第51話:二つの世界の神々と、転生前の最高神の憂鬱
【転生後の世界・ローレンツ邸】
サクヤが無事に「普通の女の子」を出産し、屋敷が祝福の空気に包まれていた数日後。
突如として、サロンの空間がガラスのようにひび割れ、凄まじい神気と共に、一人の白髭の老人が実体化した。
『――浮かれるのも大概にせよ、次元の泥棒めが!!』
雷鳴のような怒声。
それこそが、ライルとサクヤが元いた世界、【転生前の世界】の最高神であった。
「……ついに来やがったか」
ライルはサクヤを背に庇い、油断なく構えた。
「ライルよ! 貴様、サクヤを救いたいからといって、あろうことかワシの管轄である『転生前の世界』から、豊穣、癒やし、戦乙女、英知の四柱の女神の概念をごっそり強奪しおって!
おかげでワシの世界の理はめちゃくちゃだ! 家族を救って、自分の故郷を崩壊させてどうする!!」
最高神の言うことは、管理者としてぐうの音も出ない正論だった。
◇
【反論その1:転生前の女神たちの魂】
ライルが言葉に詰まったその時、スッと前に出たのは、四人の妻たち(フィリア、セレナ、ミア、アナスタシア)だった。
「……最高神様。お久しぶりでございます」
第一夫人・フィリアが口を開いた。しかし、その声は普段の彼女のものであると同時に、どこか神々しく、深く透き通った『二重の音声』として響いた。
彼女たちの内に宿った**「転生前の女神たちの魂」**が、妻たちの口を借りて直接語りかけてきたのだ。
「なっ……お前たち! 正気か! なぜ人間の妻などに甘んじておる!」
最高神が目を見開く。
「甘んじているわけではありません。私たちは、自らの意思でここに残ることを決めました」
セレナ(癒やしの女神)が、静かに微笑む。
「転生前の世界では、私たちはただシステムを回すための歯車でした。
ですが、ライル様は私たちの概念を『愛する家族を永遠に守るため』に求めてくださった。……私たちは、この愛に満ちた温かい魂(妻たち)と一つになれたことを、心から誇りに思っているのです」
「旦那は、あたしたちを泥棒したんじゃない。愛で口説き落としたんだよ。
だから、悪いけどあんたの世界にはもう帰らない」
ミア(戦乙女)が、獣人の耳を揺らしてニカッと笑う。
四柱の女神たちからの、まさかの「職場放棄」と「ライルへの永久就職」宣言。
「お、おのれ……っ! 洗脳されおって!」と最高神はワナワナと震えた。
◇
【反論その2:転生後の最高神の援護】
「おいおい。他人の家の嫁を洗脳扱いとは、失礼な爺さんだな」
今度は、ライルの胸の奥から、まばゆい光のオーラが立ち上った。
ライルと同化している、【転生後の世界】の最高神である。
「て、転生後の最高神!? 貴様、なぜ人間の魂の中にいるのだ!」
転生前の最高神が驚愕の声を上げる。
「ワシはライルと意気投合してな、自ら同化したのだ!
この男は、ワシらのような古い神よりも、よっぽど世界を『幸せ』に回す力(器)を持っておる。
お前のところの女神たちが、ライルの家族の温かさに惚れ込んで移籍してきたのも無理はないわ! ガッハッハ!」
「き、貴様ぁ……! 同業者のくせに、次元犯罪の片棒を担ぐのか!」
「うるさいわ! ワシの可愛い『息子』に文句があるなら、このワシが相手になるぞ!」
ライルの体をスピーカーにして、転生前と転生後の最高神同士が、まるで親戚のオッサン同士のような次元を超えた口喧嘩を始めた。
◇
【反論その3:十人の女神たちの包囲網】
「……うるさいですわ。パパの体が疲れてしまうじゃない」
そこへ、とどめとばかりに**十人の娘たち(転生後の第一・第二世代の女神)**が動いた。
長女のベイラを筆頭に、身長190センチ、股下110センチの圧倒的なプロポーションを持つ絶世の美女たちが、転生前の最高神をぐるりと物理的に包囲したのだ。
「な、なんだお前たちは!?」
「私たちは、パパの娘。……この【転生後の世界】を管理する十柱の女神よ」
リーフェが、美しい銀髪をなびかせて冷ややかに見下ろす。
「パパが少し次元をいじったくらいで、ガタガタ騒がないでくれない?
