面倒な国々
投稿するの忘れてた(震え
新世界暦2年2月10日 日本国東京都 内閣総理大臣官邸
「で、状況は」
頭が痛い、とばかりに頭を抱えながら首相が問うた相手は外務大臣と防衛大臣である。
「ロシアと中国は地上戦も含めて大規模な武力衝突に突入したことが確実なようです。今のところは中国東北部とシベリアが主戦場ですから、両国の中枢への影響は軽微ですが、事態の収拾が見えない以上、果たしてこのまま“辺境の武力衝突”で終わるかどうか・・・」
「実際、中国はウラジオストクに向けて攻勢を強めていると見られ、ロシアもウラジオストクを譲る気は無いでしょうから、事態はより悪化すると見られます」
はあああああ、と首相は長い溜息を吐く。
いくら隣国でなくなって、惑星の裏側の出来事になったとはいえ、二大国の戦争である。
影響がないわけが無く、転移の混乱から持ち直して新世界利権で潤っていた各国の株式市場も、あっという間に荒れ模様で、金が高騰するという危機の際にありがちな値動きになっていた。
「常任理事国同士の戦争ですから、国連、特に安保理は機能しないでしょう」
「あの二国相手に総会の決議に意味があるとも思えませんがね・・・」
常任理事国に拒否権のある安全保障理事会と違って、国連総会は各国1票の多数決である。しかし、その決議に強制力はなく、停戦監視や兵力引き離し等の軍事行動を伴う場合は安保理の決議が不可欠である。
「ただ、現在の戦況はともかく、全体で見るとインドとゲルマニアと名乗る国も敵に回している中国のほうが不利でしょう。特に今のところ演習等で無言の圧力をかけているだけのインドと違って、ゲルマニアの方は実際に交戦していますし、ロシアの動きに呼応した動きも見られるようなので、何らかの外交関係の構築に成功しているものと見られます」
「敷島大公国から得られた情報では、ゲルマニアは4個の空母機動艦隊と4個の戦艦打撃艦隊を擁する大海軍国のようです。空軍、陸軍も強力で、元の世界では科学技術で世界一と言われていたとか」
外務大臣が敷島大公国に派遣されている交渉団からの報告に目を通しながら発言する。
「かの世界は概ね地球の1960年代から70年代前半の技術力と見積もられていますが、ゲルマニアは一部技術で90年代にすら手をかけている可能性があります」
「とんでもない連中だな・・・」
呆れたように首相は言う。
要するに乱暴に言ってしまえば、他は61式戦車なのに、ゲルマニアだけ90式戦車だといえる分野すらある、ということである。
「どんな国なんだ?なんか名前からすると第三帝国とかナチスとかを連想するが」
「それが、共通点が無くも無いですが、割と真逆な国ですね。人種政策は寛容というよりそもそもそんなものは気にしていないといった様子だそうで・・・」
「はえー」
勝手に特定の民族や宗教を弾圧してそう、とか考えていた首相は感嘆の声を上げる。
「実際、黒人の閣僚や少数民族出身の将官などもいるようです。国自体は元々は大陸の中の小国の1つだったようですが、今の総統が政権を取ってから拡大路線に転じ、いくつかの国を吸収しながら大きくなった、というのが正式な国名に連合共和国とついている由来だそうです」
「そうはいっても武力も使ったんだろ」
「それはそのようですが、もともとかの大陸には大きな国が無く、他大陸に対して発言権が弱く、煮え湯を飲まされることも多かったことから、強力な国家の出現はむしろ歓迎されたようです。まぁ、先ほど述べた人種の差を何も気にしない国家政策も、元々は寄せ集め故のものでしょう」
個々人の中にある人種観までそう簡単にフラットに出来るものかなぁ、という疑問を抱いた首相だったが、そんなことは自分の仕事には関係ないどうでもいい話か、と頭の隅に追いやる。
「実質的に総統による独裁体制ですが、総統自体はもはや皇帝のように機能しているらしく、その下にある内閣は選挙結果によって何度か入れ替わっているとのことで、事実上の立憲君主制だと敷島では認識しているようです。しかし、総統も高齢で後継者問題によっては国自体が不安定化する恐れがあると敷島では危惧していたようです」
「どこの世界も大変だなぁ」
他人事のように首相は言うが、お前も大変じゃねぇとダメなんだよ、と横で黙って聞いている官房長官がジト目で睨んでいる。
「そういえば、人種で思い出しましたが、敷島の世界にも世界樹島やジュラシック大陸と同じでエルフとか獣人がいるそうですよ」
「へぇ。そうなんだ。国とかあるの?」
