第53話:不運だった過去と、女神たちのボランティア活動
【現代日本 ~崩壊した副都心~】
黒煙が立ち上る新宿の交差点。
陸上自衛隊の一個中隊が、絶望的な防衛戦を繰り広げていた。
「撃て! 撃てぇぇっ!!」
アサルトライフルの銃弾が雨あられと降り注ぐが、アスファルトを踏み砕いて進み来る巨大な「鋼鉄の甲殻を持つ魔獣」には、傷一つつけられない。
戦車の砲撃すらも、魔獣が展開する不可視の魔力障壁に弾かれてしまう。
「弾が弾かれた!? なんだよあの化け物……っ!」
「隊長、もう駄目です! 防衛線が突破されます!」
未知の物理法則(魔法)で動く異世界の化け物に対し、現代兵器はあまりにも無力だった。
隊員たちが死を覚悟し、目を閉じた――その時である。
◇
【不運な過去への決別】
交差点を見下ろす崩れかけた歩道橋の上から、ライルはその惨状を静かに見下ろしていた。
「……主さま。あの方たちを、助けなくてもよろしいのですか?」
隣に立つサクヤが、桜色の髪を風に揺らしながら尋ねる。
「助けるさ。でも、少し昔を思い出していてね」
ライルは、瓦礫の山と化したビル群を見渡した。
「僕の前の人生は、本当に不運のどん底だった。
何をやっても裏目に出て、誰かに裏切られ、最後は惨めに死んだ。……だから、この世界に『絶対に助けたい大切な誰か』なんて、一人もいないんだよ」
ライルの声には、怒りも悲しみもなく、ただ静かな事実だけがあった。
「でも、あそこで襲われている人たちには、帰りを待つ家族がいるんだろう。
それに、この怪獣映画みたいな惨状は、僕が次元に穴を開けたせいでもある。……見捨てて帰ったら、胸の奥の最高神に一生文句を言われそうだからね」
ライルが苦笑して肩をすくめると、サクヤも優しく微笑んだ。
「ええ。主さまは、そういう方です。
……さあ、娘たち。パパの故郷のお掃除ですよ」
「「「はーい!」」」
サクヤの号令と共に、十人の規格外の女神たちが、歩道橋から軽やかに宙へ飛び出した。
◇
【降臨:190センチの美しき暴力】
「うわああぁっ!」
自衛隊員が魔獣の巨大な爪に引き裂かれそうになった瞬間。
ドゴォォォォォンッ!!
上空から降ってきた「何か」が、アーマーベアの頭部をアスファルトごと粉砕した。
舞い上がった土煙が晴れると、そこには信じられない光景が広がっていた。
「……な、なんだ?」
隊員たちが呆然と見上げる先。
そこには、戦車の砲撃すら弾いた巨大な魔獣の死骸をヒールで踏みつける、一人の女性がいた。
身長190センチメートル。その半分以上を占める股下110センチの、神がかり的に長く美しい脚。
八頭身の完璧なプロポーション(ナイスバディー)を優雅なドレスアーマーで包み、腰まで届く漆黒のストレートロングの髪をなびかせている。
第四夫人アナスタシアの娘、闇と重力の女神・ヘカッテである。
「……硬いだけの図体ね。私の重力で潰れるなんて、魔界のスライム以下だわ」
ヘカッテが妖艶な微笑みを浮かべると、周囲の空間がギシギシと悲鳴を上げた。
「お、おい……あっちを見ろ!」
別の隊員が震える指で空を指差す。
ビルに張り付いていた無数の飛行魔獣たちが、一瞬にして凍りつき、氷の彫像となってバラバラと落下してくる。
「パパの故郷の空に、醜い羽虫は飛び交わせませんのよ」
空中にふわりと浮遊しているのは、黄金のストレートロングの髪を輝かせる氷の女神・ベイラ。
さらに、倒壊しそうになっていた高層ビルを、銀髪のリーフェが巨大な「世界樹の蔓」を瞬時に生やして支え、逃げ遅れた民間人たちを緑の結界で保護している。
身長190センチ、股下110センチの圧倒的な美貌を持つ女神たちが、次々と戦場に舞い降り、凶悪な魔獣の群れを「文字通り」赤子の手をひねるように蹂躙していく。
「あ、天使……いや、女神様……?」
「俺たち、もう死んで天国にいるのか……?」
現代日本の自衛隊員たちは、銃を下ろし、ただただその神々しくも圧倒的な『美しき暴力』に見惚れることしかできなかった。
◇
【ただの通りすがりの『家族』】
わずか数分。
新宿を埋め尽くしていた魔獣の群れは、十人の娘たちによって完全に掃討された。
「ふぅ、終わりましたわ、パパ」
ベイラたちが、歩道橋から降りてきたライルと妻たちの元へ駆け寄る。
「ありがとう、みんな。怪我はないかい?」
「これくらいの雑魚で怪我なんてしませんわ」
ライルが娘たちの長い髪を撫でて労っていると、我に返った自衛隊の隊長が、恐る恐る近づいてきた。
「あ、あの……! 貴方たちは一体……!?
この方々(190センチの美女たち)は、神か何かで……!?」
隊長は完全にパニック状態だった。当然である。現代社会の常識がすべて粉砕されたのだから。
ライルは、少しだけ困ったように頭を掻いた。
転生者だの、次元の亀裂だのと説明しても混乱させるだけだ。
「……いや。ただの、通りすがりの家族連れですよ。
ちょっと、娘たちと『大掃除』のボランティアをしているだけです。この辺りの安全は確保したので、早く安全な場所へ避難してください」
「は、はい! ありがとうございます!!」
隊長は最敬礼をし、隊員たちと共に民間人を誘導し始めた。
彼らは何度も何度も振り返り、信じられないものを見る目でライルたちを拝んでいた。
「ふふっ。主さま、完全に神様扱いですね」
サクヤが口元を隠して笑う。
「やれやれ。……さて、この辺りの魔物は片付いたけど、次元の亀裂を塞がない限り、魔物は無限に湧いてくる。
元凶(歪みの中心)を叩きに行こうか」
ライルは、赤紫色に渦巻く空の中心――かつてスカイツリーと呼ばれていた、今は禍々しい魔力を放つ巨大な塔へと視線を向けた。
故郷への感傷などない。
あるのは、自分の家族の幸せのために負った「責任」を果たすという、真っ直ぐな覚悟だけだ。




