表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
飢餓の玉座 〜血に属さぬ予知者、群雄割拠を征く〜  作者: レオ
第二章「玉座なき統治者」
28/40

第二十八話 集う者たち

ゴルデンハイムを拠点にしてから、ヴィルヘルムは、街の門を開き、人材の募集と難民の受け入れを続けていた。


街には、少しずつ、噂が広まっていた。


「あの街には、血筋を問わず、能力があれば取り立ててくれる領主がいるらしい」


「奪うんじゃなく、守ってくれる場所だという話だぞ」


その噂を頼りに、日を追うごとに、様々な人々が街の門を訪れるようになっていた。


「隊長、また新しい者たちが」


門の警備に立っていたフリッツが、報告に来た。


「今日は、何人ほど」


「二十人ほどです。近隣の村から逃げてきた者、戦で家を失った者、様々です」


ヴィルヘルムは、門へと向かった。


疲れ果てた顔の人々が、不安げにこちらを見つめている。


「よく来てくれました。ここでなら、住む場所も、働く場所も、用意します」


その言葉に、誰もが安堵の表情を浮かべた。



その中に、一人の男がいた。


黒髪黒眼、痩せ型で、身長は180センチはあるだろうか。


ひどく疲れた様子で、地面に座り込んでいる。


「大丈夫ですか」


ヴィルヘルムが声をかけると、男は、力なく顔を上げた。


「……ああ、面目(めんぼく)ない。歩き詰めで、足が」


「歩けますか?」


「歩けと言われれば、歩くしかないでしょうね。……ただ、できれば、二度と歩きたくはない」


その物言いに、ヴィルヘルムは思わず笑った。


「名は」


「マティアスと申します。……行くあてもなく、諸国を彷徨(さまよ)っていたところ、噂を聞いて参りました」


「そうですか。よく辿り着きましたね」


「正直、限界でした。……ここで拾っていただけるなら、何なりと言いつけてください」


それだけ言うと、マティアスは、億劫(おっくう)そうに息を吐いた。


それ以上は多くを語らず、疲れ切った様子で、他の難民たちと共に、案内係の後についていった。



その後も、様々な人々が、ゴルデンハイムの門をくぐっていった。


元は鍛冶師だった者、薬草に詳しい老婆、腕の良い大工。


それぞれが、それぞれの形で、この街の力になろうとしていた。


「隊長、こう毎日のように人が増えると、住む場所も、食い扶持も、追いつかなくなるぞ」


エルサが、帳面(ちょうめん)を睨みながら言った。


「それでも、拒むつもりはありません」


「分かってる。……お前が、そういう男だってことは、とっくに知ってるからな」


エルサは、それ以上何も言わず、算段を巡らせる作業に戻っていった。



数日後、落ち着いた様子のマティアスが、内政の仕事場に顔を出した。


「体は、もう大丈夫ですか」


「おかげさまで。……それで、私に何をさせるおつもりで?」


エルサが、書類を手にしながら、値踏みするようにマティアスを見た。


「聞けば、あちこちを渡り歩いてきたそうだな。何か、得意なことは」


「……体を動かすこと以外なら、多少は」


マティアスは、億劫(おっくう)そうにそう答えるだけだった。


「多少、で片付けるには、随分と自信ありげに聞こえるが」


「自信、というより。……他に、能がないだけです」


その謙遜(けんそん)とも自虐(じぎゃく)ともつかない言い方に、エルサは小さく笑った。


「まあいい。追い追い、試させてもらう」



その日の終わり、ヴィルヘルムが立ち去ろうとするマティアスに、ふと声をかけた。


「そういえば、書物がお好きだとか」


「……どこでそれを」


「今朝、他の難民の方から聞きました。紙が貴重で、なかなか読めなかったと」


マティアスは、少し驚いたように目を見開いた後、静かに頷いた。


「……ええ。値が張りすぎて、諦めたことは何度もあります」


「もし、紙をもっと安く、大量に作る方法があれば、何か変わると思いますか」


その問いに、マティアスは、初めてはっきりとした興味の色を目に宿した。


「それが叶うなら……この国の学問も、随分と変わるでしょうね」


「いずれ、相談させてください。力になれるかもしれません」


その言葉に、マティアスは、何かを探るように、ヴィルヘルムを見つめていた。



(第二十九話へ続く)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