艦隊決戦
新世界暦2年2月3日 ユーラシア大陸・ゲルマニア中間海域
大海原を堂々たる艦隊が往く。
軍艦としては白い印象を受ける艦体は、八一軍艦旗を掲げる人民解放海軍の臨時編成艦隊である。
もっとも、よく言えば「臨時編成艦隊」であり、悪く言えば「寄せ集め」とか「かき集めた」と言われるものである。
ゲルマニアとの交戦によって、稼働空母2隻は轟沈こそ免れていたが、実戦投入に耐えられる状態ではなく、ドック入りかそれに向けて曳航中という状況であり、艦隊の規模に比して、エアカバーはその防空ミサイルに拠っていた。
それでも、各型新旧合わせて16隻の艦隊防空艦を含んだ計35隻、空母がいなかろうが堂々の大艦隊である。
本来なら空母の復帰に向けて温存すべき艦隊を前に出してきたのは、上海から撤退する敵地上戦力の追撃のためである。
UFO型航空機は酷使が祟ったのか、ここのところ出撃頻度が激減しており、敵艦隊の戦艦は脅威になるものの、射程と哨戒能力で優っていると見たが故の強気であった。
他にも、地上基地からの援護が望める間に一気に仕掛けて、敵に再度の上陸を企図させないほどの大損害を与えるという北京の意思も強く働いていた。
「敵艦隊、射程に捉えました」
旗艦となっている55型駆逐艦2番艦「大連」の戦闘指揮所では、使い捨てUAVからの情報を元に、艦隊の攻撃タイミングが計られていた。
「航空部隊は?」
「攻撃発起点まであと2分から15分。部隊によって差が出ています」
「完全な同時攻撃にはならんか」
ふむ、と司令員は一瞬考えこむ。
もっとも、重要なのは「同時弾着」であって、「同時攻撃」ではないので多少のズレは問題ないのだが、10分以上はズレ過ぎである。
「これ以上の深追いは出来んし、止むを得んか」
「司令員?」
「対艦戦闘、全対艦ミサイル発射準備」
「対艦戦闘、各艦、全ての対艦ミサイル発射準備、射撃諸元入力開始。全艦、データリンクに従い攻撃準備を行え」
史上最大規模の対艦ミサイル飽和攻撃に向けて、艦隊は一斉に回頭を開始した。
新世界暦2年2月3日 ユーラシア大陸・ゲルマニア中間海域 人民解放海軍臨時編成艦隊 東方100マイルの海域
「中国艦隊が対艦ミサイルを発射したようです」
「・・・間に合わんかったか」
こちらも使い捨てUAVから送られてくる戦況を眺めているのは、ロシア海軍太平洋艦隊改め、南方艦隊となった面々である。
もっとも、バルチック艦隊からの増強を受けているので規模は増しているのだが。
「ここからではこちらの艦隊防空の圏外です」
「そこは彼ら自身にどうにかしてもらわねばなるまい?中国本土上陸を果たした連中だ。彼らだって木偶ではないのだろう」
彼らがここにいる理由は1つ。
上海から撤退するゲルマニア追撃に出てくるであろう中国艦隊を叩くために出撃してきたのである。
ゲルマニアとロシアの外交会談の結果、今回のゲルマニアの撤退作戦をロシアが支援することが友好関係を結ぶ最低条件とされたためである。
中国との直接交戦がかなりのリスクを秘めていることは事実だが、逆にゲルマニアを同陣営に引き込むことで中国はロシア、ゲルマニア、インドに包囲される形になるので、局地紛争で終わるだろうとの読みがロシア首脳陣に働いた結果である。
そういう「局地紛争で済むだろう」から全面交戦になった例なんていくらでもある、というか自分たちがグルジアとか相手に散々やったことなのだが、一見すると理論的な推測があれば、それが自分に都合が良いほど信じてしまうのが人間というものである。
「中国艦隊はここ10年で爆発的に艦隊防空艦を増やしています。我が艦隊の攻撃で抜けるでしょうか?」
「さてな・・・空母はいないようだし、早期警戒機がいないのならやってみないとわかるまい」
キーロフ級巡洋艦1隻とスラヴァ級巡洋艦2隻、ゴルシコフ級フリゲート2隻による超音速対艦ミサイル釣瓶撃ち。
艦隊の数は中国より圧倒的に少ないにも関わらず、これだけで68発の超音速対艦ミサイルを搭載しているのだから、かなり攻撃的な設計と言えるだろう。
「各艦、攻撃準備完了。リアーナ通信感度良好」
「攻撃開始」
「各艦、ミサイルハッチ開放。攻撃始め」
すさまじい発射煙と轟音とともに、次々に破壊の化身が飛び出していく。
