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神への階と十五柱の花嫁  作者: 輝夜月愛


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第50話:ただいま、永遠の家族。そして次元の彼方の胃痛

【ローレンツ領・屋敷の寝室】


天界での「システム・アップデート」を終え、ライルと五人の娘たちが屋敷に帰還した夜明け。

四人の妻たち――フィリア、セレナ、ミア、アナスタシアの寝室は、淡く神々しい光に包まれていた。


「……んん……」


第一夫人・フィリアが、ゆっくりと目を覚ます。

隣のベビーベッドで眠る赤ん坊の規則正しい寝息を聞き、ホッと安堵の息を吐いた瞬間、彼女は自身の体に起きている「決定的な変化」に気がついた。


「……体が、羽のように軽い。それに、この奥底から湧き上がってくるような温かい力は……?」


フィリアだけではない。

エルフのセレナ、獣人のミア、魔族のアナスタシアも、それぞれの部屋で自身の両手を見つめ、驚愕に目を見開いていた。

彼女たちの魂には、異世界からライルが強引に引っ張ってきた「女神の神格」が定着していたのだ。


そこへ、扉が開いてライルが飛び込んできた。


「みんな! 無事か!」


「ライル様……! いえ、それより、私の体が……」

「へへっ、ライル。あたし、なんだか山を三つくらい素手で砕けそうな力が湧いてるんだけど……これって?」


ライルは、戸惑う妻たちを一人ずつ、強く、強く抱きしめた。


「もう大丈夫だ。……君たちの寿命の壁はなくなった。

フィリアも、セレナも、ミアも、アナスタシアも。……これからは僕や娘たちと同じ、永遠の時間を一緒に生きられるんだ」


その言葉の意味を理解した瞬間、妻たちの目から大粒の涙が溢れ出した。

夫や娘たちを置いて先に老い、死んでいく恐怖。夜な夜な彼女たちを苦しめていたその絶望は、ライルの規格外の「幸運」と「愛」によって、完全に打ち砕かれたのだ。


「ああ……ライル様……!」

「パパー! ママたち、ピカピカしてるー!」


190センチの長身と美しい髪をなびかせる十人の娘たちも寝室に雪崩れ込み、妻たちに抱きつく。

ライルの胸の奥底では、同化した元・最高神が『おおお……家族の団欒……尊い……』と感涙にむせいでいた。



【月下のバルコニー、再び】


妻たちと娘たちの歓喜の輪から少し離れ、ライルは再びバルコニーへと出た。

そこには、桜色の薄絹を纏ったサクヤが、夜明けの空を見上げて立っていた。


「……主さま」


サクヤが振り返る。

その体は、もう少しも透けてなどいなかった。

神のシステムが書き換わったことで、彼女の神格が削られる現象は完全にストップしたのだ。


「サクヤ……! もう、体は……」


ライルが駆け寄り、サクヤの肩を抱き寄せる。

確かな温もりと、実体。


「ええ。主さまが、世界を……理を創り変えてくださったのですね」


サクヤは、愛おしそうにライルの頬に手を当てた。


「無茶をしましたね。天界の最高神をその身に宿し、あろうことか、私の故郷である『別の異世界』の神界から、女神の概念を四つも奪ってくるなんて。

……次元を跨いだ強奪システムハックですよ、こんなこと」


「君を失うくらいなら、宇宙の法則だろうと異世界の神だろうと、全部ひっくり返してやるさ」


ライルが力強く微笑むと、サクヤは堪えきれずにライルの胸に顔を埋め、静かに泣いた。

消滅の恐怖から解放され、愛する人との「普通の子供」を無事に産むことができる。

それは、異界の女神であった彼女が、生まれて初めて手にした『何にも代えがたい奇跡』だった。


「ありがとう、私の愛しい旦那様……」

「さあ、部屋に戻ろう。……君と、新しく生まれてくる僕たちの子供のために、温かいミルクを淹れるよ」



【最強のシッター部隊(元・聖光教会)】


翌朝。

屋敷の1階では、元・枢機卿のガニスと、元・シスターのマリアたちが、テキパキと動いていた。


「マリア! 第三夫人の坊ちゃんのミルクの温度は適温か!?」

「完璧です、ガニス猊下! 第二夫人のハーフエルフのお嬢様のオムツ替えも完了しました!」

「よし! 次は第一夫人の坊ちゃんの沐浴だ! 聖水(ただの綺麗なお湯)を用意しろ!」


彼らは神を失った。

だが今、彼らの目の前には、本当に守り育てるべき「尊き命たち」がいる。

神聖魔法(物理)を駆使した彼らの育児スキルは、もはや国宝級のレベルに達していた。


「……ふふっ。あいつらがいれば、屋敷の留守はいつでも安心して任せられるな」


ライルが階段の上からその様子を見て、苦笑しながら呟いた。

その呟きが、数日後に「現実」のものとなるとは、この時はまだ知る由もなかった。



【一方、次元の彼方(サクヤの故郷)にて】


ライルの屋敷が多幸感に包まれていた頃。

次元の壁を隔てた遥か彼方――サクヤがかつて属していた「別の異世界」の神界。


荘厳な神殿の奥深くで、この世界を統べる『異世界の最高神』は、帳簿(神界システムログ)を見つめて頭を抱えていた。


「……な、無い。無いぞ!?

『豊穣』『癒やし』『戦乙女』『英知』の四柱の女神の概念データが、ごっそりと消滅しておる!?」


部下の天使が、青ざめた顔で報告に駆け込んでくる。


「最高神様! 大変です!

下界の四季が狂い、病が蔓延し、争いが絶えません!

女神様たちが突然ログアウト(次元引き抜き)された影響で、世界が崩壊しかけています!」


「分かっておるわ! 誰だ!? ワシの可愛い女神たちを、次元の壁をぶち抜いて誘拐した大馬鹿者は!!」


最高神がログを辿る。

そこに残されていたのは、かつてこの世界から次元の彼方へと転移していった一柱の女神サクヤの座標と……そこから逆流してきた、強大すぎる『幸運』と『別の最高神』の混ざり合った、とんでもない魔力反応だった。


「……サクヤか!? サクヤの旦那の仕業かァァァッ!!」


異世界の最高神は、ギリィッと歯を食いしばり、次元通信の魔法陣を起動した。


「他人の世界の女神を四人もパクっておいて、自分たちだけ幸せな家族計画を満喫するなど許さんぞ!

お前たちで、この世界の尻拭いをしてもらうからな!!」


ライル・フォン・ローレンツの幸せな日常は、長くは続かない。

次回。サクヤの無事の出産(第51話)を経て、いよいよ最強の家族総出による『異世界(嫁の実家)への出張編』が幕を開ける!


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