治安悪いってレベルじゃねぇぞ
新世界暦2年2月15日 南アフリカ共和国 ケープタウン市街地
元々はアフリカ大陸の南端、今となっては西端になっている南アフリカ共和国。
その観光地の1つでもあったケープタウンは、お世辞にも治安が良いとは言えない街ではあったが、現在、その治安は普通の人は出歩けないほどまで悪化していた。
というか、平たく言えば戦場になっていた。
新世界暦2年元旦の新たな転移によって、突然地続きの大陸が出現したためである。
南アフリカ共和国の軍隊は(周辺国と比較すると)何と戦うつもりなのかよくわからないレベルで強力である。
これは冷戦時代にアフリカの他所の紛争に介入していたことや、アパルトヘイト政策で各国からにらまれていたことの名残であり、縮小されたとはいえ雇用対策も兼ねてある程度の規模を維持する必要があったためである。
エジプトという例外を除けば、アフリカにおいても有数の強力な軍隊を保持する南アフリカではあったが、その能力はどちらかというと機動展開を重視した陸軍の装輪車両に偏っており、航空戦力も26機のJAS-39を除けば一線級の機体は無い。
そんなわけで、相手が60年代~70年代の装備であろうと、一方的に押しきれている、というわけにもいかず、ケープタウンで市街戦が続いていた。
路地をかけていく兵士達の手にはイスラエルのガリルをライセンス生産したベクターR4が握られている。
そんな彼らについて行くように静かに前進しているのは、ローイカット装輪装甲車である。
開発当初から搭載弾数を増やせることと、仮想敵の装甲を考えると十分な貫徹能力を確保できる、という理由で、艦載砲ベースの76mm砲を搭載している変わり種だが、そのせいで輸出は振るわず採用国は南アフリカのみとなっている。
一応、105mm砲を搭載したプロトタイプも造られたが、特に安いわけでもなく、イタリア製のチェンタウロが市場にある状態では量産もされなかった。
やがて、交差点に差し掛かった兵士が、そっと交差する道路を覗きこんで、手で合図を送る。
するとローイカットは急加速して交差点に進入し、急停止と同時に発砲して走り去った。
履帯式の戦車よりも小さい騒音や振動と、その機動力を活かした一撃離脱である。
ロイカットはチェンタウロや16式機動戦闘車と同じ、26t級なのでこの手の車両としては装甲はあるほうだが、それは主力戦車との撃ち合いを想定したようなものではないのも同じである。
そして、その発砲と間髪入れずに随行していた歩兵が、ダネルFT5対戦車ロケットを撃ち込んだ。
76mmAPFSDSと95mmHEATを叩きこまれた謎の戦車は、弾薬に誘爆したらしく、ソ連戦車よろしくハッチから勢いよく火柱を上げて炎上した。
新世界暦2年2月15日 南アフリカ共和国 ケープタウン ケープタウン国際空港
「敵戦車1輌撃破。通りをまた1つ封鎖できました」
無線の報告を受けた参謀が地図に×印をつける。
ケープタウンの市街地地図には多数の×印がつけられており、それはその道が対戦車障害物で封鎖出来たことを示していた。
「なぜか敵が歩兵と戦車でバラバラで行動してくれて助かったな」
市街地で歩兵の援護をつけずに戦車を前進させるなど、撃破してくださいといっているようなものである。
仮に歩兵携帯の対戦車兵器が存在しないとしても、対戦車砲の待ち伏せは勿論、それこそ火炎瓶を持った歩兵だって戦車にとっては脅威になり得るのが市街戦である。
前線司令部となっているケープタウン国際空港のターミナルには多数のディスプレイや机、地図の張り出されたホワイトボードなど、デジタルとアナログ入り乱れて多数の情報が氾濫していた。
液晶ディスプレイには多数のUAVから送られてきたリアルタイムの映像や、空軍から送られてきた周辺空域の情報などが表示され、貼りだされた地図は書き込みだらけでぱっと見ではどこの地図かわからなくなっているものから、現在の戦況が整理されて赤と青のマグネットが貼られているものまでさまざまである。
「敵がバカなのか、戦闘経験が無いのか・・・」
「私としては前者であって欲しいものだがね」
苦々しい顔で現場司令官である大佐は言うが、どうであれ相手がミスをしているのならそこを遠慮なく突くのが戦争というものである。
「間もなく第一戦車連隊も到着しますし、そうすれば一息つけるでしょう」
「問題は上だがね」