アメリカの原子力空母を一撃で行動不能にすることを目的にした対艦ミサイルを、駆逐艦以下の艦艇しかいない艦隊に向けて撃っているのである。
1発でも敵防空網を抜ければ、イコール1隻撃沈と見て間違いない。
各艦から発射されたミサイルは、それぞれ「群狼」のようにリーダー機とのデータリンクによって突入高度や方位を変更し、回避行動も取ることで撃墜を困難にする。
「2発脱落。メインエンジン点火に失敗した模様」
「・・・この不発率だけはいつまでたっても改善されんな」
「メンテも出来ずにただの爆薬と化したミサイルが発射筒に入ったままだった時期よりは撃てるだけましですよ」
ふっと息を吐いた参謀の背中にはソ連崩壊後の海軍の惨状を知る哀愁が漂っていた。
「敵艦隊、ミサイル発射を確認」
「対艦ミサイルか?」
「いえ、対空ミサイルの模様。迎撃されます」
「やはり新鋭艦ばかりなだけあってレスポンスが早いな」
新鋭艦と呼べる艦がゴルシコフ級2隻しかいない艦隊の面々は心底羨ましそうに言う。
「敵艦隊、迎撃第一群着弾。66発中12発が迎撃されました」
「むぅ・・・」
「敵艦隊、迎撃続きます」
ゴルシコフの搭載する比較的新しい超音速対艦ミサイルであるP-800はともかく、キーロフ級やスラヴァ級の搭載するP-1000やP-700はソ連時代に開発されたミサイルであり、いくら超音速飛行を行っているとは言っても、飛行高度が比較的高いので最新の防空システムからすれば鴨である。
「間もなく敵艦隊防空圏を抜けます。残弾11発」
「本国の連中が聞いたら卒倒するのか、喜ぶのか微妙な数字だな」
「もともと1発でも防空網を抜ければ勝ち、という設計思想なんですから小躍りして喜ぶのでは?」
「その着弾相手が空母ならな」
戦闘艦相手に個艦防御を何発抜けるんだろう?と心配している艦隊幕僚達だが、そもそも3tから10tまである大型物体が超音速で突っ込んでいくのだから、仮に迎撃を受けてもそのまま直撃して大損害を与える可能性がある、ということを忘れているのだった。
新世界暦2年2月3日 ユーラシア大陸・ゲルマニア中間海域 人民解放海軍臨時編成艦隊
「敵ミサイル着弾・・・南昌・・・轟沈、瀋陽航行不能、傾斜角増大しつつあり・・・復旧の見込み無し」
「ロシアのクソ野郎ども!やりやがったな!」
突如脇腹を抉られる形になった艦隊司令員怒り心頭といった態度を隠そうともせず、怒鳴り散らす。
「残った対艦ミサイルを全てロシア艦隊に向けろ!」
「いけません!ロシア艦隊は既に対艦ミサイルを撃ち尽くしていると思われます。脅威ではない以上、当初の目標を優先すべきです!」
「だが、このまま連中に舐められたままでいろというのか!」
「ロシアが全面対決を辞さぬという以上、まずは潰せる相手を潰しておかなければ、我が国はインドも含めた完全な三正面を強いられます!今は!今だけは!」
司令員を必死になって説得している参謀も、その目は血走っており、ロシアに対する隠し切れない怒りが渦巻いていた。
「・・・当初の目標への対艦ミサイル攻撃を再開する。対艦ミサイルを撃ち尽くした艦から被弾した艦の救援に当たらせろ」
「現在の被害集計、轟沈2、大破航行不能1、大破戦闘不能2、至近弾による損傷3」
ゲルマニア艦隊に対する攻撃を再開しながらも、落伍した艦や救援した艦などで陣形は大きく乱れていた。
そこに先ほどまでの堂々たる威容はなくなっていたが、飢えた狼とでも言うべき凄味が増していた。
しかし、人の意志だけでは如何ともし難いのが戦争であり、彼らには更なる苦難が待ち構えていた。
「艦隊北東40マイルに突如飛行物体出現!先ほどと同じ、ロシアの超音速対艦ミサイルP-700、およびP-800と思われます!」
「近すぎるぞ!レーダー員は寝ていたのか!指示は間に合わん、とにかく各艦の判断で迎撃させろ!」
「わかりません!突然出現しました!」
「・・・潜水艦か」
ソ連時代からロシア海軍の真の主力であった潜水艦隊。
転移後に初めてその牙をむいた相手が、未知の相手ではなく同じ地球国家であったのは、人類の業の深さの現れだったのだろうか。
もっとも、それに直面した中国艦隊にとっては、そんなことはどうでもいい話ではあったのだが。
次も一応2週間みといてください。1週間以内には出来ると思いますが




