第13話:聖獣の咆哮、そして王への報告
塔の最上階。
雲海を見下ろす天空の祭壇に、三人は到達した。
時刻はまだ昼下がり。宣言通り、半日足らずでの踏破だった。
そこに鎮座していたのは、塔の主。
全身が白銀の毛並みに覆われた、巨大な狼。
神話の聖獣、《銀狼フェンリル》。
「……人の子が、ここまで来たか」
フェンリルの声が、直接脳内に響く。
その瞳には、知性と圧倒的な威厳が宿っていた。
「我は試練を与える者。力無き者には死を、資格ある者には道を。
……かかってくるがよい」
「全力で行くぞ、二人とも!」
ライルが叫ぶ。
フェンリルの速さは、これまでの魔物とは次元が違った。
姿がブレたかと思うと、次の瞬間にはライルの喉元に牙が迫っている。
「――ッ! 《風神・縮地》!」
ライルは風を爆発させて緊急回避。
だが、フェンリルは空中で軌道を変え、追撃してくる。
「させません! 《絶対零度・盾》!」
フィリアが割り込み、氷の盾を展開する。
ガギィィィン!!
フェンリルの爪が氷を削るが、貫通はしない。
「ほう……我の爪を防ぐか。小娘、やるな」
「小娘ではありません。……フィリア・アウローラです!」
フィリアが杖を突き出すと、氷の盾が砕け、無数の氷礫となってフェンリルに降り注ぐ。
フェンリルがそれを避けた隙に、ライルが頭上から急降下した。
「ここだぁぁぁッ!!」
聖風剣に、サクヤの神気とフィリアの魔力を上乗せした一撃。
フェンリルは迎撃しようとしたが、ライルの剣から放たれた「王者の覇気」に一瞬だけ動きを止めた。
(この少年……ただの人間ではない!?)
寸止め。
ライルの剣先が、フェンリルの眉間の前でピタリと止まる。
「……僕たちの勝ちだ」
静寂。
フェンリルは、目の前の少年を見つめ……やがて、喉を鳴らして笑った。
「見事だ。……力だけでなく、殺さぬ慈悲と、王の器を持っているとはな」
フェンリルは光に包まれ、その姿を小さく変えた。
そして、口にくわえていた首飾り――《聖獣の証》をライルの前に落とした。
「持っていけ。そして、その娘を幸せにしてやるがよい」
「……ああ。ありがとう」
ライルが証を手に取ると、塔全体が祝福するように輝き始めた。
◇
夕刻。
王宮の玉座の間は、朝以上の緊張感に包まれていた。
重い扉が開き、三人が戻ってくる。
傷一つない、涼しい顔で。
「……ライル・フォン・ローレンツ。只今戻りました」
ライルは跪き、懐から《聖獣の証》を取り出した。
虹色に輝く宝石が、広間の空気を浄化していく。
「ば、馬鹿な……本当に、Sクラスダンジョンを……?」
「しかも、半日で!? 歴代騎士団の記録を大幅に更新しているぞ!」
貴族たちが騒然となる中、国王だけが静かに玉座から立ち上がった。
彼はゆっくりと階段を降り、ライルの前で立ち止まる。
「……見事だ。
余の予想を遥かに超えてきたな」
国王は証を受け取ると、ライルの肩に手を置いた。
「ライルよ。其方を、フィリアの婚約者として仮承認する」
「ありがとうございます!」
フィリアが感極まって声を上げる。
だが、国王の目はまだ笑っていなかった。
「ただし! 『仮』だ。
Sクラス程度で満足してもらっては困る。
……余が本当に求めているのは、この国の悲願。
誰もなし得なかった伝説の攻略だ」
国王は広間の奥にある巨大な古地図を指差した。
その中心に描かれた、黒い渦。
「――《奈落の王墓》。
其方らには、あそこに眠る『真の遺産』を持ち帰る権利を与える。
それを成し遂げた時こそ……この国の英雄として、そして次期王配として認めよう」
「《奈落の王墓》……」
サクヤが求めていた、最後の目的地。
ライルは力強く頷いた。
「望むところです。必ずや、深淵の闇を払い、ご期待に応えてみせます」
こうして、ライルとフィリア、そしてサクヤは、
人類未踏の最深ダンジョンへの挑戦権を手に入れた。
そこに眠る最強のボスと、そして「三神の聖衣」が彼らを待っている。




