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神への階と十五柱の花嫁  作者: 輝夜月愛


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第27話:聖戦の幕開けと、赤ちゃんパワーによる強制退去

【ローレンツ領・屋敷前】


その日の朝、ローレンツ領の空気は張り詰めていた。

地平線の彼方から、銀色の波が押し寄せてきたのだ。

それは波ではない。数万の規模に膨れ上がった、聖光教会の全戦力――聖騎士団、神官部隊、そして異端審問官たちだった。


「……何事だ、この騒ぎは」


ライルが屋敷のバルコニーに出ると、眼下には完全武装した軍勢が展開していた。

先頭に立つのは、豪華な法衣を纏った枢機卿ガニス。

彼は拡声魔法を使い、厳かに、しかし必死の形相で叫んだ。


「――出でよ! 『調停王』ライル・フォン・ローレンツ!

我らは聖光教会、神の代行者なり!」


「朝からうるさいな。うちには乳児がいるんだ、静かにしてくれ」


ライルの言葉に、ガニスは眉をひそめたが、努めて冷静に言葉を続けた。

まずは交渉だ。相手は英雄、力押しはリスクが高い。


「……単刀直入に言おう。

貴殿の屋敷に、我らが崇める女神アルシェラ様の転生体……すなわち、貴殿の五女アフロディテ様がおられることは分かっている!」


「ほう?」


「神を……我らの『希望(飯の種)』を返していただきたい!

彼女は教会の象徴であり、世界の秩序そのもの!

一貴族の娘として育てるなど、許されることではないのだ!」


ガニスの声は悲痛だった。

女神がいなければ、聖水も作れず、奇跡も起きない。教会は倒産寸前なのだ。


「お断りだ」


ライルは即答した。


「アフロディテは僕とサクヤの娘だ。教会の道具じゃない。

それに……あの子自身が、ここを望んでいる」


「黙れぇぇぇッ!!」


ガニスの忍耐が切れた。

「就職難」への恐怖が、理性を焼き切ったのだ。


「交渉決裂だ! 総員、構え!

異端者ライルから、力ずくで女神様を奪還せよ!

邪魔する者は……例え英雄だろうと排除して構わん!!」


「「「おおおおおおッ!!」」」


数万の聖騎士が剣を抜き、神官たちが攻撃魔法の詠唱を始める。

殺気が屋敷を包み込む。

ライルの背後には、サクヤ、フィリア、セレナ、ミア、アナスタシアが戦闘態勢で控えていた。


「やれやれ……。手加減が難しそうですね」

サクヤが桜色の神気を纏う。


だが、ライルたちが動くよりも早く――


『――ウェェェェェェン!!』

『ギャァァァァァッ!!』


屋敷の奥から、けたたましい泣き声が響いた。

外の殺気と怒号に驚いた、五人の娘たちが一斉に泣き出したのだ。


「あーあ、泣かせちゃった」

ライルが肩をすくめた、その瞬間。


ドクンッ……!!


空間が歪んだ。

サクヤやライルの力ではない。

泣き叫ぶ五人の赤子たちから、とてつもない魔力と神気が暴走し、融合したのだ。


【赤子たちの思考】


ベイラ(氷):『うるさい! 冷たくしてやる!』


リーフェ(森):『静かにして! 森の彼方へ飛んでけ!』


ヘスティアー(炎):『あっち行け! 燃えちゃえ!』


フィリア小(闇):『消えちゃえ……』


アフロディテ(神):『――退去(BAN)せよ』


五つの意思が重なり、虹色の衝撃波となって屋敷から放たれた。


「な、なんだこの光は……!?」

ガニスが目を覆う。


ズガァァァァァァン!!


衝撃波は、聖騎士団数万人を優しく、しかし強制的に包み込んだ。

そして――


ヒュンッ!


音が消えた。

屋敷の前から、数万の軍勢が「一人残らず」消滅していた。

残されたのは、風に舞う数枚の羽根だけ。


「……え?」


ライルと妻たちは、ぽかんと口を開けていた。

殺すわけでもなく、傷つけるわけでもなく。

ただ純粋に、「視界から消した」のだ。



【その頃、遥か彼方の上空にて】


「うわあああああああぁぁぁぁぁッ!?」


枢機卿ガニスは、空を飛んでいた。

いや、落ちていた。

彼だけではない。数万人の聖騎士と神官たちが、まるでゴミ屑のように成層圏を舞っている。


「な、なんなのだこれはァァッ!?

転移魔法!? いや、これは『強制排除』の概念攻撃だぁぁ!」


眼下に見えるのは、見慣れたローレンツ領ではない。

遥か南の海……いや、国境すら越えた、未開の砂漠地帯だ。


「さ、酸素が……! 寒いいぃぃ!」


ヒュルルルルル……ドスッ! ドスドスドス!!


彼らは、砂丘のど真ん中に、次々と突き刺さった。

幸い(?)、アフロディテの慈悲により「死なない程度」にソフトランディングさせられたようだが、全員が逆さまに砂に埋まっている。


「……ぶはっ!」


ガニスが砂から顔を出す。

豪華な法衣はボロボロ、冠はどこかへ消え、顔は砂まみれ。

威厳など欠片もない。


「こ、ここはどこだ……?」


「猊下……あちらにサボテンが見えます……」

「おそらく、隣国のそのまた隣の、大砂漠地帯かと……」


部下たちが涙目で報告する。

帰るのに徒歩で三ヶ月はかかる場所だ。しかも、食料も水もない。


「……負けたのか? 我々は」


「はい。剣を抜く前に……赤ん坊の夜泣きで吹き飛ばされました」


シーン……。

灼熱の太陽が、彼らの絶望を照らす。


「お、おのれぇぇぇッ! 覚えておれぇぇ!

……まずは、オアシスを探すのだぁぁ!!」


「イエッサー!!」


聖光教会、全滅。

聖戦は、開始からわずか数秒で「迷子サバイバル」へとジャンル変更された。



【ローレンツ領・屋敷】


「……静かになりましたね」


サクヤがお茶を淹れ直しながら微笑む。

外には誰もいない。平和そのものだ。


「あの子たち、末恐ろしいな……」


ライルは冷や汗を拭った。

屋敷の奥からは、敵を排除して満足したのか、キャッキャと笑う声が聞こえてくる。


「まあ、これで教会もしばらくは来ないでしょう。

……遠くへ『旅行』に行かれたようですし」


アナスタシアが遠見の魔法で砂漠の惨状を確認し、クスクスと笑った。


「パパ! ママ! 抱っこ!」


部屋から這い出てきた子供たちを、ライルたちは抱き上げる。

世界最強の「家族」が、ここにある。

神界も教会も敵に回しても、この笑顔がある限り、ライルの「幸運」は無敵だ。


「さあ、おやつの時間だよ」


平和な日常が戻ってきた。

ただし、世界のどこかで数万人の聖職者がサボテンをかじっていることを除けば。


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