↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
第一次「異」世界大戦  作者: 七十八十
新世界暦2年
183/201

いつだって泥臭く、血生臭い

新世界暦2年1月24日 アズガルド神聖帝国本国東島 アトランティス帝国占領地域境界


アトランティス帝国軍による戦力一点集中による突破作戦は、ある意味においては成功しており、大きく戦線を進めることに成功していた。

しかし、その状態で後続の補給がほぼ望めないという状況に追い込まれたのでは、戦線における突出部など邪魔でしかなかった。


しかも、一点集中による突破に成功、とはいっても最初から犠牲を嫌ったシンガポール陸軍アズガルド派遣軍は、攻撃を受け流すように後退しながら戦っており、ゼロではないものの、大した損害を受けていなかった。

そこに増援として、74式戦車を主力に再編されたアズガルド神聖帝国陸軍第一機甲軍団が投入されたのだから、アトランティス側は必然的に突出前の状態までゆっくりと下がる選択をとったのである。


と、口で言うのは簡単だが、そう簡単にいかないのが陸戦である。

いつの時代も泥臭く、流血と無縁ではいられない、というのは世界を問わず同じである。


『目標、11時方向敵戦車、対榴、小隊集中、照準出来次第撃て!』


ノイズ交じりの無線が終わるかどうかのタイミングで、狭い車内にドシンという発砲音と、続けて排莢音が響き渡る。


『警報!2時方向に新たな敵装甲車!歩兵も展開中!』


車長がハッチから頭だけだして双眼鏡でそちらを見るが、戦車砲で撃つには微妙で機銃で撃つには遠い、といった目標である。


『小隊陣地転換!中隊と合流して攻撃前進!』


目まぐるしく飛んでくる指示に従い、彼らの駆る74式戦車I型は陣地転換を開始する。

ハルダウンして即席戦車壕としていた傾斜地から後退し、姿勢制御を通常状態に戻す。

もっとも、開発期間と費用の問題で、本来はアクティブサスペンションとして機能させられるはずの完全独立式油気圧サスペンションは俯仰角の増加にしか使えないのだが、オリジナルのままでほぼ整備されていなかったり応急修理だけで引き渡されてシャコタン状態のEやF型よりは遥かにマシである。


「あぁぁぁ、なんで最前線に・・・」


戦闘しながらも車内には不満が渦巻いていた。


「日本で演習だけしてれば良かったんじゃないのか・・・」

「いや、さすがに本土防衛戦なんだからやる気だそうぜ・・・」

「一番やる気無さそうなお前が言ってもなぁ・・・」


彼らはいつぞやのさぼっていたことで自衛隊と交戦せずに済んだアズガルド戦車兵達である。

日本で74式戦車の訓練を最初に受けていたグループなのだから、前線送りはある意味で当然なわけだが彼らは不満しか持っていないようだ。


『4号車がやられた!3時方向に敵対戦車ミサイル(ATM)!』


その無線に慌てて車長がハッチから顔を出せば、前方で炎上する味方と、右手遠方に対戦車ミサイル車両と思われる敵装甲車が僅かに見えた。


『撃てる奴は撃て!』


その雑な小隊長命令に3つの発砲音が響き、敵装甲車とその周囲にいたであろう歩兵が吹き飛ぶのが見える。


「やりすぎだろうが・・・」


いくら味方がやられたからってオーバーキルすぎるだろ、と車長は思ったが、戦車砲弾を日本からの輸入に頼っている現状ではその弾薬費もバカにならないのだが、それはまた別の話である。


激しい戦闘にはなっているものの、基本的に突出部を元に戻す、と言う方向で双方が作戦を展開しているので戦線の推移自体はスムーズ。というのが戦車隊の意見だが、前線で生身で戦う歩兵の意見はまた全く異なるものだった。