「いえ、それは無いようです。過去の戦争で人類に敗れて少数民族に転落しているようですね。人類との混血も進んでいて、消滅も時間の問題と言われているそうです」
「どこでも迫害される民族はいるんだねぇ」
「ちなみに、敷島にはエルフと獣人の保護区があり、一般人の立ち入りは基本的に禁止されているそうです」
「隔離することで保護か。けどそれって動物扱いってことだよね」
それもどうなん?という顔を首相はするが、他国のことだしどうでもいいか、と考えるのを止めた。
そもそも互いの利害の一致とはいえ、世界樹島をそのように扱っているのも事実である。
「ゲルマニアは混血には寛容ですが、純粋な亜人種は迫害される傾向にあるようです。よくわからない基準ですが」
「混血はいいのに、純粋種はダメなのか・・・」
「敷島は純粋種は隔離保護、過去に生まれた混血は特に制限はないようですが、保護区には入れないようです。まぁ、隔離政策が始まって数世代になるらしいので、もはや血も薄まっているのでしょう」
「隔離してる、ってことは過去に何かあったんだろうねぇ。まぁ、そのへんは追々か」
「アズガルドに攻め込んだアトランティスには、亜人種、混血ともに“いない”とのことです」
「あっ」
まさに察し、と言った感じで首相は声をあげる。
「とはいえ、敷島の世界全体での人種政策がわからんしなぁ」
「アトランティスの人類種のみを認める政策、というのはかなり極端とのことです。他に汎スラブ社会主義同盟がスラブ民族を1級社会主義市民、他の人族を2級社会主義市民、亜人種を3級市民としているそうです」
「・・・社会主義ってなんだっけ?」
「統治者が都合のいいように社会を歪められる統治体制のことですよ」
「・・・口悪いな」
「ちなみに、1級と2級の違いは政府幹部になれるかどうか以外の差はないそうです。3級は事実上の奴隷とのことでした」
「ひでぇ話だ」
碌な国ないな、と首相は呟くが、国家の数と割合で考えると地球もたいがいなので他人のことは言えない。
「他に大清帝国が大清族、敷島の写真を見た限りは満州族やモンゴル族の特徴が強いようですが、その民族以外を市民権のない奴隷としているようです」
「ふーん」
「人種政策についてはこのアトランティス、汎スラブ社会主義同盟、大清帝国が最右翼とのことです」
「てことは逆のところもあるわけだ」
「ゲルマニアが混血は気にしないが純粋種には排他的、もっともこれは制度的なものではなく、社会風習的なもののようですが。これが中道あたりになるようです。憲法や法律、社会制度では平等だが、大衆意識や慣習といった社会風習で純粋種を排除する風潮ですね」
「・・・それで中道なのか」
「敷島は純粋種の隔離保護政策ですから、これの位置付けは微妙ですね」
「人として見てんのか微妙だわな」
「臭いものには蓋、とも言いますね」
扱いが面倒だから隔離して隠しちゃおう、という意識が見えなくもない。
「最左翼がリバタリアン同盟。一言で言うと自由です」
「・・・自由?」
「ええ、自由です。全ては個人に委ねられます。純粋な亜人種を嫌おうが、交配しようが、一緒に暮らそうが、追い出そうが、各集落に住む住人の自由とのことです。もちろん、獣人やエルフが集落を造っている例もあるようです」
「・・・それは国なのか?」
「中央政府は無いようですね。一応、各地からの拠出で中央軍は組織されているそうですが、民兵連合的な意味合いが強く、外征などは一切行わないようです」
「それ人種政策とか最早関係なくね?」
よくそんなもんが残ってるな、と首相は呆れかえる。
「何度か侵略は受けたようですが、統治を拒む者たち、ということですので・・・その、ベトナム化してどこも撤退に追い込まれたようですね」
「旨味がないならどこも手を出さんか」
「地政学的にも各国が無視してれば問題ない位置なのも幸いしたようですね」
それがいいことかわるいことかは別にして、どこにも必要とされなかったわけである。
「あとは比較的混血や亜人の純粋種が多い国では融和策をとっていることが多いようですね」
「まぁ、そらそうか」
また面倒な世界が増えたもんだなぁ、と中露の戦闘を伝えるニュースを見ながら首相は呟いたのだった。
新世界暦2年2月10日 敷島大公国公都 首相官邸
「いやぁ、しかし面倒そうな国ばっかだねぇ」
「ほんとにな」
日本から受け取った各国の情報を見ながら首相と軍務大臣は、なぜか参謀本部のある方角を見ながら言ったのだった。
次も一週間以内に




