お前が持つなら俺も持つ
新世界暦2年1月22日 アメリカ合衆国 アバディーン性能試験場
「空域はクリア。飛翔コースに障害物なし」
「東北東の風2ノット」
「作業員は指定されたシェルターまで退避」
無機質な声が次々と報告と指示を読み上げる。
広大な敷地を誇るアバディーン試験場に即席で造られた打ち上げ施設には、何の変哲もない・・・というと語弊があるが、大陸間弾道弾が据え付けられていた。
しかし、その弾体は、通常のICBMよりもペイロードが大きくなっており、通常の打ち上げロケットのようなフェアリングに包まれていた。
地表に露出する形で設置されているのは、当然、性能試験のためであり、それは開発中の装備であることを示していた。
「ミサイル追跡艦ハワード・O・ローレンツェンより連絡、最終飛行経路追跡準備完了」
「北米防空司令部より連絡、飛行禁止空域内、飛行目標無し」
「AWACSが攻撃目標周辺空域に入りました。観測協力の英空軍及び海自も準備完了との連絡」
「発射カウントダウン、読み上げ開始」
発射カウントダウンが始まった管制室内だが、通常の開発中の性能試験ならいない実戦部隊の人間がそれなりの数いる上に、全員がコンソールについて通信や情報を担当している。
そのことから導き出される結論は、「開発中の兵器の性能試験兼ねて敵にぶっ放してやろう」というやられるほうからしたら踏んだり蹴ったりな性能試験が行われている、ということである。
『5、4「Engine Start」、2、1「Lift off」』
轟音とともに青空に向かって伸びていく燃焼煙の先の弾体はやがて肉眼では見えなくなる。
「SAS正常、高度130000フィートでRCS作動開始」
「高度130000フィート到達。水平飛行に移行。第一段燃焼終了まで5秒、3、2、1、第一段燃焼終了。飛行航程は現在のところ誤差マイナス0.6秒。飛行経路は予定通り」
管制室の大型モニターには地上の光学望遠鏡からの映像と、第二段に設置されたカメラの映像が映し出されている。
「第一段切り離し」
「切り離し信号を確認。全て正常」
「続けてフェアリング分離」
「分離信号を確認。第二段カメラで分離の成功を確認」
淡々と進む飛行の裏では様々なデータが収拾されており、発射された何かが開発段階の兵器であることを如実に示していた。
「第二段点火」
「第二段燃焼終了と同時に第二段切り離し。最終段、既定高度まで降下次第、エンジン点火」
「第二段燃焼終了まで30秒」
「飛行経路正常、航程誤差プラス0.2秒」
淡々と航程とシステムの読み上げが続く室内は、凡そ戦場とはかけ離れた光景だった。
新世界暦2年1月22日 アトランティス帝国南方海域 海上自衛隊 護衛艦「あたご」
照明が落とされている暗いCICの室内も、試験場と同じく戦場とはかけ離れた傍観者たちの宴であった。
「新たな飛行目標探知。高度120000フィート、速度マッハ12から13で飛翔中」
「迎撃は可能か?」
「SM-3の最低高度より低く、現状ではSM-2、及びSM-6の最高射高よりも高いので不可能です」
「やはり厄介な兵器だな」
ブーストグライド兵器とか極超音速兵器とか呼ばれる兵器が「厄介」とされるのは、単純に従来のエリアディフェンス兵器では迎撃できない高度を超高速で飛行するためである。
では迎撃そのものが困難なのか、というと実はそうでもなく、終末段階における迎撃は弾道ミサイルと同じか、速度が遅い分簡単とも言われている。
まぁ、逆に言うと現状では終末段階以外で迎撃手段が無いので、厄介であることに変わりは無いのだが。
「追跡自体は問題ないので、あとは軌道の予測と迎撃可能なミサイルですかね」
「レーダーによる探知自体は簡単なんだがなぁ」
極超音速兵器、特にマッハ二桁を目指すような弾体の場合、空力特性や機体強度、耐熱性が最重要になってくるので基本的にステルス性は無視されている。
電波吸収材や塗料は、ステルス機がしょっちゅうメンテナンスが必要なことからもわかるように過酷な環境に曝される極超音速兵器の外装には不向きだからである。
形状にしてもレーダー反射面積云々より空力的な制約が大きくなるので、弾道ミサイル防衛用のレーダーがあれば探知自体は簡単である。
「大出力のエネルギー兵器とかレールガンとか言ってるが、どうなんだろうな」
「しばらくはこの高度をカバーできるミサイルでお茶を濁すんじゃないですか?」
実戦だと言うのに、完全に開発試験のデータ取りのような会話を方々で巻き起こしながら、極超音速の飛翔体は目標に向かうのだった。
新世界暦2年1月22日 アトランティス帝国 帝都
帝国評議会の建物を中心に広がる、平時に見れば美しいであろう欧州風の伝統的な市街地は、ピリピリした緊張感に包まれていた。
元々、街に住める人間、入れる人間も限定された都市なので、空気が張り詰めたところはある都市だったが、断続的に続く空襲によりもともとあった防空施設は軒並み壊滅しており、臨時で運び込まれた移動式レーダーや地対空ミサイルも稼働する端から撃破されている現状なので、各所がピリピリしているのは当たり前である。
すでに丸裸の状態で、空からの攻撃に無防備なのだが、誰に見せるためのポーズなのか、レーダーを失ったミサイルランチャーや機関砲が空を睨んでいた。
それ故にその目撃者も多かった。
凄まじい轟音は後からやってきた。
アトランティスの公式発表はあくまでも隕石であると強弁したが、それが帝国評議会の建物に吸い込まれるように命中したのは明らかであった。
弾体そのものがもった莫大な運動エネルギーと、数百キロの炸薬は、きっちりとその仕事を果たし、アトランティス帝国の権力中枢であり象徴でもある建物を跡形も無く消し去ったのである。
新世界暦2年1月22日 アメリカ合衆国バージニア州 国防総省
「やはり通常兵器として使用するには費用対効果が薄いな」
アトランティス帝国の帝都上空を我が物顔で飛ぶU-2から送られてくる着弾地点の映像を見ながら国防長官は呟いた。
「今回は試験ですから、敵の防空網を無力化したうえで観測体制を万全にして使用していますが、本来であれば敵防空網を無視して一気に敵中枢に打撃を与えるという使用方法を想定しています」
「その使い方をするとして、弾頭が核でないと相手にわからせる方法はあるのか?そもそも、弾道ミサイル以上に着弾点の予測が困難となれば、無関係な国が報復措置を取る可能性だって残るだろう」
そもそもが弾道ミサイルを流用した兵器なので、発射から水平飛行に移るまで、つまり早期警戒衛星で探知される段階においては従来の戦略弾道ミサイルと区別がつかないのである。
しかも、水平飛行というか滑空飛行というかに移行しても、従来の弾道ミサイルと異なり、迎撃ミサイルの回避や目標地点を絞らせないために、大きく軌道変更を行う極超音速兵器は十分に「誤解」される可能性を秘めている。
それでいて着弾するまで中身が通常弾頭なのか核なのかはわからない、となればおいそれと使える兵器では無くなってしまう。
「中露が持っている攻撃手段を我が国が持たない、というのは危険すぎますから」
まるで普段から使えるかどうかなんてどうでもいいんだよ、という返事に国防長官は黙るしかないのだった。
次も1週間以内に




