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第一次「異」世界大戦  作者: 七十八十
新世界暦2年
176/201

戦場の支配者はなんやかんや言っても天気

新世界暦2年1月17日 アズガルド神聖帝国本国東島 アトランティス帝国占領地域境界 山岳地域


日米英による最後通牒は済んでいたものの、未だ表立った軍事行動は行われておらず、前線はそれがどこだかわからない程度に静寂に包まれていた。


しかし、そんな山岳地帯に減音機のついたスナイパーライフルの発砲音が時々響いていた。


《こちら山猫3、敵スカウト排除》

《親猫了解。ポイント38に移動して警戒を継続せよ》


山の斜面に偽装した小屋が点々と建てられており、その中にスナイパーが待機しているのである。

全く動かないのではそのうちバレてしまいそうだが、一度発砲した後、他の小屋に移動、ということを繰り返しているのでアトランティス側はスナイパーがいることはわかっていても、その場所は全く特定できていなかった。


しかし、偽装小屋は、偽装を第一にしており、必ずしも敵偵察部隊の侵入を見張るのに最適な場所に建てられているとは限らない。

それでも、少数で侵入を図る敵部隊を確実に排除出来ているのは、上空を絶えず飛んでいる無人機に加え、小型の軍用ドローンも絶えず巡回しているおかげである。

敵が谷を越えてこちら側に来るまでに、どこかのスナイパー小屋から一度でも射界が通れば、それで終わりである。


「しかし、敵さんも懲りないねぇ。もう10班は潰してるだろ」


観測手は無線を聞きつつ、隣で昼食のチョコバーをかじっている狙撃手に声をかける。


「さてな。敵さんがヤケクソになって俺たちを谷ごとナパームで焼かないことを祈ろう」


観測手は嫌なこと言うなよ、という顔をするが狙撃手は我関せずとチョコバーをかじり続けている。


「というか、合同演習に参加するはずだったのに、なんでこんなところでカモ撃ちみたいなことしてるんだろうな?」

「さあ?」


上の命令があれば行くのが仕事とはいえ、なんでだよ、と台湾陸軍空降特戦部隊のスナイパー達は全員思っているのだった。




新世界暦2年1月18日 アズガルド神聖帝国 アガルダ国際空港


ジリリリリという非常ベルのような警報が大音響で鳴り響くハンガーで、慌ただしく整備員が走り回っている。

駐機されているF-15Cのコクピットにパイロットが駆け上がり、ヘルメットや各種装具を装着するのを確認するとタラップが外され、エンジンの始動にかかる。


ミサイルの安全ピンが全て抜かれ、タイヤ止めが外されると、2機のF-15Cは勢いよくハンガーを飛び出して目の前の誘導路から滑走路端へ向かう。

滑走路端に臨時で増設されたアラートハンガーから飛び出したF-15Cの2機は既に離陸滑走を滑走を開始しており、それに続くべく、高速タキシングで滑走路に侵入する。


滑走路の真ん中付近の脇にある駐機場に目をやれば、2機のF-1Cが誘導路に入るところだった。

ぶっちゃけ、戦力としてはさほど期待されていないが、一応アズガルド自身が迎撃機を持っているのに出さない、というのは政治的にも世間的にも良くないのでアラート待機に着いているのである。


