表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神への階と十五柱の花嫁  作者: 輝夜月愛


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/42

第41話:枯れた大地と、大人たちの静かなる修復術

【南方の干ばつ国・カルディア ~ひび割れた大地~】


北の軍事帝国ガレリアが、長女ベイラによって永遠の「氷の避暑地」と化してから数週間。

そのしわ寄せは、南に隣接する小国カルディアを容赦なく襲っていた。


北からの冷気によって上空の気流が完全に停止し、雨雲が消滅。

さらに、ベイラが地脈の魔力までをも凍結させてしまったため、地下水脈が干上がり、大地は亀裂だらけの荒野と化していた。


「……水だ。泥水でもいい、誰か……」


王都の広場で、倒れ伏す民衆たち。

国王もまた、ひからびた唇を噛み締め、絶望の空を見上げていた。


「もはやこれまでか……。神々が消えた今、この異常気象を鎮める術など……」


その時だった。

砂埃の舞う王都の正門から、三人の人影が静かに歩みを進めてきた。


黒いコートを羽織った金髪の青年、ライル。

桜色の神気を微かに纏う絶世の美女、サクヤ。

そして、薄緑のヴェールで顔を隠しつつも、高貴なエルフのオーラを放つセレナ。


「ひどい有様だな……。ベイラの氷魔法が、ここまで広範囲の生態系を狂わせるとは」

ライルがひび割れた地面に触れ、痛ましげに目を伏せる。


「あの子は『冷気』という概念そのものを固定してしまいましたからね。

……さあ、急ぎましょう。力で氷を砕けば、今度は大洪水が起きてしまいます。ここは丁寧に解きほぐさなくては」

サクヤが冷静に状況を分析する。



【作戦開始:力ではなく、知恵とことわりで】


三人は、干上がった王都の巨大な貯水湖の跡地へとやってきた。


「セレナ。地脈の声は聞こえるかい?」

ライルが尋ねると、セレナはヴェールを取り、《精霊姫の艶衣》の姿となって干上がった湖底に裸足で降り立った。


「……ええ。微かにですが、地の底で精霊たちが震えながら丸まっていますわ。

北からの『絶対零度の呪縛』に怯え、水の循環を止めてしまっているのですね」


セレナはそっと目を閉じ、両手を広げた。

エルフの姫として、そして進化した森と風の支配者として、彼女は魔力で無理やり水を引き上げるような野蛮な真似はしない。


「……大丈夫ですよ。もう怖くありません。

冷たい氷の鎖は、今から私たちが解いてあげますから」


セレナの優しく、母親のような声が地脈へと浸透していく。

自然との対話。精霊たちの緊張が、彼女の慈愛によって少しずつ解れていくのが分かった。


「見つけましたわ。……水源を塞いでいる、概念の『結びバグ』を」


「よし、僕たちの出番だ。サクヤ、合わせられるか?」

「ええ、もちろん。主さまのミリ単位の操作、しっかりサポートします」


ライルは腰の剣を抜かなかった。

代わりに、サクヤと手を繋ぎ、もう片方の手を天へと掲げた。


「行くぞ……。《事象乖離じしょうかいり》」


サクヤの女神としての権能が、ベイラが残した「氷の因果律」を一時的に浮かび上がらせる。

それは、空と大地を縛る、目に見えない強固な氷の鎖だった。


普通なら、この鎖を力任せに破壊するしかない。

しかし、それでは衝撃で国が一つ吹き飛んでしまう。


そこでライルは、自身の「幸運値:測定不能」を、**「針の穴を通すような精密な確率操作」**として行使した。


「ここだ……! 氷の結び目が、一番自然に『解ける』確率を……100%に固定する!」


ライルの手から放たれた目に見えない「幸運の波」が、サクヤの神気をまとって鎖の結び目へと侵入する。

無理やり引きちぎるのではなく、知恵の輪を解くように。

絡み合った世界のバグを、スルスルと、音もなくほどいていく。


――カチャリ。


世界が、小さく安堵の息を吐いたような音がした。



【静かなる奇跡、そして恵みの雨】


「結び目が解けましたわ! 精霊たち、今です!」


セレナが天に向かって舞うように両手を掲げた。

その瞬間。


ゴオォォォォォッ……!!


ひび割れた大地の下から、かつての豊かな水脈が、歓喜の産声を上げるように湧き出してきた。

それは濁流ではなく、セレナの制御によって美しく澄み切った清流となり、枯れた湖を瞬く間に満たしていく。


さらに、上空でサクヤが指を弾く。

「停滞していた風よ、巡りなさい」


北からの冷気が中和され、暖かな南風が吹き込む。

急速に冷やされた大気が雲を作り――。


ポツリ。


王都の広場で倒れていた国王の頬に、冷たい滴が落ちた。


「……あ、雨……?」


ポツリ、ポツリ。

やがてそれは、枯れた大地を潤す、優しくも力強い恵みの雨となった。

民衆たちがふらふらと立ち上がり、天を仰いで涙を流す。


「おおお……! 雨だ! 水が戻ってきたぞぉぉ!」

「神は、神は我らを見捨ててはおられなかった!」


歓喜の渦に包まれるカルディア王国。

その喧騒から少し離れた湖の畔で、三人は密かにその様子を見守っていた。


「……ふぅ、上手くいったな」

ライルが額の汗を拭う。剣を振るうより、よほど神経をすり減らす作業だった。


「お疲れ様です、ライル様。精霊たちも喜んでおりますわ」

セレナがライルの顔の汗を、そっとハンカチで拭う。


「ふふ、娘の尻拭いにしては、少し大掛かりな散歩でしたね」

サクヤも悪戯っぽく微笑み、ライルの腕にそっと抱きついた。


誰も、この奇跡が彼らの仕業だとは気づいていない。

世界を支配するのではなく、影から静かに支え、世界の理を調律する。

それこそが、最強の大人たちが出した答えだった。


「さあ、帰ろうか。……あいつら、学園で問題を起こしてなきゃいいけど」


ライルが苦笑しながら空間の扉を開く。

力を使わず、知恵と大人の余裕で世界を救った最強の夫婦(とエルフの姫)は、誰に称賛されることもなく、静かに日常へと帰っていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