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神への階と十五柱の花嫁  作者: 輝夜月愛


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第14話:王の真意と、神殺しの奈落

王都の空は、夕焼けに染まっていた。

だが、王宮の最奥「玉座の間」には、重苦しい静寂が満ちていた。


ライル、フィリア、そしてサクヤ。

三人は玉座の前に跪き、半日前に持ち帰ったばかりの《聖獣の証》――虹色に輝く巨大な魔石を差し出していた。


広間に居並ぶ大臣や近衛騎士たちは、息を呑んでその輝きを見つめている。

Sクラスダンジョン《白銀の聖獣塔》。

国家の精鋭が何年もかけて攻略するはずの難所を、この学生たちはたった数時間で踏破し、無傷で帰還したのだ。

それは、もはや「優秀」という言葉で片付けられる次元を超えていた。


「……見事だ」


玉座に座す国王、アルセイド三世が重々しく口を開く。

その声には、称賛よりも深く、重い響きがあった。


「歴代の騎士団長ですら成し得なかった偉業。

ライル・フォン・ローレンツ。其方の力、そしてフィリアとの絆……疑う余地はない」


「では、陛下。フィリアとの婚約を……」


ライルが顔を上げる。

だが、国王は手を挙げてそれを制した。

王の瞳は、ライルを通り越し、その背後に控えるサクヤへと向けられていた。

すべてを見透かすような、鋭い眼光。


「早まるな。……余が其方らに課した試練は、あくまで『資格』の確認に過ぎん」


国王は玉座から立ち上がると、広間の壁に掛けられた一枚の巨大な古地図へと歩み寄った。

その地図の北の果て。

そこには、地形すら描かれていない、ただ黒く塗りつぶされた領域があった。


「この国には、王家のみに伝わる“真の伝承”がある」


国王が振り返り、低い声で告げる。


「――《奈落の王墓》。

かつて神代の戦争において、天界を追われた“邪神”の骸が封印された場所。

そこは、Sクラスダンジョンなど児戯に等しい。

ことわりがねじ曲がり、神の加護すら届かぬ『神殺しの庭』だ」


広間がざわめく。

大臣たちですら、その名の響きに青ざめ、震えている。

それは、口に出すことすら忌まわしい禁忌の地。


「予言にはこうある。

『星の瞳を持つ者と、異界の女神を連れた王が現れる時、奈落の門は開かれん』」


国王の言葉に、ライルはハッとした。

「異界の女神」。

それは、どう考えてもサクヤのことだ。国王は、サクヤの正体に薄々勘づいているのかもしれない。


「ライルよ。そしてフィリアよ。

もし其方らが真に世界を変える器であるならば……この奈落へ挑み、最深部に眠るとされる秘宝『三神の聖衣トリニティ・クロス』を持ち帰ってみせよ」


「三神の聖衣……?」


「うむ。神の力を宿し、着用者を人外の領域へと昇華させる伝説の装束だ。

邪神の怨念が再び動き出した今、その力がなければ、この国はいずれ滅びるだろう。

……これは婚約の条件ではない。世界の命運を賭けた、王としての勅命だ」


あまりに重い言葉。

だが、ライルは震えなかった。

隣を見れば、フィリアもまた、真っ直ぐな瞳で王を見つめている。

そして背後のサクヤは――不敵に微笑んでいた。


「……承知いたしました」


ライルは静かに、しかし力強く答えた。


「その勅命、謹んでお受けいたします。

必ずや聖衣を持ち帰り、この国の未来を拓いてみせましょう」


「……うむ。行くがよい。吉報を待っている」


王の許可を得て、三人は玉座の間を後にした。

その背中は、入室した時よりも一回り大きく、頼もしく見えた。



数日後。

準備を整えた三人は、ローレンツ領の最北端、人が立ち入ることを禁じられた荒野に立っていた。


風が止んでいた。

鳥の声も、虫の音もしない。

ただ、目の前に広がる巨大な亀裂――大地の傷跡のようなその場所から、どす黒い瘴気が陽炎のように立ち上っている。


《奈落の王墓》。

その入り口に立つだけで、肌が粟立ち、本能が「逃げろ」と警鐘を鳴らす。


「……ここが、最後の試練」


フィリアが杖を握る手に力を込める。

Sクラスダンジョンでは感じなかった、底知れない恐怖。

足がすくみそうになる彼女の肩を、ライルがそっと抱いた。


「大丈夫だ、フィリア。僕たちがついている」


「……はい、ライル様。わたくしは、もう逃げません」


フィリアが頷くと、サクヤが一歩前に進み出た。

彼女は瘴気の深淵を睨みつけ、いつになく厳しい表情を浮かべていた。


「主さま。警告しておきます」


サクヤの声は低く、真剣だった。


「この内部は、完全に異界化しています。

私の神としての権能も、ここでは制限を受けます。

さらに……内部に巣食うモノたちは、私のような高位の存在を捕食し、自らの力に変えようとする“神喰らい”の性質を持っています」


「神喰らい……。つまり、サクヤが狙われるってことか?」


「はい。私は彼らにとって、最高のご馳走ですから」


サクヤは自嘲気味に笑ったが、すぐにライルの方を向き、信頼に満ちた瞳で見つめた。


「ですが、恐れてはいません。

今の私には、神の力以上の武器がありますから」


「武器?」


「ええ。……あなた達という、最強の家族です」


その言葉に、ライルとフィリアの胸に熱いものが込み上げる。

かつて孤独だった女神は、今、誰よりも強く人間を信じている。


「行こう。サクヤは僕たちが守る。そして、三人で生きて帰るんだ」


ライルが聖風剣を抜く。

その刀身が、闇を払うように青く輝いた。


「はい!」

「参りましょう、主さま」


三人は手を繋ぎ、奈落の闇へとその身を投じた。


視界が黒に染まる。

重力が反転し、感覚が狂う。

落ちていく先にあるのは、栄光か、それとも永遠の虚無か。


人類未踏、最高難易度のダンジョン攻略が、今、幕を開ける。

そこは、サクヤさえも進化しなければ生き残れない、絶望と進化の箱庭だった。


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