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神への階と十五柱の花嫁  作者: 輝夜月愛


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第30話:干上がる神界と、シスターたちの涙の就職活動

【ローレンツ領・昼下がりのティータイム】


穏やかな午後。

庭では、元・枢機卿ガニス率いる「造園部隊」が、必死の形相で雑草と格闘していた。

その横で、エルフの第二夫人・セレナが、ふと紅茶の手を止めた。


「……あら?」


「どうしたの、セレナ?」


ライルが尋ねると、セレナは不思議そうにお腹をさすった。


「……二人目を、授かりましたの。

でも、不思議ですわ。森の精霊ではなく……遠くの『海』が呼んでいるような気がします」


「海?」


セレナはエルフ(森の民)だ。本来なら森の精霊が祝福するはずだが、彼女の周囲には潮騒のような音が響き、ティーカップの水が勝手に踊りだした。


「……名前は、もう浮かんでいます。

ユリィナ。“海の加護”を受けし子」


その瞬間、屋敷の池から巨大な水柱が上がり、キラキラと輝く虹がかかった。



【天上界・第三セクター【海洋の座】】


ズゴゴゴゴゴ……ッ!!


神界にある巨大なプール(海洋管理エリア)の水位が、猛烈な勢いで下がり始めた。


「ほ、報告ゥゥッ!!

水位低下! 水位低下!

水の女神ルシェラ様が……排水溝に吸い込まれるように消えていきますぅぅッ!!」


「な、なんだとぉぉぉ!?」


議長の天空神ゼウス(仮称)が、浮き輪を抱えて絶叫した。


「ま、待て! ルシェラは私の『避暑地担当』だぞ!

彼女がいなくなったら、地上の海はどうなる!?

潮の満ち引きは!? 海鮮丼の具材は!?」


「知りませんよぉぉ!

あ、あああ……ルシェラ様の手が! 足が!

……完全に排水(転生)されました!!」


ジュボッ!!


最後の一滴まで絞り取られるように、水の女神が消滅した。

神界のライフライン、「魔法フレイヤ」、「アウロラ」に続き、今度は「ルシェラ」が止まったのだ。


「水がない……。

風呂に入れないじゃないか……」


神々は干上がったプールで膝を抱えた。

ライルの家族計画は、神々のQOL(生活の質)を著しく低下させていた。



【地上・聖光教会本部(廃墟)】


一方、地上。

枢機卿たちが「草むしり」に出奔した後、教会に残されたのは、下っ端の神官と、生活を支えていたシスター(修道女)たちだった。


礼拝堂には、寒風が吹き荒れている。


「……シスター・マリア。今日の献金は?」

「ゼロです。……信者さんたちは皆、『神頼みよりライル頼み』と言って、ローレンツ領へ巡礼に行ってしまいました」


シスター長のマリア(20代後半・苦労人)は、空っぽの金庫を見て溜息をついた。

神聖力が消え、奇跡が起きなくなった教会に、寄付をする者はいない。


「ガスも止まりました。パンもありません。

……私たち、どうしましょう?」


若いシスターたちが涙目で訴える。

彼女たちは、祈ることと清掃することしか教わっていない。

一般社会で通用するスキルといえば、「懺悔を聞くこと」くらいだ。

だが、今の世の中、懺悔したい奴より金を借りたい奴の方が多い。


「……決断しましょう」


マリアは立ち上がった。

その手には、枢機卿ガニスが書き残した『置手紙(行き先:ローレンツ領)』が握りしめられている。


「私たちも行きます。

プライドで腹は膨れません。

……神に仕えるのが無理なら、**『神(転生した赤子)の世話』**をするまでです!」


「「「ついていきます、お姉様!!」」」


こうして、数百人のシスターたちが、純白のヴェールをなびかせて大移動を開始した。

それは「聖歌隊」の行進ではない。

職安ハローワークへの行軍」だった。



【ローレンツ領・屋敷前】


数日後。

ライルの屋敷の前に、数百人のシスター集団が現れた。

その光景は圧巻だが、彼女たちの目は「飢えた狼」のように鋭い。


「ごめんください! こちらで求人はありませんか!?」

「掃除、洗濯、おむつ交換、なんでもやります!」

「給料は現物支給(野菜)で構いません!」


門番をしていた元・枢機卿ガニスが、泥だらけの顔で振り返る。


「む、その声は……シスター・マリアか!?」


「……あ」


マリアは絶句した。

かつて雲の上の存在だった最高指導者ガニス猊下が、泥にまみれ、腰にタオルをぶら下げ、一心不乱に雑草を抜いている。


「げ、猊下……。そのようなお姿に……」


「見るな! 見るなマリア!

私は今、ただの『庭師A』だ!」


ガニスは顔を覆った。

かつての威厳は、肥料と共に土に還ったのだ。


そこへ、屋敷からライルとサクヤが出てきた。


「おや? 今日はシスターさんの団体客かい?」


「いえ、違いますライル様!」


マリアが一歩前に出た。

彼女は必死だった。後ろにいる数百人の妹たちを食べさせなければならないのだ。


「私たちは……職を探しに来ました!

貴方様の屋敷には、多くの奥様と、たくさんのお子様がいらっしゃると聞きました。

……手が、足りていないのではありませんか?」


図星だった。

ライルの屋敷は現在、10人の子供(うち5人は魔の3歳児)が暴れまわる無法地帯。

専属メイドだけでは手が回らず、サクヤや他の妻たちも育児に追われていたのだ。


ライルはサクヤを見た。

「どう思う? サクヤ」


サクヤは、シスターたちをじっと観察した。

清貧を誓い、規律正しく、忍耐強い。そして何より、アフロディテやノアへの信仰心があるため、子供たちの「理不尽な奇跡」にも耐性がありそうだ。


「……採用ですね。即戦力です」


サクヤが微笑むと、マリアたちはその場に崩れ落ちて号泣した。


「あ、ありがとうございますぅぅぅッ!!」

「ご飯が食べられるぅぅ!」



【最強のメイド部隊、爆誕】


翌日から、屋敷の風景は一変した。

純白の修道服を「メイド服」に着替えたシスターたちが、屋敷中を駆け回る。


「こらヘスティアー様! 廊下で火を吹かないでください!」

「ベイラ様、お風呂を凍らせないで!」

「リーフェ様、洗濯物を木にしないで!」


彼女たちの「忍耐力」と「集団統率力」は凄まじかった。

元・枢機卿たちが庭を守り、元・シスターたちが屋敷を守る。

聖光教会は、形を変えて**「ローレンツ家・総合管理組合」**として完全復活を遂げたのだ。


「……ふぅ。これで少しは楽になるかな」


ライルが安堵の息をついた、その時。

庭の方から、ガニスの悲鳴が聞こえた。


「ぎゃあああ! 池の水が! 塩水になってるぅぅ!」


見ると、セレナのお腹のユリィナの影響で、屋敷の池が完全な「海水」に変質し、なぜかマグロが跳ねていた。


「あら、新鮮なお魚」

セレナが嬉しそうに笑う。


「……夕飯は刺身だな」


ライルは悟った。

楽になることなどない。

彼の日常は、これからもカオスと奇跡の連続なのだと。


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