新世界暦2年1月24日 アズガルド神聖帝国本国東島 小集落


いくら計画的な撤退戦だとはいっても、戦場である以上想定外は常に起こるし、負傷者、それも車輛が無い歩兵となれば取り残される者がでるのは必然であった。

そうでなくても、車輛を失った歩兵は戦線の移動から取り残される可能性が高いわけで、掃討戦はそこかしこで発生していた。


「・・・無人のように見えるが」


アズガルド本土の農村部でよく見られる小集落の外縁部にある茂みから集落の様子を窺っていたアズガルド陸軍の歩兵中尉は小さく呟いた。


「中隊長、隠蔽されていましたが、集落の反対側で敵のものと思われる擱座したトラックを発見しました」


姿勢を低くしたまま近付いてきた兵士が報告する。

彼らの格好は、去年から特に変化の無い第二次大戦時のような単色の戦闘服で、防弾チョッキも着ていない。

しかし、唯一変わっているのは手にしている銃と弾薬入れである。


彼らの手にはその格好とは不釣り合いな真っ黒いM16A2が握られていた。

米軍の放出品を買い取ったのでまとまった数を手っ取り早く入手できたのがその理由である。


他にもアズガルドは20式小銃とM16A4、M4A1、L85A3を新品で調達しているので、近い将来苦労することになりそうである。

というか、結局L85(鈍器)を買っているあたりにアズガルドの立場の弱さが現れている気がするが、とにかく大量にいる歩兵の小銃だけでも素早く更新しないと、軍の近代化なんて夢のまた夢ということで、とにかく自動小銃の数を揃えるための止むを得ない事情である。


「つまり下手すると1個小隊くらいはいる可能性があるわけか」


仮に同数だとしても火力面で差は無い、はずである。

分隊支援火器として日米英と同じくMINIMI(M249)も採用しているし、擲弾手もいるのでドラスト大陸のようにはならない、とわかってはいるが配備からせいぜい数か月しかたっていない装備なので、扱いに熟練しているとは言い難い。


「A小隊を今の位置から前進させる。B小隊は援護位置へ。C小隊は敵の逃走に備えろ」


ガサガサガチャガチャと道路脇の溝を屈みながらA小隊が集落に接近する。

一見すると第二次大戦の映画のワンシーンのように見えるのに、持っている銃だけが違和感バリバリである。


「反応がないな・・・」

「火力支援で吹き飛ばせれば楽なんですが・・・」


ひやひやしながら状況を見守っている中隊長以下中隊本部は、好き勝手言っている。

集落を火力支援で吹き飛ばすわけにはいかない理由は、当たり前だが自国内だからである。

他国に侵攻しているのなら更地にしても休憩場所が無くなった程度の話ですんでも、自国内でそんなことをすればいろいろあるし、そもそも何のために戦っているんだと言う話になってしまう。


「A小隊、入口の建物に取り付きました」

「B小隊も前進させろ。中隊本部も前進。C小隊は周辺警戒」


そう言って中隊本部はB小隊と共に集落へ前進を開始する。

当たり前だが道の真ん中を堂々と行くようなことはせず、道の両側に掘られた排水路や茂みで身を隠しながら前進する。


が、B中隊が集落まで50mほどまで迫ったとき、その場の誰もが聞き慣れているが、それを向けられたくはない音が響き渡った。


「伏せろ!」


中隊長がそう叫んだときには全員が伏せていたが、運の悪かった数名は倒れたまま動くことはなく、血溜まりの中に倒れ伏している。


「鐘楼の上!敵機関銃!」


米軍なら間違いなくジャベリンを撃ち込んで後から怒られる状況だが、無いものはどうにもならない。


「とにかく牽制しろ!」


中隊長は近くにいた機関銃(MINIMI)手の頭を叩きながら、手ぶりですでに集落に取り付いているA小隊に前進して制圧するよう指示を出す。

散発的に反撃の発砲を始めたアズガルド側だが、高所を取られている現状では有効打というわけにもいかない。


一方、鐘楼を制圧するために集落内に入ったA小隊も、集落内に潜んでいた敵と交戦になり進めなくなっていた。


「納屋の二階に敵がいる!擲弾手!制圧しろ!」


小隊長がそう指示すると、擲弾手が納屋までの距離を目測で測り、担いでいた擲弾筒を地面に設置した。

旧日本軍が運用していた八九式重擲弾筒に似たそれは、従来からアズガルドが運用していた兵器であり、現場部隊の強い要望で運用が継続されていた。

結果的にM203の採用が見送られているので、良かったと言えるのかもしれないが、これがあるからM203をいらないと判断した、とも取れるので、結局どちらが良かったのかは微妙なところである。


目測で狙いをつけた擲弾手は、立て続けに3発、少しずつ狙いを変えて発射した。

機関銃の射撃音に比べると遥かに頼りない音だが、そうして発射された3発の50mm擲弾は1発が納屋の手前に落ちて隠れていた敵兵を吹き飛ばし、2発は納屋に命中して被害を与えていた。


