第21話:星降る夜、魔族の姫は覚醒する
獣人の姫・ミアとの騒動を経て、王都へ帰還したライルたち。
折しも王都は、建国を記念する「星の祭り」の真っ只中だった。
街中がランタンの光で彩られ、人々が歌い踊る美しい夜。
だが、王宮の大広間だけは、張り詰めた緊張感に包まれていた。
「しかし、アナスタシアは次期女王の最有力候補。
その伴侶となる者は、単なる武力や運だけでなく、この国の『守護者』としての天命を持たねばならん」
「……Sクラスダンジョンの踏破、そして獣人国との同盟。
ライル・フォン・ローレンツよ。其方の功績は、もはや一貴族の枠を超えている」
玉座に座す国王アルセイド三世は、目の前に跪くライルと、その隣に並ぶ娘――フィリアを見下ろした。
今夜の彼女は、学院の制服ではない。王家の正装である純白のドレスに身を包み、その名は「第一王女・アナスタシア」として紹介されていた。
その時だった。
ゴゴゴゴゴ……ッ!!
突如、王宮全体が激しく揺れた。
地震ではない。空からの衝撃だ。
しかし、その夜空に浮かんだのは、祝福の星ではなく、破滅の光だった。
何者かが召喚した巨大隕石が、対空結界を破り、王都へと落下しようとしていたのだ。
「……っ、間に合わない!」
近衛騎士たちが絶望する中、ライルはテラスへ走り出した。
隣には、純白のドレスに身を包んだフィリア――いや、第一王女アナスタシアが並走する。
「ライル様! わたくしに考えがあります!」
「考え?」
「はい。ですが……それには、わたくしが『秘密』を晒さなければなりません。
……もしかしたら、国民に恐れられ、石を投げられるかもしれません」
アナスタシアの瞳が揺れる。
彼女はずっと隠してきたのだ。自分が、人間とは異なる存在であることを。
ライルは走りながら、強く彼女の手を握った。
「関係ないよ。
君が何者であっても、君は僕の大切なフィリアだ。
石を投げられたら、僕が全部受け止める!」
「……っ! はい……!」
アナスタシアの迷いが消えた。
二人はテラスから空へ向かって跳躍する。
「見ていてください、ライル様。これが……わたくしの本当の姿!」
アナスタシアが、首元にかけていた「封印のペンダント」を引きちぎった。
パァァァァァァン!!
強烈な魔力の波動が、王都の空気を震わせた。
彼女の背中から、漆黒のコウモリのような翼が広がり、純白のドレスが魔力によって黒の礼装へと染まっていく。
額からは、美しい二本の角が伸び、翡翠の瞳は鮮血のような真紅へと変貌した。
それは、伝承に語られる**「魔族」**の姿。
かつて人間と敵対していた、闇の種族の姫。
「――《魔界氷結・絶対天蓋》!!」
彼女が杖を掲げると、人間の魔術師では到底不可能な、桁違いの質量の氷が生成された。
王都全体を覆うほどの巨大な氷のクッション。
そこに隕石が激突する。
「ぐぅぅ……っ! 重い……!」
魔族の怪力と魔力をもってしても、支えきれないほどの質量。
氷に亀裂が入り、ミシミシと悲鳴を上げる。
「一人にはさせない! ――《風神・逆落とし(リバース・サイクロン)》!」
ライルが氷の下に入り込み、暴風を吹き上げて支える。
風と氷、人と魔。
本来なら反発し合うはずの二つの力が、二人の絆によって奇跡的な融合を果たした。
「いけぇぇぇぇッ!!」
二人の咆哮と共に、隕石は光の粒子となって砕け散り、夜空に美しいオーロラを描いた。
◇
危機は去った。
だが、広場に降り立ったアナスタシアに向けられたのは、歓声ではなく、凍りついたような沈黙だった。
黒い翼、赤い瞳、頭の角。
それは、人々が恐れる「魔族」そのものだったからだ。
「……魔族だ……」
「王女様は、人間じゃなかったのか……?」
「恐ろしい……」
ざわめきが広がる。
アナスタシアは痛ましげに唇を噛み、身を縮こまらせた。
やはり、受け入れられないのか。
この国を守ったとしても、異種族への恐怖は消えないのか。
だが、その時。
ライルが彼女の前に立ち、観衆に向かって堂々と告げた。
「恐れるな! 彼女を見ろ!
彼女は、命がけでこの国を守った!
その姿が何であれ、彼女の心は誰よりも気高く、美しい!」
ライルはアナスタシアの手を取り、その手の甲に口づけを落とした。
「……僕にとって、君は最高のプリンセスだ。
角も翼も、君の一部なら全部愛してる」
「ライル様……!」
アナスタシアの目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。
その光景に、民衆の空気が変わる。
恐怖が、感動へと塗り替えられていく。
「そうだ……王女様が守ってくれたんだ!」
「英雄様が認めた方だぞ!」
「万歳! 魔族の姫様、万歳!」
いつしか広場は、割れんばかりの歓声に包まれていた。




