幻視された。
「……ひっ!?」
ゼタは全身の毛穴から冷や汗を噴き出した。
勝てるわけがない。次元が違う。この男は人間ではない、世界の理そのものを束ねる「本物の王」だ。
◇
【魔王の服従】
「……殺せ」
ゼタはガクガクと震えながらも、魔王の矜持として首を差し出した。
「全力を尽くして傷一つつけられなかった。我の完敗だ。……さあ、首を刎ねるがいい」
だが、ライルは剣を抜く代わりに、へたり込む魔王にすっと右手を差し出した。
「え……?」
「君の力は強かった。僕の娘たちの攻撃を耐え抜いた魔法の技術も、大したものだ」
ライルは優しく微笑んだ。
「でも、その強大な力を『壊すため』じゃなく、『守るため』に使ってみる気はないか?」
「ま、守るため……?」
「僕の家には今、生まれたばかりの五人の赤ん坊がいる。
僕の家族になって、その力で子供たちを守ってほしい。……君ほどの魔法の腕があれば、最高の護衛になれると思うんだ」
ゼタは、差し出されたライルの手と、その底知れないほどに深く、優しい瞳を見つめた。
圧倒的な力で自分をねじ伏せながら、命を奪うどころか「家族(居場所)」を与えようとする規格外の器。
(……ああ。この御方こそが、真の覇王……)
魔王ゼタの胸の中で、敗北感はいつしか「強烈な憧れと敬意」へと変わっていた。
彼女は震える手でライルの手を取り、その場に深く、深く平伏した。
「……魔王ゼタ。貴方様のその底知れぬ御力と慈悲に、魂の底より感服いたしました。
この命、貴方様と貴方様のご家族のために、永遠に捧げます……! 我が王よ!!」
かくして、現代日本を滅亡の危機に陥れていた異世界の魔王は、ライルの圧倒的な実力と王としての器に完全に魅了され、自らローレンツ家の軍門に下った。
「パパ、また女の子を拾いましたのね」
ベイラが呆れたようにため息をつくが、その顔はどこか「私たちのパパの凄さが分かったようね」と誇らしげでもあった。サクヤたち妻も、苦笑しながらライルの背中を見守っている。
魔王という強力な仲間を手に入れたライル一家。
残すは、このスカイツリーの頂上に口を開けている「次元の亀裂」を塞ぐことだけだ。




