防空網制圧
今年もよろしくお願いいたします
新世界暦2年1月20日 アトランティス帝国 第12レーダーサイト
コンソールが並ぶ薄暗い室内だが、戦争中だと言うのに弛緩した空気が支配していた。
さすがに欠伸をしているような人間はいないが、敵はレシプロ機が未だに現役という情報は伝わっており、超音速機の探知を前提にした三次元レーダーで本土をくまなくカバーしているアトランティス帝国の警戒隊は完全に油断していた。
この部屋の性質上、私語も認められていないので、全員が特に何も探知していないレーダースコープ画面を眺めているしかないのだが、皆その表情に緊張感は感じられない。
が、その空気をぶち壊す警報が室内に鳴り響き、無感情なアナウンスが流れる。
『帝都が空襲を受けた模様。本土警戒団は非常警戒態勢に移行。これより空軍は48時間の空中警戒待機に入る』
無感情なアナウンスと対照的に室内は一気に嫌な空気に支配される。
帝都が空襲を受けたということは、どこかから敵機が侵入したということであり、それを探知できなかった本土警戒団は間違いなく糾弾される。
当然、侵入を見逃して警報を出さなかったレーダーサイトは生贄にされることになるが、もしどこから侵入したのかわからなければ、生贄は各サイト長達による政治闘争によって決定されることになるので、全てのレーダーサイトが均等に「危険」なのである。
そして、その実、アトランティスは敵機の侵入経路を全く把握できておらず、無意味な政治闘争に明け暮れることになるわけだが、帝都を爆撃したのは米空軍のB-2爆撃機と実射試験がてら撃ち込まれた極超音速兵器なので、彼らに探知できなかったのは当たり前である。
「不明機出現。距離60マイル。低空にて接近していた模様」
突如出現したスコープ上のシンボルマークに室内は騒然となるが、それがすでに後の祭りであることを彼らが知るのにさして時間はかからないのだった。
新世界暦2年1月20日 アトランティス帝国本土南西海上
海面を這うような高度で時速1000キロ近い速度で飛行する機影が2つ。
CFTやドーサルスパインでゴテゴテしているのが当たり前になりつつある今見るとかなりシンプルに見える、グレー塗装の普通のF-16Cである。
その垂直尾翼に、文字は大きいが目立たないように書かれた「WW」の文字と「35FW」の文字が、その2機の所属と任務をはっきりと表している。
35FWは三沢基地に所在する米空軍第35戦闘航空団の所属であることを表し、WWはワイルドウィーゼル、つまり敵防空網の制圧が任務であることを示している。
そして、翼端には自衛用のAIM-120、主翼下には対レーダーミサイルであるAGM-88と500ポンドのLJDAM、増槽を装備している。
『上昇点に到達、既定高度に到達後直ちにミサイルを発射、速やかに高度を下げて離脱する』
『了解』
機首を上に向けた2機は見る見る間に高度を上げる。
レーダー警戒装置が、敵の捜索レーダーに捉えられたことを知らせるが、気にしない。
『MAGNUM』
そのコールとともに、ロケットエンジンに点火したAGM-88Eはマッハ2以上に加速して目標に向かっていく。
そのコールとほぼ同時に高度を下げた2機は反転して離脱に入る。
ステルス機であるF-35にやらせればこんなちまちまと面倒なことをしなくてもいいのだが、彼らの任務には「見つかること」も含まれているので仕方ない。
《新たな発信源が出現。地対空ミサイルの誘導レーダーと推測される。座標・・・》
あえて見つかることで、眠っているレーダーを叩き起こしてその場所を見つけ出す、というのはステルス機にはできない捜索方法である。
もっとも、今更レーダーを起動したところで、低空で逃げていくF-16を再探知する術は彼らには無いのだが。
《イギリス空軍機が近いから向かわせる》
そして、そのステルス能力を活かして、すでに敵本土上空に侵入している複数の英米軍のF-35が起動したレーダーの位置をデータリンクで割り出し、AWACSが指示を出す。という、連携プレーで敵防空網の完全無力化を目指すのである。
《敵レーダーが停波。電源を切ったらしい》
初歩的な対レーダーミサイルに対する対処として、電源を切る。というのは有効な対策である。
初期の対レーダーミサイルは、発射時に指定された電波の飛んでくる方向に向かっていくだけだったので、レーダーの発信を止めてしまえばミサイルは簡単に外れてしまったのである。
しかし、それはせいぜいフォークランド紛争頃までの話で、地球国家は2020年代に生きているのである。
発信を止められても、慣性誘導で元の進路を維持するのは勿論だが、GPSで慣性誘導の精度を高めたり、それこそ発信源を特定している場合は、その地点のメモリー機能も有している。
そんなわけで、複数機の情報で発信位置を特定されていた哀れなレーダーサイトと地対空ミサイルは、レーダーを停波したことで全くわけもわからないまま木っ端みじんに吹き飛ばされることになった。
まぁ、もっとも、地対空ミサイルのほうはそもそも、位置を完全に割り出して誘導爆弾が放り込まれているので停波とかますます関係なかったのだが。
こうしてアトランティス帝国本土の防空網に大穴があくことになったのだが、病的なまでに敵航空戦力の殲滅に執念を燃やすアメリカがここだけで済ますはずは無く、他のレーダーサイトいくつかでも派手な花火があがることになったのだった。
新世界暦2年1月20日 アトランティス帝国 第12レーダーサイト
何も無くなり、もうもうと煙を上げる元アンテナ建屋を、オペレーションルームから出たサイト長は呆然と眺めている。
レーダーサイトの主機能を司るレーダーアンテナが建屋ごと吹き飛んでしまったので、もはやこの基地に出来ることはないのである。
「サイト長!無線はダメですが、有線は防空司令部に繋がりました!他のいくつかのレーダーサイトも攻撃を受け、地対空ミサイル基地もかなりの数がやられたようです!」
「そうか・・・」
サイト長はもはや興味も無さそうに返事を返し、無くなったアンテナ建屋から視線を外さない。
彼の頭にあったのは自分のキャリアの終焉だけである。
「あ・・・」
そう言って彼が見上げた先には無数の飛行機雲。
「敵機!?」
驚愕の声を上げ、オペレーションルームに慌てて駆け戻る士官をサイト長は感情の無い目で見送る。
「今更報告したところで・・・」
電話で上空を敵機が通過中、などと報告したところで、機数も速度も方位も不明。
そもそも、他にも吹き飛んだサイトがあるなら、どこも状況は同じだろうに、と再びぼうっと立ち上る煙を眺めていたサイト長の後ろで再び爆発が起こり、オペレーションルームの建物も吹き飛んだ。
まぁ、アンテナだけで済むわけもないか、と最早何にも無関心になったように、サイト長は爆発の中佇むのだった。
次も1週間以内に




