国防を趣味でやれているうちは幸せ
新世界暦2年2月22日 ラストール王国 王都近郊 建国記念空港
アズガルドと同じく、国内で数少ないジェット機が発着可能な舗装滑走路を持つ建国記念空港は海軍航空隊の飛行場も兼ねており、ここにアメリカから購入したF/A-18B/D、T-45で構成される訓練飛行隊が設置されていた。
一応、F/A-18A/Cで編成された戦闘飛行隊も設置はされていたが、パイロットは未だ訓練中であり、単座機は整備教習機材になっているのが現状だった。
パイロット教官は勿論、整備教習の教官や、実際の整備員、メーカーのサポート要員に至るまで、多数のアメリカ人が滞在しており、そのほとんどが現役、もしくは退役したアメリカ軍人なので、まるで米軍基地のような雰囲気も漂っているが、ラストール側もかなりの数を訓練に送り込んでいるのでほどほどのラストール色もあり、他のどこの米軍基地とも異なる雰囲気が漂っている。
実戦部隊のパイロットがいないのだから、未だアラート待機は行われておらず、基地内にピリピリした空気は流れていない。
昨年に人民統制員会の侵攻を退けて以降、ラストール自身が今のところ直接的な脅威に曝されていない、というのも基地内がピリピリしていない要因である。
アメリカとの間に現れた大陸に(一応)艦隊を出していたりはするが、睨み合いだけで、今に至るまで何も起こっておらず、(今のところ)実害もないので、アズガルドのようにとにかく必死に装備をかき集める必要もないし、装備に制限がかけられてもいないので、地球国家からの装備導入は一部を除いて通常のスケジュール通りであり、よく言えば慎重に吟味しており、悪く言えば地球国家との装備格差を早急に埋めようという意思に欠けていた。
例えば、ラストールでは未だに「次期主力戦車」は選定中であり、日英米から提案を受けている段階である。
戦闘機は少し進展していて、海軍はさっさと米海軍や海兵隊の予備機が狙えるF/A-18に決めて、新造でE/F型の導入も検討しているあたり、空母建造を狙ってはいるが、そのために戦艦をまとめて退役させる決断はできずにいる。
軍艦のほうは、とりあえず日英米あたりの退役艦を狙っているが、大量の軍艦を失っているアズガルドが必死になってかき集めようとしていたり、怒られつつも懲りずに台湾も狙っていたりと競合相手もいるので、うだうだしている間に全て持って行かれてしまう可能性が高そうである。
まぁ、各種選定に関してやんごとなき方々の介入があるのも遅れている理由だったりするが、それについては皆諦めているので最初から計算に入っていたりするあたりこの国が実務面であの趣味人家族をどのように見ているかわかると言うものである。
アズガルドほどの性急さも焦りもないので、主にアメリカがやきもきしてはいるものの、ゆっくり着実に現代技術が入り込んでいっている、という印象を受けるのがラストールの技術流入だった。
新世界暦2年2月22日 ラストール王国 王都近郊 建国記念空港敷地内 王都軍港防空司令部
軍港の防空を目的とした海軍航空隊の飛行場だったのだが、その実、もともと王都に最も近い戦闘機飛行隊の基地だったので、実質的に王都防空の中枢として機能していた軍港防空司令部は、元々あった大量の机や黒板などは運び出されてがらんとしていた。
「うーん、運び出してもらってなんですが、やっぱり作り直すほうが早そうな気もしますねぇ・・・」
メジャーを出して部屋の細かい寸法を測ったり、部屋につながる通路や通気口などを調べていた技術者の1人が溜息を吐きながら言う。
「改装でどうにかならんかな?」
「かなり大規模になりますよ。天井の高さがもう少し欲しいですし、通気口や配線溝も新たに掘らないと」
元々地下に作られている防空司令部の大部屋を拡張する、となるとかなりの大ごとである。
「まぁ、天井の高さは離れたところからの見易さとか床下配線にするならっていう話なので別にいいでしょうけど、少なくとも通気口や空調用のダクトは増やさないと、蒸し風呂になって誰も部屋にいられなくなりますよ」
「とりあえずその方向で行くしかあるまい。ラストール全体の防空司令部をこの部屋に置くわけでも無し、あくまで一方面の防空指揮所だ。早く王都上空の警戒だけでも、っていうのがお客様の要望だしな」
そんなことを言いながら測った寸法で図面を起こしつつ、あれやこれやとコンソールやら何やらの配置を考えているのは、日本人である。
「しかし棚ぼたでしたね」
「ああ、領空警備を行う陸軍航空隊とは無関係な案件で、各軍港の防空のためのレーダーだけでいいからアズガルドで実績のあるうちと随意契約でいい、なんて本社の連中は小躍りして喜んでたよ」
