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神への階と十五柱の花嫁  作者: 輝夜月愛


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第29話:魔法が消えた世界と、最強の庭師たち(元・枢機卿)

【ローレンツ領・屋敷の正門前】


ある晴れた朝。

ライルの屋敷の前に、ボロボロの法衣を纏った怪しい集団が現れた。

かつて世界を牛耳っていた聖光教会のトップ、枢機卿ガニスとその精鋭部隊(今はただの無職)である。


彼らの目は血走り、手には剣や杖ではなく、**鎌とくわ**が握られていた。


「……見ろ、総員。あれが『約束の地(ローレンツ邸)』だ」


ガニスが震える指で屋敷の庭を指差す。


「なんという神気だ……!

ただの雑草が、市場価格で金貨10枚はする『上級薬草』に変異している!

あそこのドブ水ですら、聖水以上の純度だぞ!」


「おおぉ……! あそこで呼吸するだけで、寿命が延びそうです!」

「働きたい! あそこで雑草をむしりながら、余生を過ごしたい!」


部下たちが感涙にむせぶ。

女神の加護を失い、魔法も使えず、ただの「おっさん集団」に成り下がった彼らにとって、この屋敷は唯一の救済措置ハローワークだった。


「行くぞ! プライドを捨てろ!

我々は今日から、神に仕える者ではない! **『芝に仕える者』**だ!」


「「「イエッサー!!」」」


ガニスたちが正門を突破しようとした、その時。


ズゥゥゥゥン……!!


空間が歪み、地面に巨大な重力場が発生した。


「ぐべぇっ!?」

「お、重い……!?」


地面に這いつくばる元・枢機卿たち。

その視線の先に、漆黒のゴスロリドレスを着た1歳の少女が、冷ややかな瞳で立っていた。

魔族の姫アナスタシアの娘、ヘカッテだ。


「……不審者。パパの庭に入らないで」


ヘカッテが小さな指を振り下ろすと、重力が倍増する。


「ぎゃあああ! こ、この幼児……重力魔法を無詠唱で!?」

「ま、待ってくれお嬢ちゃん! 我々は怪しい者ではない!

……いや、怪しいが! 職を探しに来た善良な労働者だ!」


ガニスが土下座(強制)状態で叫ぶ。


「……職?」


ヘカッテが首をかしげると、奥から他の姉妹たちもやってきた。


「なになにー? ヘカッテちゃん、新しいオモチャ?」

火のヘスティアーが、興味津々でガニスの髭を燃やそうとする。


「まあ、汚いお客様ですこと。洗い流して差し上げますわ」

水のベイラが、高圧洗浄機のような水流魔法を構える。


「待って! 彼ら、土の匂いがするわ。……肥料になりたいのかも!」

森のリーフェが、ガニスたちを地面に埋めようと穴を掘り始めた。


「ひぃぃぃッ! 肥料じゃない! 庭師だ! 庭師をやらせてくれぇぇ!」


絶体絶命のピンチ。

そこへ、屋敷からライルが出てきた。


「こらこら、みんな。お庭でいじめっこはいけないよ」


「あ、パパだー!」


娘たちが一斉にライルに抱きつく。

ライルは苦笑しながら、地面にめり込んでいるガニスを見下ろした。


「……君たち、懲りずにまた来たのか? 今度は空へ飛ばされたい?」


「ち、違います英雄殿!

我々は……改心しました! 貴殿の庭の雑草抜き係として、雇っていただきたいのです!」


ガニスは必死だった。

プライドも法衣も捨て、ただ「生きる場所」を求めて懇願した。


ライルは少し考え、ニカっと笑った。


「……まあ、いいか。

最近、娘たちが庭を壊すから、直してくれる人が欲しかったんだ。

ただし! 一本でも雑草を残したらクビだからね?」


「あ、ありがとうございますぅぅぅッ!!」


こうして、元・聖光教会のエリートたちは、**「ローレンツ家・専属造園部隊」**として再就職を果たした。

彼らの仕事ぶりは凄まじく、神速の鍬さばきで庭を芸術的なまでに美しく仕上げていったという。



【天上界・魔法パニック】


地上で元・枢機卿たちが草むしりに精を出している頃。

神界では、さらなる地獄が進行していた。


「報告! 地上の魔法システムに深刻なエラー発生!」

「『ファイアボール』の発動率が30%低下!

『ウィンドカッター』がただのそよ風になっています!」


魔法の女神フレイヤ(フィリアの第二子として転生済み)の消失により、世界の魔導法則が崩壊を始めていた。


議長の天空神ゼウス(仮称)は、頭を抱えていた。


「魔法使いどもからのクレーム(祈り)が止まらん!

『詠唱したのにタライが落ちてきた』だと!? 知るか!

今の魔法システムはバグだらけなんだよ!」


そこへ、新たな警報が鳴り響く。


『警告! 警告!

第三セクター【黎明の座】にて、極大の揺らぎを観測!』


「な、なんだ次は!?」


モニターに映し出されたのは、エルフの森の館。

ライルの第二夫人・セレナが、大きくなったお腹を愛おしそうに撫でている姿だった。


「……ま、まさか」


ゼウスがガタガタと震えだす。

フレイヤが消えたばかりだぞ? まさか連チャンで……?


地上では、セレナが夫であるライルに告げていた。


「……ライル様。

二人目を、授かりましたの」


その瞬間。


シュンッ……


神界の第三セクターにあった「光の柱」が、ロウソクの火を吹き消すように消滅した。

そこに座していた**【光の女神アウロラ】**が、光の粒子となって地上へ吸い込まれていく。


「ぎゃああああああああッ!!

アウロラァァァッ!! 私の『照明係』がぁぁぁッ!!」


ゼウスの絶叫が木霊する。

魔法の次は「光」だ。

世界中から「夜が明けない」「太陽が暗い」というバグ報告が殺到することは確実だった。


「……もうだめだ。

神界のライフラインが次々と切断されていく……。

あの男の……ライルの『家族愛』が、我々を殺しに来ている……!」


神々は悟った。

これは少子化対策などという生易しいものではない。

**「神界過疎化計画」**だ。



【地上・ローレンツ邸】


「……ん? 今、空がピカッと光ったような?」


庭で草むしりをしていたガニスが空を見上げる。

その横で、ヘカッテがじーっと彼を見つめていた。


「おじちゃん。サボってると……埋めるよ?」


「ひぃっ! 働きます! 働かせていただきますぅぅ!」


ガニスは、マッハで鍬を振るった。

神界の崩壊など知ったことではない。

今の彼にとっては、ヘカッテのご機嫌を損ねないことの方が、世界の存亡より重要だったのだ。


ライルの屋敷には、今日も新たな「神の卵」が宿り、庭では元・聖職者たちが汗を流す。

世界は確実に、ライルを中心に回り始めていた。


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