秘密工作も昔は割と杜撰
新世界暦2年1月28日 アズガルド神聖帝国 ドラスト大陸 セントーラス空軍基地
世界情勢がますますきな臭くなっていく中でも、APTOによる初の大規模合同空軍演習は規模を縮小しつつも開催されることになった。
参加はアメリカからF-16Cが12機にKC-10、英国はEF-2000が8機とA400M、日本がF-15MJで6機とKC-46A、E-2C、台湾がF-16A(を過去の経緯で名乗るC型)を8機とC-130H、シンガポールがF-15SGを6機とG550CAEW、バーレーンがF-16Cを4機となっている。
なお、「空軍演習」なのでオブザーバー扱いだが、米海軍からF/A-18が8機とE-2D、米海兵隊からF-35Bが6機参加していた。
そして、基地のそばに飛行船のように係留された異形の存在が1つ。
全長450mを誇る敷島大公国の空中空母武御雷である。
搭載してきた戦闘機は24機。一見すると今演習の最大戦力を派遣した様に見えるが、近衛軍、空軍、防空軍が8機ずつという、お前ら何してんの?という編成で、機種もバラバラである。
近衛軍はとにかく贅沢に突っ込める技術と素材は突っ込んで開発された双発可変翼ジェット戦闘機の不知火11型、空軍は単発の軽戦闘機として開発された陣風21型、防空軍は邀撃機として開発された双発の閃電24型というなんの脈絡もないラインナップである。
そもそも空軍の軽戦闘機と防空軍の邀撃機はともかく、近衛軍のとにかく贅沢に資材を突っ込んで生産される戦闘機なんて、バカみたいに多い敷島大公国の戦闘機ラインナップと並んで無駄の極みである。
ちなみに、この三軍(に加えて海軍の艦上機)が好き勝手に要求仕様書を出して航空機を開発するせいで、敷島大公国には「大手」と呼ばれるだけで5社も航空機メーカーが存在しているが、その規模は元の世界で言うと中堅クラスばかりで、戦時の生産能力に疑問が持たれていた。
本来なら1月もない準備期間で部隊を派遣するなど有り得ないことだが、空母のような自己完結能力を持ちつつ、近衛軍所管で普段から公都近郊を遊弋している以外にすることがない空中空母があるから実現できたのである。
「しかしデカいなぁ」
そんな空中空母をAPTOの関係者たちが眺めている。
「未だになんで浮いてるのか謎なんでしたか」
「そうらしい。まぁ、残骸は大量に手に入ったが、無傷で手に入ったのは少ないからなぁ」
昨年のアメリカ戦役においては神聖タスマン教国の運用していた飛行艇を鹵獲したり撃破したりはしていたものの、その飛んでいる仕組みは全くの未知のものであり、解析も難航していた。
再現は不可能ではないか、という話も聞こえてきているほどなので、よっぽどなのだろう、というのが外野の見解である。
「アズガルドに侵攻した連中が持ってるのはあんなのが比較にならないくらいバカでかいようだな」
「だから難儀してるらしい。200m級をポコポコ落としたアメリカだってまだ事後処理が終わってないんだ」
魔導炉と呼ばれていた大型飛行物体の動力源が濃縮ウランだったというのも事後処理が終わらない一因ではあるが、それを差し引いても、地上で撃破された大型飛行艇の残骸など、陸上に突如タンカーが出現したようなものである。
その撤去だけでも大ごとなのだから、アズガルドに出現した超大型の飛行要塞にAPTOがまだ手を出していないのはある意味当然である。
後の撤去が面倒だからアトランティス本国に引き上げてからか、その途中の海上で落とそうというのが各国の一致した意見だった。
「しかし、戦争中だってのによくもまぁこんだけ戦力が集まったもんだ」
「本当なら地上部隊も来ての統合演習だろ。縮小された方だ」
これまで合同作戦をしたことのない国々が集まってできたのがAPTOなので、各国間の調整や経験を積ませるためと、敷島大公国の実力を測るために強行されたという経緯があるので、結構な規模が維持されたのである。
「合同編隊に邀撃訓練に対抗演習。演目が目白押しだな」
多忙なスケジュールに一同は気を引き締め直したのだった。
新世界暦2年1月29日 アズガルド神聖帝国 ドラスト大陸 セントーラス空軍基地外周
拡張が進むセントーラス空軍基地とその周辺の演習場だが、それを支えるための居住区を含めた町も急ピッチで拡張が進められていた。
それに伴い、大量の作業員も他の街から連れてこられており、人の出入りはかなり激しい。
