第36話:魔界への里帰り ~クーデター鎮圧と、お爺ちゃん(魔王)の決断~
【魔界・魔王城「パンデモニウム」】
空が紫色に染まる異界、魔界。
その中心にある魔王城は今、黒煙に包まれていた。
「グハハハ! 見よ! 軟弱な魔王は堕ちた!」
玉座に座り、勝鬨を上げているのは、魔族軍の強硬派筆頭、将軍ザガン。
彼は先代からの重臣たちを幽閉し、現魔王(アナスタシアの父)を地下牢へと追いやっていた。
「人間ごときと融和だと? 笑わせる!
我ら魔族こそが至高!
これより地上へ侵攻し、レギュラント王国を火の海にしてくれるわ!」
広場を埋め尽くす数万の魔族兵たちが、ウォーッ! と雄叫びを上げる。
彼らは知らなかった。
自分たちが喧嘩を売ろうとしている相手が、**「神々すら逃げ出す最強の一族」**であるということを。
◇
【王城上空・次元の裂け目】
ザガンが侵攻命令を下そうとした、その時。
バリリリリリッ……!!
魔界の空が、ガラスのように砕け散った。
次元の裂け目から、優雅な馬車(重力魔法で浮遊中)が現れる。
御者台に座るのはライル。
そして、馬車から降り立ったのは――。
「……あらあら。久しぶりに帰ってみれば、随分と汚れてしまいましたわね」
漆黒のゴスロリドレスに身を包み、濡れたような黒髪をなびかせる美女。
第四夫人・アナスタシア(魔族形態・完全版)。
「ママ、ここが実家?」
「暗くて、重くて……うん、いい感じ」
その隣には、黒いドレスを着た愛らしい少女。
アナスタシアの長女、ヘカッテ(8歳)。
「な、なんだ貴様らは!? 侵入者か!?」
ザガンが立ち上がる。
アナスタシアは優雅に扇子を開き、冷徹な瞳で元・部下を見下ろした。
「お久しぶりですわね、ザガン。
……私の父、魔王陛下はどこかしら?」
「あ、アナスタシア姫だと!?
フン、人間界へ嫁いだ裏切り者が!
陛下なら地下牢だ。すぐに貴様も送ってや――」
「……黙りなさい」
アナスタシアが指を一本、クイクイと動かした。
ズドォォォォン!!
ザガンを含む、広場にいた数万の兵士たちが、一斉に地面に叩きつけられた。
重力魔法ではない。《愛玩人形の糸》。
見えざる魔力の糸が、彼らの四肢を強制的に操り、「土下座」の姿勢を取らせたのだ。
「ぐ、ぐあああっ!? 体が……動かん!?」
「私の庭(実家)で、大きな声を出さないでくださる?
……ヘカッテ、掃除をお願い」
「はーい、ママ」
ヘカッテが前に出る。
8歳の少女は、無邪気な笑顔で、とんでもない魔法を行使した。
「《ブラックホール・スイーパー》」
ヘカッテの掌に小さな闇の球体が生まれる。
それは強烈な吸引力を発し、ザガンたちの武器、鎧、そして戦意を根こそぎ吸い込んで消滅させた。
「ひぃぃぃッ!? 武器が! 鎧が! パンツ一丁に!?」
「ママー、綺麗になったよー」
「ええ、偉いわヘカッテ」
戦闘時間、約30秒。
クーデターは、母娘の「お掃除」によって鎮圧された。
ライルは馬車の上で、「僕の出番、また無しか……」と遠い目をしていた。
◇
【地下牢・魔王との再会】
クーデター部隊を絨毯のように丸めて片付けた一行は、地下牢へと向かった。
最深部の牢獄には、やつれた老紳士――魔王が繋がれていた。
「……アナスタシアか? それに、その子は……」
「お父様! ご無事ですか!」
アナスタシアが魔力で鉄格子を消し飛ばし、父に駆け寄る。
魔王は娘の姿を見て涙ぐんだが、その視線はすぐに足元の少女に釘付けになった。
「……もしや、孫か? わしの孫娘か!?」
「初めまして、お爺様。ヘカッテです」
ヘカッテがスカートの裾をつまんでカーテシー(挨拶)をする。
その瞬間、魔界の王の威厳は崩壊した。
「おおお! なんて可愛いんだ! 目元がワシにそっくりじゃ!」
「お爺様、よしよし」
「ふごぉぉッ! 孫に撫でられたぁぁッ!」
魔王、陥落。
ライルが苦笑しながら回復魔法をかけると、魔王はシャキッと立ち上がり、ライルに向き直った。
「……ライル殿と言ったな。
娘を……いや、孫を連れてきてくれて感謝する。
まさか、たった数人で反乱軍を制圧するとはな」
「いえ、僕は何も……。妻と娘が強すぎまして」
「……うむ。魔界の男どもよりよほど強い」
魔王は溜息をつき、寂しげに天井を見上げた。
「ワシはもう、疲れたよ。
部下の裏切りにも、魔界の統治にもな。
……ライル殿。相談がある」
◇
【魔王城・玉座の間(再)】
数時間後。
鎮圧されたザガンたちが縛り上げられ、魔王が玉座に復帰した。
だが、魔王は宣言した。
「皆の者、聞け!
本日をもって、ワシは魔王を引退する!」
ざわめく広場。
「で、では次はどなたが!?」
「次期魔王は指名しない!
この魔界は……本日より、**レギュラント王国の『自治区』**となる!」
「「「はぁぁぁぁッ!?」」」
全魔族が驚愕する中、魔王はヘカッテを膝に乗せてニッコリ笑った。
「ワシはこれから、娘婿のライル殿の屋敷で『隠居』することにした!
孫の成長を見守りながら、余生を過ごすのじゃ!
文句がある奴は、そこにいるアナスタシアとヘカッテが相手をする!」
殺気立つアナスタシアとヘカッテ。
「……文句、あります?」
「……お掃除しちゃう?」
全魔族が首を横に振った。
「あ、ありません! 賛成です! レギュラント王国バンザイ!」
◇
【結末:魔界併合】
こうして、魔界は歴史上初めて、人間国家の領土(飛び地)となった。
表向きは「同盟」だが、実質はライルの管理下にある。
ライルの書斎には、また一枚、新しい地図が加わった。
『魔界全域(アナスタシアの実家)』。
「……広すぎるよ」
ライルが頭を抱えていると、アナスタシアが紅茶を運んできた。
「あら、いいじゃありませんか。
魔界の特産品は豊富ですし、魔族たちは優秀な労働力になりますわ。
それに……」
アナスタシアは妖艶に微笑み、耳元で囁いた。
「これで、お父様も屋敷に来て、子守をしてくださいます。
……二人きりの時間が、もっと増えますわよ?」
「……!」
それは魅力的だ。
ライルは観念した。
世界征服も、魔界併合も、すべては「家族の幸せ」のため。
そう思えば、悪くない。
「……わかったよ。魔王様の部屋、用意しておかないとな」
「ふふ、愛していますわ、旦那様」




