第49話:孤独な玉座と、神が涙した人間(ライル)の覚悟
【崩壊した天界 ~最高神の玉座~】
かつて、地上のすべてを管理していた荘厳な天界。
光も水も風も失われ、黄昏のように薄暗くなった廃墟の最奥で、**『最高神』**は一人、静かに目を閉じていた。
その背中はどこか小さく、長い年月を孤独に耐え抜いてきた老人のような、深い疲労と哀愁が漂っていた。
ゴオォォォォン……ッ!!
重く閉ざされていた天界の扉が、物理的に粉砕された。
舞い散る光の粉塵の中から現れたのは、黄金のオーラを纏ったライル。
そしてその後ろには、身長190センチ、股下110センチの完璧なプロポーションと、美しいストレートロングの髪をなびかせる五人の絶世の女神(娘)たちだった。
「……何の用だ、人間よ」
最高神は玉座から立ち上がることなく、静かに、しかし世界を圧するような威厳を持って問いかけた。
「これ以上、この空っぽの天界から何を奪う気だ?
魔法も、水も、光も、風も……ワシの妻であった魂すらも、すべてお前の家族として地上に降りてしまった。……ここにはもう、お前に与えるものなど何もないぞ」
その声には、怒りよりも深い諦観と、底知れぬ寂しさが滲んでいた。
ライルは剣を鞘に収め、まっすぐに最高神を見据えて一歩前に出た。
「奪いに来たんじゃない。……頼みがあって来た」
◇
【神の理と、人間のエゴ】
ライルは、サクヤが新しい命と引き換えに消滅しようとしていること、そして家族の寿命の格差について、包み隠さず語った。
「サクヤを救い、フィリアたち人間の妻にも永遠の命を与えて、家族全員で生きていきたい。
そのためには、枯渇したこの世界の理そのものを書き換える必要がある。……最高神、あんたの権限と力が必要なんだ」
最高神は、ゆっくりと首を振った。
「無茶を言うな。……ワシとて、神界のシステムそのものだ。
『新しい命(魂)を生み出すには、同等の神格を消費する』。それは等価交換という絶対の宇宙の法則。ワシ個人の感情でどうにかなるものではない。
それに……永遠の命だと? 人間が神の領域を欲するなど、ただの傲慢なエゴに過ぎん」
「エゴで結構だ!」
ライルが一喝する。
「愛する妻を失いたくない。子供を抱きしめたい。家族とずっと一緒にいたい。
それがエゴだと言うなら、僕は喜んで世界一の傲慢な男になる!
……最高神。あんただって、本当は分かってるはずだろ?」
ライルの鋭い言葉に、最高神の肩がビクリと揺れた。
「あんたは、この世界を愛していた。
地上を見守り、神々という『家族』を愛していたからこそ……みんなが地上に降りてしまっても、たった一人でこの玉座に残り、崩れゆくシステムを最期まで支えようとしていたんじゃないのか?」
図星だった。
最高神は、神々が去ったことを恨んではいなかった。ただ、自らが創り上げたシステムが限界を迎え、家族が離れ離れになってしまった己の不甲斐なさを、この孤独な玉座で何万回も悔やみ続けていたのだ。
「……ワシは、失敗したのだ」
最高神が、ポツリとこぼした。
その声は、神ではなく、一人の不器用な父親のようだった。
「ワシには、すべてを縛り付けることしかできなかった。
……ライルよ。お前とワシが『同化』すれば、システムへの干渉は可能かもしれん。だが、それはワシという『個』の消滅を意味する。
それに、世界を背負う重圧は、人間の魂など一瞬で押し潰すぞ。……お前に、その覚悟があるのか?」
ライルは少しも迷わず、真っ直ぐに最高神の目を見た。
「ある。……それに、あんたは消滅しない」
「なに……?」
「僕と同化するんだ。あんたの魂は、僕の魂の中で生き続ける。
玉座に縛り付けられて世界を見下ろすんじゃなく……僕の目を通して、地上で笑う元・神々たち(家族)の姿を、一番近くで見守ればいい」
娘のベイラが、長い髪をかき上げて優しく微笑んだ。
「そうですわ。ノア(元・最高神の妻)も、今は私たちの可愛い妹として、毎日元気に遊んでおりますのよ。……お爺様も、一緒に来ませんか?」
「お前たち……」
最高神の瞳から、ボロボロと大粒の涙がこぼれ落ちた。
孤独だった。ずっと、誰かに手を引いてほしかった。
自らが縛られていた「最高神」という孤独な役割から、この不敵で愛情深い人間の青年が、力ずくで救い出そうとしてくれている。
「……ふっ、はははっ!
人間ごときが、このワシを慰め、救済しようなどと……本当に、とんでもない男だ」
最高神は玉座から立ち上がり、涙を拭って、どこか晴れやかな顔でライルに手を差し出した。
「よかろう。ワシのすべてを、お前に託す。
ライル・フォン・ローレンツよ! お前のその『傲慢な愛』で、この壊れかけた世界を、もう一度創り直してみせよ!!」
ライルは力強く頷き、最高神の手をガッチリと握り返した。
カァァァァァァッ……!!!
最高神の体がまばゆい光となり、ライルの胸の奥深くへと溶け込んでいく。
重圧は凄まじかった。だが、ライルは歯を食いしばり、娘たちの支えを受けながら、そのすべてを自身の「幸運」の器で受け止めた。
二つの魂が完全に融合し、ライルは**『新世界の神王』**へと至った。
◇
【異世界の女神召喚と、新システムの構築】
「……力が、満ちてくる。ありがとう、最高神(相棒)」
ライルの魂の奥で、『うむ、任せたぞ』という温かい声が響いた気がした。
神王となったライルは、両手を虚空にかざした。
狙うのは、サクヤの故郷である「別の異世界」。
「開け……次元の門!!」
空間が裂け、光の道が繋がる。
ライルは、サクヤの故郷の神界から、純粋な「女神の神格(エネルギー概念)」を四つ、こちらの世界へと引き寄せた。
「パパ! これを、ママたち(妃)に……!」
娘たちが祈りを捧げる。
「ああ! 届けェェェッ!!」
ライルが放った四つの神格は、光の流星となって地上へ降り注ぎ、ローレンツ邸で眠るフィリア(人)、セレナ(エルフ)、ミア(獣人)、アナスタシア(魔族)の胸にそれぞれ宿った。
これにより、四人の妻は「神王の眷属(新たな女神)」へと進化を遂げる。
種族の寿命という枷は外れ、誰もが同じ永遠の時を歩めるようになったのだ。
「……そして、最後はサクヤ!」
ライルは、新世界のシステムを構築し直す。
最高神の権限を使い、『女神が命を産めば消滅する』という旧時代のルールを完全に書き換え、『世界の外側からエネルギーを循環させる』新たな理を定着させた。
『システム・アップデート完了』
神界の跡地に、温かく、命の息吹に満ちた新しい風が吹き抜けた。
「……終わった。全部、守り抜いたぞ」
ライルが安堵の息を吐き、膝をつく。
「パパ! かっこよかったですわ!」
「さすが、私たちのパパ!」
190センチの美しい娘たちが、歓声を上げてライルに抱きつく。
ライルの胸の奥底では、もう孤独ではない元・最高神が、その温もりに包まれて静かに微笑んでいた。
こうして、愛する妻の消滅と、家族の別離という残酷な運命は、ライルの決意と最高神の「人間らしい」譲渡によって完全に打ち砕かれた。
いよいよ次回、真の幸せを手にした家族が迎える、サクヤとの「普通の子供」の誕生編へと続きます。




