どこもかしこも揚げ足取り
新世界暦2年1月30日 日本国東京都 国会議事堂
「総理!アズガルドにおいて演習参加中の自衛隊が戦闘行為を行い、殉職者まで出したという話は本当ですか!」
空自の警備兵1名の殉職、それも演習派遣中の交戦の結果となれば、開催中の通常国会で野党が取り上げないわけは無かった。
「ええ、昨日のことであり、政府として詳細な情報は収集中であります」
実際、大方の情報は入っているわけだが、正式な報告書がまわっているわけはなく、憶測も含んだ答弁をするとあとが面倒、というのが「まだなんもわかんねぇよ」という答弁の理由である。
「総理として事態を把握していない、ということでしょうか!?」
揚げ足を取るのが野党の仕事だと思っているタイプの議員なので、どう言おうととりあえず何かしら噛みついてくる、というのも先ほどの答弁になった理由であり総理はうんざりしたような表情をわずかに浮かべる。
「基地内に侵入した武装工作員による襲撃を受けた、という報告は受けておりますが、現地においても事態の把握に努めている最中であり、現状では昨日の記者会見以外に申し上げられることはございません」
あくまでも余計なことは言わない、というスタンスの首相はさっさと答弁を打ち切ろうとするが、揚げ足を取った回数が自分の実績だと思い込んでいる野党議員がそんなことで引き下がるわけが無かった。
「では、質問を変えますが、この戦闘行為に対し総理は何らかの命令をされたのでしょうか?」
んなもん派遣命令以外にいちいちしてるわけねぇだろボケが、とは首相の心の声だがそんなことを国会で言ったら間違いなくそのまま衆議院解散である。
「派遣命令において、派遣地の状況を鑑み、自己及び庇護下にあるものの生命を守るための行動を許可しており、今回の行為もその範囲内であると考えます」
本来は昨年のようにホリアセが航空攻撃を仕掛けてきた場合の迎撃を前提にした命令ではあったが、別に用いる戦力や想定する相手が規定されているわけではないので問題はない。
明瞭でない命令は現場を混乱させるが、(出す方にとっては)政治的には正しい、というひとつの例である。
ちなみに、よく言われる話だが、米軍は「やってはいけないこと」が決まっているが、自衛隊は「やってもいいこと」が決まっているので行動に柔軟性が欠ける、と言われている。
「しかし、現に死者が出ています!総理の命令に問題があったということではないでしょうか!」
最早噛みつければなんでもいいのか、という感じだが死者が出ている以上ここは避けられない点である。
「夜間の警備中に襲撃を受けたとのことですので、どのような命令を出していたとしても防ぐことは出来なかったと考えています」
「そのような危険な場所に派遣した責任はないのですか!?そもそも、襲撃者は何者ですか!?アズガルドの反日感情の噴出による武装襲撃ではないのですか!?」
とりあえず総理を叩ければいい、と言った感じで論点が迷子になりはじめているが、この議員はいつものことなので、野党側も一部はまたか、という顔をしている。
とにかく総理を叩いて、テレビで取り上げられて自分の支持者にさえ受ければいい、というタイプの議員なので、こんなことを言っていても自衛官の死などなんとも思っていないタイプである。
早く終わんねぇかな、と思いながら総理はいつもの答弁を繰り返すのだった。
新世界暦2年1月30日 日本国東京都 防衛省
国会で総理が早く終わんねぇかなと思っているころ、当事者の防衛省でもその問題が話し合われていた。
「警衛任務中の殉職か・・・」
「過去に陸自でもありましたが・・・最初から襲撃を目的にした相手の初撃を防ぐのは困難でしょう」
1971年に陸上自衛隊朝霞駐屯地において、警衛任務中の自衛官が左翼過激派の襲撃を受け殺害されるという痛ましい事件があった。
この事件以降、随時警備内容の見直しは行われているものの、警衛任務というのは、警察で言うところの威力警備であり、武装警備の様相を見せることで襲撃を未然に抑止するものである。
言い換えれば、強い襲撃の意思を持つものには無意味であり、警衛任務の主旨を鑑みれば、必ず後手に回ることになるという、ある意味大変危険な任務である。
「しかも今回襲撃を受けたのは元々装備不足が懸念されていた空自の警備隊ですからね」
陸自の警衛任務は駐屯地にいる部隊の持ち回りなので、当番にあたる部隊によって差が出るとはいえ、装備不足が問題になることはない。