自分の世界のシステムがバグったなら、管理者のあなたが自分で直せばいいじゃない」
ヘスティアーが腕を組み、豊満な胸を反らせて鼻息を荒くする。
「そうよ。私たちのパパは、世界で一番優しくてかっこいいんだから!
文句を言うなら、私たち全員が相手になるわよ?」
アフロディテが星空の瞳でジト目を向ける。
190センチの完璧なプロポーションから放たれる、転生後の女神十人分の圧倒的な神気プレッシャー。
そこに、四人の妻(転生前の女神)の覚悟と、同業者(転生後の最高神)からの痛烈な野次が加わる。
「ぬ、ぐぬぬ……! わ、ワシはただ、世界の管理者として真っ当なクレームを言いに来ただけなのに……っ!」
転生前の最高神は冷や汗を流し、完全にタジタジになっていた。
いくら最高神とはいえ、他所の世界に単身乗り込んできたアウェーの状況で、これだけ規格外の女神軍団(とライルの家族愛)に囲まれては、分が悪いにも程があった。
◇
【交渉成立:転生前の世界への帰還】
「……ええい、分かった! もう分かったから、ワシをその長い脚で包囲するのはやめんか! 威厳が保てん!」
転生前の最高神は大きな溜息をつき、ついに白旗を上げた。
「お前たちの家族の絆の強さは、嫌というほど思い知ったわ。
……まったく。ワシのシステムを狂わせておいて、これほどまでに清々しく『幸せだ』と断言されるとはな」
最高神は、呆れたように、しかしどこか諦めのついた顔でライルを見た。
「ライルよ。お前は本当に、とんでもない家族を持ったな」
「……ああ。僕にはもったいないくらいだ。
あんたの世界のシステムを荒らしたことは謝る。でも、僕は絶対に後悔はしていない」
ライルが、サクヤと妻たち、そして娘たちを見て、力強く微笑む。
「……ならば、その絆と力で、お前たちが開けてしまった『転生前の世界』の穴の落とし前をつけてみせよ」
転生前の最高神は再び威厳を取り戻し、厳かに告げた。
「四柱の女神が消えた影響で、転生前の世界の地上は今、かつてない異常気象と未知の魔物の発生により、滅亡の危機に瀕しておる。
……お前たち家族全員で、ワシの世界に赴き、地上で発生した問題をすべて解決してみせよ!
それができれば、女神の件は不問にしてやる!」
「転生前の地上を、救う……」
ライルは、隣に立つサクヤと顔を見合わせた。
そこは、自分たちがかつて絶望と戦い、追放され、そして出会った故郷。
「やってやるさ。……自分の世界の尻拭いなら、当然だ。なあ、みんな?」
ライルが振り返ると、妻たちも、十人の娘たちも、頼もしく頷き返した。
「パパの尻拭いなら、任せてくださいな!」
「パパとママの故郷、私たちがピカピカにお掃除してあげる!」
こうして、二つの世界の神々を巻き込んだ大激論の末、ライル一家の新たな目的が決定した。
下の子(普通の赤ん坊たち)を、最強の留守番部隊(元・聖光教会のガニスたち)に託し。
いよいよ次回。ライル、サクヤ、四人の妃、そして十人の規格外の女神娘たちによる、前代未聞の**「家族総出の【転生前の世界】カチコミツアー」**が幕を開ける!