そう言って大佐は忌々し気に上を指差す。
彼の言う「上」は、陸軍上層部や政府のことではなく、本当に「上」、空のことである。
南アフリカの保有する作戦機はJAS39Cがたったの17機。訓練用である複座のJAS39Dを足しても26機しかない。
いくらJAS39の整備性が高く、短い時間で再出撃が可能、といってもパイロットはそういうわけにもいかないし、そもそも重整備が全く必要ない、というわけでもないわけで、この少ない機体で制空権をどうにかこうにか押さえているのだから、空軍は頑張っていると言える。
もっとも、それもミサイルの備蓄が底をつきそうな現状では時間の問題だったが。
「空軍のエアカバーが無くなったら」
「携SAMと35mm機関砲がエアカバーの全てになるな」
「・・・撤退ですかね」
「・・・それまでにアフリカ連合がどうにかしてくれることを祈ろう」
しかし、その彼らが期待するアフリカ連合とて、200機以上のF-16を保有するエジプトは別格にしても、まともな空軍を持つ国なんて数えるほどしかないのである。
なんせ空軍は金がかかるので、経済的に苦しい国が多く、しかも政情も不安定となれば、各国とも少ない予算は陸軍に傾斜しがちである。
「あとは介入してくれそうな国は・・・」
「イギリスはジブチに空軍を派遣していますが、別の紛争に介入している現状ではこちらにかまってはくれないでしょう」
ますます悲観的になるが良いニュースがないわけでもない。
「出現した大陸の反対側にあたる南米側でも交戦が始まったとの情報がありますね」
「同じ国なら二正面を始めたってことだろうが、そもそも向こうの大陸がどうなってるのかなんて、いまのところさっぱりわからんしな」
仮に二正面を敵が始めたとしても、「今は」それだけの余裕があるということで、戦線の厳しさはしばらく続くと言うことである。
「まぁ、南米で戦闘をはじめたのならそのうちブラジルも介入するだろうし、どうにかなるか?」
「どうなんでしょうね?」
先行きの見えない戦線を支えている指揮官達だが、とりあえず今をどうにかするしかないということは変わらないのだった。
新世界暦2年2月15日 大清帝国 帝都 皇宮
「ええい、軍の連中はなにをだらだらしておるのじゃ!朕にさらなる新たな領土を献上するなどと言って、ちっとも進んでおらぬではないか!あの嘘吐きどもめ!」
一言で言うと「中華っぽい」印象を受ける華美な装飾の施された部屋の中で、子供のように地団駄を踏んでいるいい歳の一際派手な服の男がいるが、周囲に大勢いる男や女たちは、それを見ておろおろしているだけである。
「陛下、お鎮まりくだされ。まだ将軍たちに進軍の命令を下してからひと月も経っておりませぬ。軍を進めるにも準備が必要になりますれば・・・」
「ええい、黙れ黙れ!」
まさに陛下御乱心といった感じで当たり散らしているが、周囲でおろおろしている集団も心なしか「慣れ」が見られる。
要するに「おろおろしている」ような演技をしてはいるが、内心「またか」と思っているわけである。
陛下が当たり散らしているのに、「またか」みたいな顔をして平然と見ていると陛下の逆鱗に触れる可能性が高いし、他の侍女や宦官に足を引っ張られる要因にもなりかねない。
結果、全員が「またか」と思いながらも、陛下の乱心に困惑しているような大根演技をする羽目になるわけである。
「世界最強の軍だなどと、口だけは回って役に立たん連中よ!」
蝶よ花よと育てられた皇帝は、勿論軍のことなど理解していないし、興味もない。
だが、自分を飾るモノは大好きなので、軍に新たな領土を献上すると言われれば舞い上がるし、派手なパレード用装備も大好きである。
しかし、その国の実態は、旧態依然とした古い社会体制を温存しており、技術革新とも無縁で軍の装備も全て輸入に頼っていた。
そんな軍隊が「世界最強」なわけがない、と少し考えればわかるのだが、皇帝がそんなことに頭を使うわけが無いのである。
皇帝の頭にあるのは後宮の充実と日々の豪華な食事のことだけである。
なんでこんな国が存続しているのか?と言う話だが、一般国民の教育水準が低いところに抑えられ、既得権者である貴族層が強固だから、ということに尽きるのだった。
まぁ、少し考えればわかるが、そんな国の軍隊がどれだけ良い装備を揃えようが強いはずがないのだが。
次は・・・1週間以内かな?




