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神への階と十五柱の花嫁  作者: 輝夜月愛


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第40話:神々の幼稚園卒業、そして王立学園へ

【ローレンツ領・家族会議】


「……というわけで。お前たちには明日から、王都の『王立初等学園』に通ってもらいます」


ライルが腕を組みながら宣言すると、並んで座っていた第一世代の娘たち(8歳のベイラ、リーフェ、ヘスティアー、ヘカッテ、そして特例で7歳のアフロディテ)が、ポカンと口を開けた。


「がくえん?」

ヘスティアーが首をかしげる。


「パパ。私たち、もう世界中のお庭(国)を持ってるのよ? 今さらお勉強なんて必要ありませんわ」

ベイラが優雅に紅茶を飲みながら反論する。


そこへ、サクヤが静かに、しかし絶対的な威圧感(笑顔)を漂わせて前に出た。


「ベイラ。では質問です。……王都で売っているパン一つ、銅貨何枚で買えるか知っていますか?」


「え? ……金貨100枚くらいですの?」


「ブッブー。銅貨3枚です。

ヘカッテ、お友達と喧嘩した時、相手の存在を重力で消し飛ばす以外の仲直りの方法は?」


「……パパに泣きつく?」


「それも違います。……はぁ」


サクヤはわざとらしく溜息をついた。


「主さま。この子たち、魔法の威力は神話級でも、常識はスライム以下です。

このままでは、ただの『はた迷惑な暴君』になってしまいます」


「うぐっ……」

娘たちが図星を突かれて言葉に詰まる。


「そこで、学園です」

ライルが立ち上がり、五人にそれぞれ「銀色の指輪」を渡した。


「これはママ(サクヤ)が作った特別な魔力封じの指輪だ。

学園にいる間は、お前たちの神話級の力は『同年代のちょっと優秀な子供』レベルにまで制限される。

……力に頼らず、同年代の友達を作り、人間の心を学んでおいで」


「ええーっ!?」


こうして、最強の幼女たちの、波乱に満ちた(そして大幅にデバフをかけられた)学園生活が幕を開けた。



【王都・王立初等学園】


数日後。

身分を隠し、「ローレンツ公爵家の遠縁の貴族」という設定で編入した五人。

初日から、彼女たちはかつてない「困難」に直面していた。


「な、なんだあの生意気な平民上がりの連中は!」


学園のサロンで、高位貴族のぽっちゃりした少年(侯爵家のドラ息子)が、五人を睨みつけていた。

遠縁の田舎貴族だと思い込み、マウントを取ろうとしてきたのだ。


「おいお前ら! 僕の靴を磨け! さもないと退学に……」


「……燃やしていい?」

ヘスティアーが指先から火花(ただしマッチの火程度)を出そうとする。


「ダメよヘスティアー! パパと約束したでしょ!」

リーフェが慌てて止める。


「ちっ……指輪のせいで、重力が全然重くならない」

ヘカッテが舌打ちする。


ドラ息子は、彼女たちが怯えていると勘違いし、ニヤニヤと近づいてきた。

「なんだ? 逆らう気か? 僕は剣術の大会で優勝したことがあるんだぞ!」

少年が木剣を構える。


普段なら、呼吸をするだけで消し飛ぶ相手。

しかし今の彼女たちは、魔力をほぼ封じられている。


(……力に頼らず、解決する)


長女であるベイラが、スッと前に出た。

「いいですわ。相手をして差し上げます。……ただし、魔法はなし。剣術だけで」


「ハッ! 女の細腕で僕に勝てるか!」


ドラ息子が木剣を大上段から振り下ろす。

だが、ベイラは一歩も引かない。

魔力は封じられていても、彼女の**「動体視力」と「神の反射神経」**までは封じられていなかった。


クルリと優雅にターンし、ドラ息子の攻撃を紙一重で躱す。

そして、すれ違いざまに、木剣の柄で相手の膝裏を「トントン」と軽く叩いた。


「ああっ!?」


バランスを崩したドラ息子が、派手にすっ転ぶ。


「……力任せに振るうだけの剣など、ただの棒切れと同じですわ」


ベイラが木剣の切っ先を、倒れた少年の喉元にピタリと止める。

一切の魔法を使わず、純粋な技術と身体捌きだけの「完全勝利」。


「ひ、ひぃぃっ! ま、参りましたぁ!」


周囲の生徒たちから、ワァァッ! と歓声が上がる。

「すごい! あの侯爵家の子を、剣術だけで!」

「あの子たち、かっこいい……!」


ベイラはふうと息を吐き、木剣を下ろした。


(……不思議ね。魔法で凍らせるより、ずっと清々しい気分だわ)


ヘスティアーたちも、駆け寄ってきてベイラを褒め称える。

力を使わなくても、問題は解決できる。

彼女たちは、人間社会の「真っ当なルールのスリル」を、少しだけ理解し始めていた。



【その頃、ローレンツ邸・執務室(B面の始まり)】


「……ふふ。どうやら、初日は無事に上手くいったようですね」


サクヤが、水鏡(遠見の魔法)を閉じながら微笑んだ。


「ああ。ベイラが我慢してくれて助かったよ。あそこで魔法を使ってたら、学園がクレーターになってた」

ライルも冷や汗を拭いながら安堵する。


「これで、あの子たちも少しは『人間』を学んでくれるでしょう。

……さて、主さま」


サクヤの表情が、母親から「女神(相棒)」の顔へとスッと切り替わった。

彼女の手には、一通の黒い封筒が握られている。


「娘たちがお勉強している間に、大人は大人の仕事を片付けましょうか」


「……どこからの救援要請だい?」


「南方の旧ガレリア帝国領(ベイラが凍らせた国)の隣国です。

……ベイラが強引に気候を『冬』に固定したせいで、隣国の水源が干上がり、数万の民が干ばつで死にかけているとのこと」


ライルの顔が引き締まる。

これこそが、娘たちの「力任せの解決」が引き起こした「世界のバグ(シワ寄せ)」だ。


「わかった。すぐに出発しよう。

……水を生み出すだけじゃダメだ。根本的な地形の魔力脈から、穏やかに解きほぐして直さないと」


「ええ。主さまの『幸運』と、私の『神力』……そして、今回はエルフの森の理を知るセレナにも手伝ってもらいましょう。

……力で壊すのではなく、知恵で世界を紡ぎ直すのです」


最強の夫婦が、娘たちの尻拭い(世界規模の環境修復)のために静かに立ち上がる。

派手な破壊はない。だが、そこには神すらも唸らせる「大人の知恵と優しさ」があった。


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