第20話:隠された王血と、獣王の咆哮
火山の噴火を鎮め、ミアとの間に「比翼連理の炎」という魂の契約を結んだ翌朝。
ライルたちは、キャットピープルの集落で英雄として歓待を受けていた。
「英雄様! 娘を助けてくれてありがとう!」
「あんたは俺たちの恩人だ!」
村人たちが口々に感謝を述べる中、ミアだけがどこか浮かない顔で、ライルの袖を掴んでいた。
「……ねえ、ライル。
あんたたち、すぐに出発するの? 王都に帰るんだろ?」
「ああ。でも、君も一緒だ。
僕たちは魂で繋がっている。君を置いていくなんてあり得ない」
ライルが即答すると、ミアの猫耳が嬉しそうにピクリと動いた。
だが、その直後だった。
ドス、ドス、ドス……!!
地面を揺るがすような重厚な足音が、集落の入り口から響いてきた。
現れたのは、全身を黄金の鎧で固めた、屈強なライオンの獣人たち。
その装備は、一介の部族のものではない。獣人国の中枢を守る「王宮近衛兵」のものだ。
「……ッ! 来やがった……!」
ミアが舌打ちをし、ライルの背中に隠れる。
近衛兵たちが左右に分かれると、その奥から、圧倒的な覇気を纏った巨漢が現れた。
身長は2メートルを優に超え、燃えるようなたてがみと、王者の風格を持つ獅子の獣人。
獣人国ガリアを統べる絶対君主、獣王レグルスだ。
「……見つけたぞ、愛しき我が娘よ」
獣王の低い声が響くと、村人たちは一斉に平伏した。
ライルたちを除いて。
「娘……? ミアが?」
ライルが驚いて振り返ると、ミアはバツが悪そうに視線を逸らした。
「……ごめん。言いそびれてた。
あたしの本名は、ミアリア・ファン・ガリア。
……この筋肉ダルマの娘で、獣人国の第三王女なんだよ」
「「えええええッ!?」」
フィリアとセレナの声が重なる。
ただの村娘だと思っていた彼女が、一国の王女だったとは。
これでライルの婚約者は、人間王家の姫、エルフの姫、そして獣人の姫という、とんでもないラインナップになってしまった。
◇
「ふん。人間ごときが、我が娘をたぶらかしたか」
獣王レグルスが、ライルを睨みつける。
その眼光だけで、並の戦士なら気絶するほどの威圧感。
「父上! たぶらかされてなんてない!
あたしが勝手に家出して、勝手に惚れたんだよ!」
ミアが叫ぶが、獣王は聞く耳を持たない。
「黙れ。王家の血を引く者が、どこの馬の骨とも知れぬ人間に嫁ぐなど言語道断。
連れ戻すぞ。お前には、北の狼族との政略結婚が待っている」
「嫌だ! あたしはライルと行くんだ!」
「ならん!」
獣王が一歩踏み出すと、地面が亀裂を走った。
力ずくでも連れ帰る。その殺気に、フィリアとセレナが杖と弓を構えようとする。
だが、それを制して前に出たのは、ライルだった。
「……お言葉ですが、獣王陛下」
ライルは王の威圧を真っ向から受け止め、涼しい顔で告げた。
「ミアは渡しません。彼女は僕の妻です」
「ほう? 人間風情が、この我に口を利くか」
「風情ではありません。彼女の魂には、すでに僕の魂が刻まれています。
……ご覧ください」
ライルが胸元を寛げると、心臓の上に浮かび上がった「比翼連理の炎」の紋章が赤く輝いた。
同時に、ミアの胸元も共鳴して光を放つ。
「なっ……こ、これは……『火の神』の直々の祝福!?」
獣王が目を見開く。
獣人族にとって、精霊や神の契約は絶対だ。
ましてや、伝説の「比翼連理」など、数百年に一度の奇跡。
「……馬鹿な。火の神が、人間との結合を認めたというのか?」
「はい。神も認め、彼女自身も望んでいます。
それでも引き裂くと言うなら――」
ライルは聖風剣の柄に手をかけた。
その背後には、サクヤが静かに控えている。
彼女は微笑んでいるが、その背中からは「主さまの邪魔をするなら、国ごと消しますよ?」という神威が漏れ出していた。
獣王はライルを睨み、次にミアの決意に満ちた瞳を見て、そしてサクヤの底知れない力を見て……。
「……カッカッカッ!!」
突如、獣王は空を仰いで豪快に笑った。
「面白い! 実に面白い!
神の祝福を受け、我が威圧にも屈せぬ胆力。そしてその背後に従える、規格外の女たち!
……噂の『幸運の英雄』とは、これほどの男であったか!」
獣王はライルの肩をバシバシと叩いた(ライルのHPが少し減った)。
「よかろう! 認めようではないか!
ミアリアを……いや、我が娘を頼んだぞ、婿殿!」
「ち、父上……?」
「火の神が認めた仲を裂けば、我が国に災いが降るわ。
それに……これほど強きオスならば、文句はない!」
獣王はニカっと笑うと、近衛兵たちに撤収を命じた。
「ただし! 泣かせたら承知せんぞ!
その時は、獣人国全軍を挙げて噛み殺しに行くからな!」
「……肝に銘じます」
ライルが苦笑して頭を下げると、集落中に歓声が沸き起こった。
◇
騒動が収まり、出発の朝。
ライルの馬車には、新たにミアの席が用意されていた。
「まったく……とんだ里帰りになっちゃった」
ミアが恥ずかしそうに頬を掻く。
だが、その表情は晴れやかだった。もう隠すことは何もない。
「でも、よかったですね。これでお父様公認ですわ」
「ええ。それに、獣人国との同盟も盤石になりました」
フィリアとセレナが微笑む。
サクヤがお茶を淹れながら、満足げに頷いた。
「これで四つのピースが揃いました。
人間の王女、エルフの姫、獣人の姫、そして女神。
……主さまの『ハーレムパーティ』、ここに完成ですね」
「言い方! ……まあ、否定はしないけど」
ライルは四人の美女を見渡した。
どの一人も、かけがえのない大切な家族。
かつて「不運」だった少年は、今や世界で一番の「果報者」となっていた。
「さあ、行こう。王都へ!」
御者が鞭を入れる。
馬車は軽やかに走り出した。
四人の花嫁と共に、ライルの旅は続く。
その先には、世界を変える新たな奇跡と、愛しい「命」の誕生が待っていることを、彼らはまだ知らない。