海自も元々は空自と似たり寄ったりだったものの、情勢変化で海上で船舶に乗り移っての臨検任務などが考慮されるようになると、特別警備隊や陸警隊も含めて個人装備の拡充が図られるようになった。
実際、空自は調達しなかった89式小銃も海自はかなり広く行き渡っているし、ショットガンや個人装備用の拳銃などの陸自の通常部隊も持っていない装備もあったりする。
そう考えると、空自の警備隊の装備改善はまだまだ控え目だったということになる。
・・・まぁ、普段は民間の警備会社に警備を委託している本丸よりはましだろうが。平時の防衛省の警備に立っている人間が武装していないのは、単純に「自衛官ではない」からである。
「防弾着の配備を進めるべきか・・・」
「正直、素材や運用思想の変化が早すぎて、陸自でも流行から2、3歩遅れですよ?予算が限られる中で空自が優先すべき装備かというと」
「しかし、装備していれば防げたかもしれない事案があった以上、配備を優先せねばなるまい?別に陸自の一部部隊のように最優先で戦闘効率を追わねばならんわけでもなし、既存の3型を行き渡らせるだけでよかろう」
一応、空自でも陸自と同じ防弾チョッキが採用されているし、配備もされてはいる。
十分に充足しているか、と言われると別の話だが、警衛任務に就く人間にはセラミックプレート入りで着せる必要があるだろう、というのが今回の件の結論だった。
結果、内規の改訂で空自で警衛任務中はセラミックプレートまでフル装備の防弾チョッキを着用することが義務付けられることになるのだが、「海外派遣時」という文言を入れ忘れたせいで真夏の昼間に国内でぶっ倒れる事例が多発することになったのはまた別のお話。
新世界暦2年1月30日 アズガルド神聖帝国 ドラスト大陸 セントーラス空軍基地
1名の死者と、若干名の負傷者、そして多大な混乱をもたらした武装工作員侵入事件があったものの、合同演習は予定通りに行われていた。
APTO加盟国間の連携を早急に確認しなければならない、という切迫感は平時ではなく戦時の演習だという危機感故である。
実際、アズガルド戦線では共同で航空作戦を行っている日米英を除き、シンガポールも台湾も、完全に担当地区を分けることで混乱を避けており、合同作戦などは一切行っていないのである。
各国間の事前調整や作戦中のデータリンクも含めた情報共有要領など、やるべきことは無数にあるが、空軍と言うのはある程度機材に頼れる面があるので、日常的に他国と親善訓練やら何やらやっている海軍よりはやりにくくても、最初も最後も人と人の折衝になりがちな陸軍よりはやりやすい。
とはいえ、演習の事前折衝なので、各想定で役割をローテーションしたりする順番を決めたり、対抗演習のチーム分けをしたりと、別に本気で揉めるようななにかがあるわけはなく、終始友好的な雰囲気で話は進んでいた。
一部を除いてだが。
「空軍としては防空軍の提案に反対である」
「近衛軍も防空軍の提案に反対である」
どこかが提案すれば他の二軍がそれに反対する、ということを延々繰り返している敷島大公国の空軍、防空軍、近衛軍の幕僚達と、今回は部隊は参加しない観戦のみの参加なのでそれを呆れたように眺めている海軍航空隊の関係者、そして「言語障壁が無いから」とお守を押し付けられて頭を抱えている空自関係者とくじ引きに負けて放り込まれた台湾空軍と米空軍という混沌空間がそこに出現していた。
これが対抗演習で最初の侵攻側部隊担当なのだから、防衛側は楽勝だろうというのが大方の見立てであった。
ちなみに、数的には侵攻側優位だが、侵攻側作戦会議がこんななのと、防衛側には基地防空として空自の基地防空用地対空誘導弾とバーレーンのホークSAMやアベンジャーがいる上にシンガポール空軍のAEW&Cもいるので、どちらが優位かと問われると概ね防衛側と言える状況である。なお、空自のE-2Cは事故防止のため演習空域の監視を行う、言わばどちらにもつかない運営側である。
「空中空母は囮として前に出しつつ、防空軍と近衛軍が直掩。空自と敷島空軍が制空、米空軍と台湾空軍が隙をついて低空から侵攻、というのでどうでしょう」
「「「じゃあそれで」」」
空自の提案に、それまで揉めてたのはなんだったんだよというくらい素直に頷く敷島三軍幕僚。
あまりのあっけなさに米空軍と台湾空軍もポカンと口を開けてしまう中、演習の準備は進められるのだった。
次も1週間以内を目指しはしますが、2週間見といてもらえると・・・。