「軍曹!一分隊を前進させろ!残りの分隊は援護!」


従来のボルトアクションライフルでは考えられない濃密な援護の基、分隊は前進し、敵が潜んでいそうな建物に片っ端から手りゅう弾を投げ込んでいく。

ここまでやるならもう空爆で吹っ飛ばしても一緒なんじゃねぇのかと言う話だが、更地になっていると言い訳出来ないが、建物が残っていれば言い訳ができる、という政治サイドの都合も多分に含まれているので仕方がない。


やがて最後に残った鐘楼も、他が制圧されてはどうしようもなく、抵抗むなしく制圧された。




新世界暦2年1月24日 アズガルド神聖帝国本国東島 小集落内 臨時救護所


戦闘が終了した小集落内の、比較的損傷の少なかった大きな厩舎に臨時の救護所は設営されていた。

とはいっても、軍医がいるわけでもなく、中隊の衛生兵と手持ちの物資だけで運営されているのだが。


「ぐぁあああ、いてぇ、俺の足がぁあああ」

「うるせぇ!こんなもんかすり傷だ!ぐだぐだ騒ぐんじゃねぇ!」


どこかから運ばれてきた診察台代わりの大きなテーブルの上で3人がかりで押さえつけられた男の足を衛生兵が診ているが、叩いている軽口に反して顔は真剣である。


「・・・動脈がやられてる。もう・・・」


衛生兵は小声で押さえつけている1人、小隊長に耳打ちする。


「出来るだけのことはしてやれ・・・」


小隊長は感情を押し殺した声で衛生兵にそう告げる。


救護所内には他にも腕を撃たれたり、手りゅう弾の破片を受けたりした負傷者達がいた。

中には敵の負傷兵もいるのだが、何かしらの処置が施されているアズガルド兵と違って放置されているに等しい。

手持ちのリソースが限られる現状で、誰を助けるか、という選択を迫られれば躊躇いなく味方を助ける。

しかも、この場合の味方、というのは同じ中隊の顔見知りである。

人道主義で敵味方分け隔てなく、などというのはただのお題目である。


「輸送車が来たぞ!後送する負傷者を早く!」


アズガルド軍内で、自動車は自動小銃と同じく大量配備で一気に近代化が進んだ数少ない装備である。

もっとも、日本から民生用の自動車を大量購入しただけなので、不整地走行に不安がある車輛も少なくないが。


「何人だ!?」

「寝かせるなら2人!」

「・・・彼はここで診ます。そことあそこで寝かせてる2人を」


押さえつけて足の処置をしている兵士ではなく、左腕に銃弾を受けて千切れてしまっている兵士と手りゅう弾の破片で目を負傷した兵士を指して搬送するよう衛生兵は指示する。


「・・・念のため聞くが理由は?」

「左腕の彼は最初から腕は千切れてしまっていたので戦友が縛り上げて止血していましたから、見た目に反して望みがあります。目の彼は腕の彼に次いで搬送に耐えうる重傷です」

「・・・そうか」


今診察台で診ている兵士についてあえて聞くことを止めた小隊長は、再び押さえることに意識を集中するが、先ほどより暴れる力が弱まっているのを嫌でも感じざるを得なかった。

足を撃たれた彼は、強がって適当に傷口を縛って自分で小銃を杖代わりに救護所まで這うように歩いてきたのである。

動脈がダメなのなら、すでに絶望的な量の血を失っているだろう。


傷口の様子を見るのを止めた衛生兵は、注射器を取り出すと口で保護キャップを外して傷口付近に適当に撃ち、中の薬剤を注入したのだった。

次も1週間以内に

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] …最後の負傷兵の描写は正しく戦場の現実ですよね……。 重傷者だから優先して助けるって言うよりかは、重傷+まだ助かるかどうかで判断してるあたりがリアルです。 プライベートライアンで分隊員の…
[一言] お疲れ様です おお、サボリ戦車兵たち大活躍。彼らの武運長久を祈ろう 大腿動脈からの出血は即命にかかわりますからね… 止血帯でぎゅうぎゅうに縛り上げて絶対安静が必要だったのに意地張るから…
[一言] ジャベリンがないならPSRL-1を撃てればいいじゃあないー。(をい) 小銃に関してもインド式に部隊や方面軍にすれば負担はそれほどでもないはず… そのうちどこかの企業が合併企業作ったりして兵…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。