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飢餓の玉座 〜血に属さぬ予知者、群雄割拠を征く〜  作者: レオ
第二章「玉座なき統治者」
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第三十八話 守りと実り

ゴルデンハイムの城、いつもの会議の間に、ヴィルヘルムたちが顔を揃えていた。


「防衛の進み具合を、聞かせてください」


ヴィルヘルムの言葉に、ジークハルトが頷いた。


「エーレンガルトが動くと分かった時から、真っ先に手をつけてきた。木柵(もくさく)と、簡易の堀は、既に街の主要な出入り口を中心に、形になっている」


「順調ですね」


「ああ。それに、フェルディナントの力が、思った以上に役に立ってる」


その名を出されたフェルディナントが、静かに頷いた。


「地脈の力で、堀を掘る速さが、通常の何倍にもなります。土を締め固める作業も、同時にこなせますので」


「フェルディナント様がいなけりゃ、今頃、まだ半分も終わってなかっただろうよ」


クヌートが、感心したように言った。


「実際に、現場ではどのような作業を」


ヴィルヘルムが尋ねると、フェルディナントは、僅かに得意げな顔をした。


「私が土に触れ、地面を掘り起こし、周りの者たちが、掘った土を運び出す。その後、崩れぬよう、土を固める。この繰り返しです」


「一人で、その全てを?」


「地脈の力にも、限界はあります。一日に扱える範囲は、決まっていますが……それでも、人力だけでやるより、遥かに早く進みます」


「治水の方も、順調ですか」


ヴィルヘルムが尋ねると、フェルディナントが頷いた。


「水路の補修は、既に大方終わっています。それに、堀の一部は、大雨の際の貯水にも使える設計にしてあります」


「治水と、防衛を、両方兼ねられているということですね」


「はい。無駄なく、両方の目的を、果たせるかと」


その報告に、ヴィルヘルムは満足げに頷いた。


「街の出入り口以外は」


「そちらは、今、水路の老人と手分けして進めています。北の大河沿いは、既に手を入れましたので、南側から順に」


「頼りにしています」


「それと、防衛について、いくつか提案したいことがあります」


ヴィルヘルムが、続けて切り出した。


「聞かせてくれ」


「まず、堀の外側に、先を尖らせた木を並べる逆茂木(さかもぎ)を設けたいんです。敵の足を鈍らせる効果があります」


「なるほど、簡単な仕掛けだが、効くだろうな」


ジークハルトが、興味深そうに頷いた。


「それと、騎馬の突撃を防ぐために、斜めに組んだ杭の柵、馬防柵(ばぼうさく)も」


「騎馬相手には、確かに有効だ」


「もう一つ、街の主だった出入り口の外側に、小さな出丸のような、突き出た砦を作れないでしょうか。そこから、側面や背後を突けるようにしたいんです」


「出丸、か」


フェルディナントが、興味深そうに顎に手を当てた。


「土台を作るだけなら、私の力でも、いくらか早められます。……面白い発想だ」


「では、これらも、計画に組み込んでいきましょう」


ヴィルヘルムの提案に、皆が頷いた。



「次に、屯田について、話したいと思います」


ヴィルヘルムが切り出すと、ジークハルトが身を乗り出した。


「屯田、というと」


「兵士たちにも、普段は農地を耕してもらい、有事の際にだけ、武器を取ってもらう。そういう制度です」


「兵が、畑仕事もするってことか」


「はい。兵だけを専業にすれば、それだけ多くの人手を、戦力としてしか使えません。ですが、屯田なら、平時は食料生産にも貢献できます」


「悪くない話だな」


エルサが、興味深そうに頷いた。


「食料の心配が減れば、それだけ、他のことにも力を割ける」


「ただ、慣れない農作業に、兵たちが戸惑うかもしれません」


ジークハルトが、腕を組みながら言った。


「そこは、農耕技術部門のグレゴールさんにも、協力をお願いしたいと思っています」


「よし、話を通しておく」


「それと、屯田にする土地についても、決めておきたいですね」


エルサが、続けて言った。


「街の外に作った畑の周辺なら、既にある程度の開拓も進んでいる。あの辺りを広げる形にすれば、無駄がない」


「賛成です。フェルディナントさん、堀の計画とも、擦り合わせが必要になりますが」


「承知しました。屯田地を含めた形で、防衛線を組み直しましょう」


「屯田をすることで、兵の士気にも、いい影響があるかもしれません」


マティアスが、思いついたように口を挟んだ。


「士気、というと」


「ただ戦うだけでなく、自分たちの食う物を、自分たちで作る。それは、この街を"自分のもの"だと感じる、良いきっかけになるはずです」


その言葉に、ヴィルヘルムは深く頷いた。


「その通りかもしれません。奪われた土地を取り返すだけじゃなく、自分たちの手で耕した土地を守る。……その方が、きっと強い」


「隊長らしい考えだ」


ジークハルトが、満足げに笑った。


それぞれの部門が、有機的に繋がりながら、この街の備えを形作っていく様子を、ヴィルヘルムは静かに見守っていた。



会議が一区切りついた頃、ヴィルヘルムは、一人、窓の外を眺めていた。


防衛の備えは、着実に進んでいる。


それでも、エーレンガルトの大軍が、いずれ間違いなく差し向けられるだろうという懸念は、消えなかった。


(まだ、時間はある。だが、油断はできない)


これまで積み重ねてきた、この街の全てを守り抜く。


その静かな決意を胸に、ヴィルヘルムは、次にすべきことを、頭の中で組み立て始めていた。



(第三十九話へ続く)


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