第二十八話 集う者たち
ゴルデンハイムを拠点にしてから、ヴィルヘルムは、街の門を開き、人材の募集と難民の受け入れを続けていた。
街には、少しずつ、噂が広まっていた。
「あの街には、血筋を問わず、能力があれば取り立ててくれる領主がいるらしい」
「奪うんじゃなく、守ってくれる場所だという話だぞ」
その噂を頼りに、日を追うごとに、様々な人々が街の門を訪れるようになっていた。
「隊長、また新しい者たちが」
門の警備に立っていたフリッツが、報告に来た。
「今日は、何人ほど」
「二十人ほどです。近隣の村から逃げてきた者、戦で家を失った者、様々です」
ヴィルヘルムは、門へと向かった。
疲れ果てた顔の人々が、不安げにこちらを見つめている。
「よく来てくれました。ここでなら、住む場所も、働く場所も、用意します」
その言葉に、誰もが安堵の表情を浮かべた。
その中に、一人の男がいた。
黒髪黒眼、痩せ型で、身長は180センチはあるだろうか。
ひどく疲れた様子で、地面に座り込んでいる。
「大丈夫ですか」
ヴィルヘルムが声をかけると、男は、力なく顔を上げた。
「……ああ、面目ない。歩き詰めで、足が」
「歩けますか?」
「歩けと言われれば、歩くしかないでしょうね。……ただ、できれば、二度と歩きたくはない」
その物言いに、ヴィルヘルムは思わず笑った。
「名は」
「マティアスと申します。……行くあてもなく、諸国を彷徨っていたところ、噂を聞いて参りました」
「そうですか。よく辿り着きましたね」
「正直、限界でした。……ここで拾っていただけるなら、何なりと言いつけてください」
それだけ言うと、マティアスは、億劫そうに息を吐いた。
それ以上は多くを語らず、疲れ切った様子で、他の難民たちと共に、案内係の後についていった。
その後も、様々な人々が、ゴルデンハイムの門をくぐっていった。
元は鍛冶師だった者、薬草に詳しい老婆、腕の良い大工。
それぞれが、それぞれの形で、この街の力になろうとしていた。
「隊長、こう毎日のように人が増えると、住む場所も、食い扶持も、追いつかなくなるぞ」
エルサが、帳面を睨みながら言った。
「それでも、拒むつもりはありません」
「分かってる。……お前が、そういう男だってことは、とっくに知ってるからな」
エルサは、それ以上何も言わず、算段を巡らせる作業に戻っていった。
数日後、落ち着いた様子のマティアスが、内政の仕事場に顔を出した。
「体は、もう大丈夫ですか」
「おかげさまで。……それで、私に何をさせるおつもりで?」
エルサが、書類を手にしながら、値踏みするようにマティアスを見た。
「聞けば、あちこちを渡り歩いてきたそうだな。何か、得意なことは」
「……体を動かすこと以外なら、多少は」
マティアスは、億劫そうにそう答えるだけだった。
「多少、で片付けるには、随分と自信ありげに聞こえるが」
「自信、というより。……他に、能がないだけです」
その謙遜とも自虐ともつかない言い方に、エルサは小さく笑った。
「まあいい。追い追い、試させてもらう」
その日の終わり、ヴィルヘルムが立ち去ろうとするマティアスに、ふと声をかけた。
「そういえば、書物がお好きだとか」
「……どこでそれを」
「今朝、他の難民の方から聞きました。紙が貴重で、なかなか読めなかったと」
マティアスは、少し驚いたように目を見開いた後、静かに頷いた。
「……ええ。値が張りすぎて、諦めたことは何度もあります」
「もし、紙をもっと安く、大量に作る方法があれば、何か変わると思いますか」
その問いに、マティアスは、初めてはっきりとした興味の色を目に宿した。
「それが叶うなら……この国の学問も、随分と変わるでしょうね」
「いずれ、相談させてください。力になれるかもしれません」
その言葉に、マティアスは、何かを探るように、ヴィルヘルムを見つめていた。
(第二十九話へ続く)




