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神への階と十五柱の花嫁  作者: 輝夜月愛


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第26話:地上神界のシステム障害 ~404 神が見つかりません~

【ローレンツ領・ライルの屋敷】


サクヤが無事にアフロディテを出産し、母子ともに健康であるという奇跡。

その夜、サクヤは揺りかごの中で眠る我が子を見つめながら、隣にいるライルに静かに語りかけた。


「――あなたの“幸運”は、運命を越えてしまったのね。

私を消さずに、現世の神すら救ってみせた……。これはもはや、奇跡ですらないわ」


「え? ただ運が良かっただけだよ」


ライルは能天気に笑っているが、サクヤの表情は真剣そのものだった。

そう。彼の“幸運”は、ただ道を切り開くだけではない。

世界のシステムそのものを、自分にとって都合の良い方向へ“再定義(書き換え)”してしまうのだ。


「……あちらの世界(神殿)の方々、今頃胃に穴が空いているかもしれませんね」


サクヤの予言は、残酷なほど正確だった。



【聖都・光の大聖堂】


時を同じくして、世界最大の宗教組織「聖光教会」の総本山は大パニックに陥っていた。


「おい! どうなっているんだ! 朝の『定時連絡オラクル』が降りてこないぞ!」


怒鳴り声を上げているのは、教会の最高指導者である枢機卿、ガニス。

彼は毎朝、祭壇で女神アルシェラからの神託を受け、その日の吉凶を占うのが日課だった。


だが、今朝は違った。

祭壇に祈っても、最高級の魔石を捧げても、返ってくるのは「シーン……」という無慈悲な静寂だけ。

まるで、電話線が切れた受話器に向かって話しかけているような虚しさだ。


「も、申し訳ありません、猊下!

通信術式を再起動しましたが、やはり繋がりません!

女神様からの応答……ありません!!」


部下の神官が、青ざめた顔で報告する。


「バカな! 女神様が寝坊されたとでも言うのか!?」

「そ、そんなはずは……ああっ! 猊下、大変です!」


別の神官が、水の入った瓶を持って駆け込んでくる。


「聖水製造ラインに異常発生です!

今朝汲み上げた聖水が……ただの『濁った水』になっています!」


「なんだとぉ!?」


ガニスが瓶を奪い取ると、確かにそこには神聖な輝きなど微塵もない、ただの泥水が入っていた。

聖水とは、女神の加護が水に溶け込んだもの。

それが濁るということは、源泉である女神の力が供給されていない証拠だ。


「こ、これでは全国の教会に卸す商品(聖水)が出荷できん!

今月の売上がゼロになるぞ!」


「猊下、それどころではありません!」


さらに別の神官が、血相を変えて飛び込んできた。


治癒院ヒーラー・ギルドから苦情が殺到しています!

『ヒール』の効き目が今朝から3割減だとか!

『骨折が治らない』『切り傷が塞がるのに時間がかかる』と、患者たちが暴動寸前です!」


「ひぃぃぃッ!?」


ガニスは祭壇にしがみついた。

神聖魔法の成功率低下、回復術の効果減退。

これは、ただのトラブルではない。


「……まさか、女神アルシェラ様は、我々を見捨てたのか?

それとも……『家出』でもされたと言うのか!?」



【現場の混乱 ~神官たちの悲鳴~】


その頃、街の教会でも異変は起きていた。


若い神官が、信者の前で「浄化の儀式」を行っていた。

「穢れを祓いたまえ、清浄なる光よ!」

普段なら、ここでキラキラしたエフェクトが出て、信者の肩こりや悪霊が消え去るはずだった。


しかし――


「……光よ? ……おーい、光さーん?」


杖を振っても、何も起きない。

ただの棒を振る不審者である。


「あ、あれ? おかしいな。接触不良かな?」


神官が杖をバンバンと叩く。

信者が冷ややかな目で見ている。


「あの、神父様……まだですか?」

「ちょ、ちょっと待ってね! 今、回線が混み合ってて……!

――アーメン! 頼むよアーメン!」


必死の形相で神に祈るが、空からはカラスの鳴き声しか聞こえてこない。

神官は冷や汗で脱水症状になりかけていた。



【大聖堂・緊急対策本部】


夜になっても混乱は収まらなかった。

枢機卿ガニスは、円卓に地図を広げ、震える手で一点を指差した。


「……霊力探知班の報告によれば、世界中の神聖力が、この一点に吸い寄せられているらしい」


地図の中心。

そこは、聖都でもなければ、古代遺跡でもない。

辺境の貴族領――ローレンツ領だった。


「どういうことだ……?

なぜ、神の力が教会ではなく、こんな田舎貴族の屋敷に流れている?」


そこに、老齢の予言者が入室してきた。

彼は水晶玉を抱え、ガクガクと震えていた。


「げ、猊下……見えました……。

女神アルシェラ様は……消えたのではありません」


「ど、どこにおわすのだ!?」


予言者は、信じられないものを見る目で、ローレンツ領の方角を指差した。


「あろうことか……あそこの屋敷で、**『バブバブ言っている』**のが見えます」


「は?」


大聖堂に沈黙が落ちた。


「……バブバブ?」


「はい。女神様は……転生なされたのです。

あろうことか、あの『調停王』ライル・フォン・ローレンツの娘として!!」


「「「な、なんだってぇぇぇぇッ!!??」」」


聖職者たちの絶叫が木霊する。


「女神様が!? 人間の子に!? しかもあの規格外英雄の娘に!?」


「なんてことだ……。

我々が必死に祈りを捧げていた相手は、今頃オムツを替えてもらっていると言うのか!」


「これでは神託など降りるわけがない!

赤ん坊に『世界の平和』を説いても、『マンマ』としか返ってこんぞ!」


枢機卿ガニスは、祭壇に崩れ落ちた。

信仰の崩壊。組織の瓦解。

そして何より、自分たちの立場(中間管理職)の消滅。


「……行くぞ」


ガニスは立ち上がり、悲壮な決意で告げた。


「総員、ローレンツ領へ巡礼(突撃)だ!

女神様(赤ん坊)を確保し、なんとしてでも神殿にお戻りいただくのだ!

さもなくば……我々は来月から無職だぞ!!」


「「「おおおおおおッ!!」」」


こうして、聖光教会の全戦力が、ライルの屋敷へ向けて進軍を開始した。

それは聖戦ジハードではない。

必死すぎる「再就職活動リクルート」の始まりだった。


一方その頃。

何も知らないライルは、屋敷でアフロディテを「高い高い」してあやしていた。

「きゃっきゃっ!」と笑う女神(赤子)の声が響くたびに、教会の水晶玉にヒビが入っているとも知らずに。


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