今日も、そんな作業員を乗せたトラックが街に入ってきた。
基地の外縁に近づいたとき、轟音と共に戦闘機がその頭上を飛び越していく。
トラックの荷台から顔を出しながら、その姿をポカンと見送る作業員たち。
「なんだあの機体は・・・」
彼らの常識から外れた轟音と上昇能力を唖然としながら見送る。
「おい、お前。あまり喋るな。お前は特にホリアセの訛りが酷いんだ」
思わず声を上げた1人を、親方格が窘める。
「ようやく潜り込めたんだ。くだらないことでしくじるなよ」
今荷台に乗っている作業員は、その全員が親方格の部下である。
当然、そんな彼らが普通の建設作業員であるはずがなく、全員がホリアセの情報局員である。
「しかし、あの機体だけでもここを攻撃しようした空軍機が全滅した理由がわかるというものだ」
「国籍標がアズガルドのものではありませんでした。見ただけでも複数の国の機体のようでしたが」
「それを確認するのも我々の仕事だ。各自、街に入ったら昼間は割り当て通りに作業員としてふるまえ。夜は潜入班は基地の北端に集合」
全員が頷き、トラックが止まってからは普通の作業員として振る舞うのだった。
新世界暦2年1月29日 アズガルド神聖帝国 ドラスト大陸 セントーラス空軍基地北端
「全員揃ったな」
そう暗闇に小声で囁いたのは件の作業員達の親方格である。
むろん、「全員」とはいってもトラックに乗っていた全員ではなく、隠密潜入を専門にする工作員だけである。
「では行くぞ」
そういうと彼らは金網の上に有刺鉄線の張られたフェンスを越える。
彼らにとって不幸なことがあったとすれば、第一にはこのフェンスだっただろう。
セントール空軍基地は安定した気候と、いくらでも取れる敷地のおかげで、空自が開発試験の拠点にしようとしたり、APTOの合同演習拠点として整備しようとしたりしているせいで、拡張工事の真っ最中である。
結果的に、頻繁に敷地が変わるので、とくに施設のない北側境界線のフェンスが、なんの変哲もない、ただの金網と有刺鉄線だったのである。
ここに何かしらの警備システムでもついていれば、彼らも未知のものに警戒を示したかもしれないし、この時点で侵入がバレて警備斑が飛んできただろう。
「警備はいないようだな」
「事前情報では、定期的に車両での巡回があるようですが、こちら側には特に歩哨などはいないとのことです」
もともと僻地の基地だったので、住人が関係者くらいしかおらず、警備の必要性が薄かったので、今もその延長でさしたる警備体制が敷かれているわけではない。
もっとも、それを補う措置はとられているわけだが。
「・・・なんだあれは?」
月明かりに照らされた視界の先には、奇妙な四足歩行の何かが歩いていた。
「機械のように見えますが・・・」
彼らには知る由もないことだが、アメリカが持ち込んだロボット警備犬である。
もっとも、警備犬のような攻撃能力は無いので、巡回しながらセンサーで不審者がいないか捜索するだけなのだが、コース設定は都度その場で出来るので、セントール基地の警備システムとしてはぴったりであった。
「よくわからんが、あれを調べるのはまたの機会だ。今は接触を控えて格納庫か駐機場に向かうぞ」
彼らの任務は味方部隊を全滅させた機体の情報を集め、あわよくばそれを持ち出すことである。
そのために彼らの中には飛行機の操縦訓練を受けている者も含まれているのだが、ホリアセの機体を飛ばせたところで意味があるのかは別の話である。
圧倒的に数の足りていないロボット警備犬の巡回を掻い潜り、彼らは滑走路に出た。
これを横断しないと駐機場や格納庫には行けないのだが、当然身を隠す場所は何もない。
馬鹿正直に人がいるであろう施設の正面で横断するわけにはいかないので、外れた場所、基地の照明に照らされたわずかに外側を探して横断する。
「ん?」
何もないと思っていた横断先の芝生に偽装網を被った何かが複数鎮座していた。
「何だ?」
「わかりませんが、滑走路脇で偽装しているということは高射砲か何かでしょうか?」
彼らの推測はある意味で正しかったのだが、「何か」がある場所で声を出す、というのはマズい行為であった。
「誰か!?」
発された言葉の意味はわからなかったが、照明を向けられ問い掛けられる意味など言語が分からなくても同じである。
彼らは潜入の失敗を悟ると同時に、次のプランに切り替えたのだった。
次は1週間以内に。




