第44話:女神たちの絶対宣言と、パパの新たな胃痛
【ローレンツ領・屋敷のバルコニー】
正門前を埋め尽くす、数百人の貴族たちと白馬の馬車。
「どうか! どうか麗しの姫君たちとのお見合いを!」
「我が家の財力のすべてを賭けて!」
狂騒に包まれる中、屋敷の2階のバルコニーの扉が、静かに開いた。
「……騒がしいですわね。パパが困っているじゃない」
その声が響いた瞬間、数百人の貴族たちが一斉に息を呑み、静まり返った。
バルコニーに姿を現したのは、成長(羽化)を遂げた十人の娘たちだった。
身長190センチメートル。
その半分以上(股下110センチ)を占める、すらりと伸びた神の造形美たる脚。
誰もが平伏する八頭身の完璧なプロポーション(ナイスバディー)。
そして、朝日に透けるような、腰まで届く艶やかなストレートロングの髪が、風に揺れている。
金、銀、琥珀、漆黒、星空。真紅、翡翠、真珠、瑠璃、そして紫水晶。十色の美しいストレートヘアが並び立つ光景は、もはや絵画や彫刻すらも凌駕する「美の暴力」だった。
「おおお……! 美しい……!」
「女神だ……本物の女神が降臨されたぞ……!」
貴族たちが次々と膝をつき、感涙を流す。
王太子からの使者も、そのあまりの神々しさに持っていた求婚状を取り落とした。
◇
【拒絶の儀式 ~人間に女神は飼えない~】
長女である氷の女神・ベイラが、バルコニーの手すりに優雅に手を置き、冷ややかな、しかし甘い毒を含んだ声で見下ろした。
「皆様。遠路はるばる、私たちに求婚しに来てくださったこと、光栄に思いますわ。
……ですが、私たちを妻に迎えるということは、それなりの『覚悟』がおありなのでしょうね?」
「も、もちろんでございます! 全財産を投げ打ってでも、貴女様を幸せに……!」
侯爵家の当主が叫ぶ。
「財産? ……ふふっ」
ベイラが扇子で口元を隠し、クスクスと笑った。
「私たち、すでに北の帝国から南の魔境、東の海、そして魔界まで、世界中の国々を『自分のお庭』として所有しておりますのよ?
人間の財産など、私たちにとっては路傍の石ころと同じですわ」
「うぐっ……!」
貴族たちが言葉に詰まる。圧倒的な資産格差である。
続いて、炎の女神・ヘスティアーがバルコニーから身を乗り出し、長い脚を組んだ。
「それにさ、あたしたちの旦那さんになるなら、当然あたしたちより強くないとダメだよね?
……あたしと腕相撲して、この白炎(神炎)に一秒でも耐えられる人、いる?」
ヘスティアーの指先から、空間を歪ませるほどの超高温の白炎が立ち上る。
「ひぃぃっ!?」
最前列の貴族たちの眉毛がチリチリと焦げ、後ずさる。
「森の精霊一万匹を束ねられる?」とリーフェが微笑む。
「重力100倍の部屋で、私とお茶会してくださる?」とヘカッテが妖艶に首を傾げる。
誰も何も言えない。
彼女たちは、見た目こそ絶世の美女だが、その本質は「国家を単騎で滅ぼせる歩く災害(神)」なのだ。
人間の男が養えるような存在では、決してない。
◇
【女神たちの絶対宣言】
静まり返る群衆に向かって、最後にアフロディテが、星空の瞳を細めてとどめを刺した。
「それにね、おじ様たち。
私たちにはもう、心に決めた『たった一人の殿方』がいるの」
「な、なんだと……!? い、一体どこの国の王族ですか!」
十人の女神は顔を見合わせ、そして、後ろの部屋で胃を押さえて隠れていたライルを、強引にバルコニーへと引っ張り出した。
「「「私たちのパパ(創造主)よ!!」」」
「……は?」
群衆の頭上に、巨大なクエスチョンマークが浮かんだ。
ライルは冷や汗を滝のように流しながら「や、やめろお前たち!」と抵抗するが、身長190センチの女神十人にガッチリとホールドされ、逃げられない。
「いいこと? 私たちの魂も、体も、すべてはパパのもの。
パパの『幸運』と繋がっていなければ、私たちは神格を保てないの。
だから、他の人間のところに嫁ぐなんて、絶対にありえないのよ!」
ベイラがライルの腕に豊かな胸を押し当てながら、高らかに宣言する。
ヘスティアーもライルの背中に抱きつき、長い脚を絡ませた。
「そういうこと! あたしたちは永遠にパパの『専属巫女』として、この家で生きていくの!
だから、もう二度と変な手紙を送ってこないでね!」
「あ、ああ……なんということだ……」
「我々は、神王の聖域に足を踏み入れてしまったというのか……」
貴族たちは絶望に打ちひしがれた。
相手が他国の王子ならまだしも、「彼女たちを創造した神」が相手では、勝ち目など万に一つもない。
「撤収だ……。我々では、あの女神たちの熱にすら耐えられん……」
白馬の馬車が、次々とローレンツ領から逃げるように去っていった。
◇
【そして始まる、家族内の新たな戦争】
「……ふぅ。これで静かになりましたわね」
ベイラが満足げに長い髪を払う。
バルコニーには、ライルと十人の娘たちだけが残された。
ライルは、放心状態からハッと我に返り、自分に密着している五人の娘たちを引き剥がそうとした。
「お、お前たち! なんてことを言うんだ!
専属巫女ってなんだ! 僕はパパだぞ!?」
「パパはパパですわ。でも、血は繋がっていませんし、私たちは神ですから、人間の倫理は適用されませんのよ?」
ベイラが、長い脚を交差させ、悪戯っぽくライルの胸元に指を這わせる。
その大人びた色香は、かつての幼女のものとは次元が違った。
「そ、そうだよ! あたしたち、もう大人だもん! パパのお嫁さんになれるもん!」
ヘスティアーが顔を真っ赤にしながら背中から離れない。
「ちょ、ちょっと待て! サクヤ! フィリア! 止めてくれ!」
ライルが助けを求めると、部屋の奥で紅茶を飲んでいた妻たち(母親たち)が、クスクスと笑いながら歩み寄ってきた。
「ふふ。主さま、諦めてくださいな。
あの子たちの神格は、貴方の魂を『錨』にしてこの世界に留まっているのです。
離れられないのは、物理的にも、魂の構造的にも事実なのですよ」
サクヤが、ライルの頬にそっとキスをした。
「それに、あんな美しい女神たちに愛されるなんて、男冥利に尽きるでしょう?」
「……僕の胃壁の厚さには限界があるんだが」
「あら、大丈夫ですわ。胃薬なら私が調合しますもの」
エルフのセレナが優しく微笑む(目が笑っていない)。
かくして、外部からの求婚者という脅威は去った。
しかし、ライル・フォン・ローレンツの真の試練はここから始まる。
身長190センチ、股下110センチ、絶世の美貌とストレートロングの髪を持つ十柱の女神たち。
彼女たちが全力で仕掛けてくる「パパへの猛烈なアピール(誘惑)」を、最強の妻たちの監視下で、いかにして躱し、父親としての威厳を保つのか。
世界を救うよりも過酷な、「ローレンツ家・絶対防衛戦」の火蓋が切って落とされたのである。