ラストールは空軍を設置しておらず、陸軍航空隊が領空警備を、但し軍港の防空だけは海軍航空隊が、という戦前の日本のような棲み分けになっている。
しかし、王都にはバカでかい軍港がある関係で、海軍航空隊も大規模であり、その航空基地が長大な舗装滑走路を持ったりして、実質的に王都防空拠点として機能していたのである。
ちなみに、ネットワーク化とかの考えが無いラストール側が安易に考えて、とりあえず少数だし、アズガルドも採用してて実績もある日本製を、と今回の随意契約を決めたのだが、今後、本土全体を覆うレーダー警戒網を造っていくときに、海軍のレーダーサイトは完全に独立させてていいのか?という問題に直面することになるので、実質的に本土防空システムをJADGE基準の日本製にすることがほぼ決まってしまったようなものである。
そのため、英米企業が今回の随意契約に強行に反対していたが、そのことがよくわかっていないラストール側が別に入札にして導入遅らせる理由もないじゃん、と進めてしまったのである。
日本企業側からすれば思わぬ棚ぼたである。
「けど、レーダーアンテナはアズガルドのJ/FPS-3改準拠じゃなくて、J/FPS-4準拠なんですよね」
「まぁ、AESAで遠距離、近距離の2つのアンテナがいるJ/FPS-3より、従来型アンテナ1つで済むJ/FPS-4のほうが安く済むからなぁ」
このまま本土防空システムまで受注できればぼろい商売だけどなぁ、と呟く技術者だが、大抵の場合、こういうのはいろんな国からシステム買い漁って失敗するので、いろんな人がいろんなところで苦労することになるのである。
ちなみに、新しいJ/FPS-4のほうがAESAではない理由は、単純に予算の都合で全部のレーダーサイトをJ/FPS-3には出来ないから安くすませるためであった。
結局、その後のガメラレーダーと言われるJ/FPS-5も、J/FPS-7もAESAにはなったものの、価格問題はついてまわっている。
「とりあえずここにJ/FPS-4設置したら俺らの仕事は終わりだ。後のことは政治と本社が決めることだろ」
大規模な武器調達に政治と汚職はつきものである。
それはどこの世界でも変わらないのであった。
新世界暦2年2月22日 ラストール王国 王都 王城大会議室
プロジェクターで投影されていた一通りの製品紹介映像が終わり、会社のロゴが映し出される。
日本で最大の防衛関連企業のそれをバックに、プレゼンターが話し出す。
「以上がわが社の主要製品になります。当社は陸海空において防衛関連製品を長年供給してきた実績があり、貴国の要求に応える様々な分野の製品を供給できると自負しております」
アズガルドにおいても行われた売り込み作戦だが、とにかく軍の現代化にあたり、何をどう取り組めばいいのかいまいちわかっていない相手に、片っ端から製品を紹介して、相手が少しでも興味を持ったものから売り込んでいく、というある意味節操なしな商売である。
しかし、それで興味を持たせることができても必ずしも自社製品が採用されるとは限らないが、あれやこれやと説明するついでに、要求仕様書を自社に有利な方向に誘導してしまう、というどこの世界でも行われている手法が取りやすくなるので無駄ではない。
そうなってくるとなんでもかんでも作っている、というのはかなりの強みである。
自社で作っていない誘導武器などの製品も、同じ財閥名を冠する電機メーカーとあわせればほとんど揃ってしまうという幅広さである。
自社製品の映像をまとめて流すだけで、2、3個は少なくとも相手が興味を持ってくれるのだから。
案の定、質問の受付開始と同時に、出席者たちから次々に質問が飛ぶ。
王城の大会議室で開かれているだけあって、このプレゼンテーションの出席者は、陸海軍のトップや調達責任者、そして王族という高位のものだけである。
というか、王族が自分たちが出たくて、各国企業のプレゼンテーションがこの会場になったのは公然の秘密である。
一番活発に質問してるのが第一王女と王妃なあたりが実にこの国らしいが、国王が静かなのは縛り上げられて口を塞がれているからである。
立場上、国王がいらんことを言うとそれが正式決定になりかねないので、国王以外の全員の総意としてこの仕打ちになった。
国王以外は誰も損しないのでヨシ!ということでそれを実行されてしまうあたりに、国王の人望(?)があらわれている。
もっとも、APTOの各国防衛関連企業が日参するせいで出席者たちが関わる業務が滞っているので、そのせいで調達が遅れていたりもして、わりとなにやってんの?という状態だが、それだけ今この国が(周辺環境がどうであれ)平和だということである。
次のも1~2週間程度みといてください