《現在判明している敵機の数は45。後続で32も確認されている。全てが戦闘機とは考え難いが、爆撃機がいるならいるでもっと厄介だ。爆撃機の迎撃を優先せよ》

ふざけんな(Negative)。敵の方が数が多いのに有視界戦闘なんかやってられるか》

《建前ってやつだ。視界外(BVR)からの交戦はAWACSが敵を判別した場合は無条件で許可されている。とにかく数を減らせ》


前進警戒中のE-3と、それを護衛するCAP中のF-15Cが2機、今アガルタ国際空港から上がった2機と上がろうとしている2機、加えてアズガルドのF-1Cが2機。

これが味方の現有戦力である。


《どう勘定してもミサイルが足らんぞ?》

《後続も準備させてるし、空自が4機と英空軍(RAF)も4機上げてる。とにかくこちらの攻勢準備が整うまで敵を入れるな》

《攻勢が始まっても同じこと言うじゃねぇか》


轟音とともにF-15Cは離陸する。

その推力にモノを言わせ、一気に高度をとる。

改修を受けたコクピットは、飛行計器類はアナログが残るが、右側の武器システムやデータリンク表示のための大型ディスプレイが鎮座している。

F-15EX相当の改修を受けているF-15MJには劣るものの、制空型F-15としては最新の部類である。


「海峡には英海軍のミサイル駆逐艦(45型)、さらに東島に日本の長距離()地対空ミサイル(SAM)F-15C(米空軍)が6機とすぐに増援(空自とRAF)で8機、あとおまけ(F-1C)が2機。・・・どうにかなるか?」


とりあえずの仕事は後続が上がってくる時間を稼ぐことである。


「楽な仕事なら助かるがねぇ・・・」


相手がレシプロ機というわけではないのだ。

日本がこの国(アズガルド)相手にやったような一方的なワンサイドゲーム、となるには相手の数が多すぎる。

しかし、それが出来ない理由があるわけでもない。


「電子兵装では圧倒的有利、って話だが・・・電子戦機いないしなぁ」


アメリカが世界各地で空軍力のワンサイドゲームを展開できた最大の要因は、相手の防空能力が貧弱、とかいう要因とは別に、その高い電子戦能力が一役買っていることは確かである。


個別の戦闘機が持つ電子戦能力、なんていうのは基本的に自己防御のための限定的なものがほとんどだ。

「基本的に」というのは、一部のAESAレーダーが敵レーダーに対する積極的な電子攻撃能力を持つためである。


《敵地上部隊が侵攻を開始した模様。直ちに航空優勢を確保せよ》

「いや、航空優勢て・・・数が足らんだろ」


アガルダ国際空港に派遣されている米空軍は、一応の戦時体制とはいえ、ローテーションで一定数を常にアラート待機に付けることを重視していたので、全力出撃を行えるような体制はとっていない。

よって、敵が大規模攻勢に出た場合は、日英からの増援が主力となる予定だったのであるが・・・。


《三沢基地より連絡。現在、スコールにより全ての発着が不能の状態》


雲より上を飛ぶ場合、割と気象条件の制約が少ないのが航空機の利点だが、離着陸においてはもろに気象条件の影響を受ける。

増援の主力となるはずだった米空軍2個戦闘(F-16)飛行隊と航空自衛隊2個(F-35)飛行隊は、その能力を発揮する前に脱落してしまったのである。


三沢よりも近い千歳は、アガルタ国際空港と同じく、ローテーションによるアラート待機を重視した体制をとっていたので、即応はできても、飛行隊の主力を出すには時間がかかるので、三沢のスコールが止むのを待つのとどっちが早いか、という話になってくる。

残るは英国ということになるが、アラート待機のタイフーンと、増援主力として空母のF-35Bという計画だったものが、現場海域に配置されるはずだったプリンス・オブ・ウェールズは昨年からの酷使が祟ったのか、発電機の不調で母港に帰港中という有様だった。


「まぁ、飛んでりゃどうにかなるか・・・」


いざとなったらアガルタに戻らず千歳に行けばいいよね、と気楽に考えてパイロットはマスターアームのスイッチを入れたのだった。




新世界暦2年1月18日 アズガルド神聖帝国本国東島 アトランティス帝国占領地域境界 平野部


120mm滑腔砲の轟音が響く平野部。

レオパルド2SGが次々に向かってくるアトランティスの戦車を撃破していく。


アトランティスの主力戦車であるキュプロクスは、地球で言えばM60A1相当程度の戦車なので、第三世代でも後期にあたるレオパルド2A4の改良型であるレオパルド2SGがワンサイドゲームを展開するのはある意味で当たり前なのだが、仮に同世代だとしても、向かってくるアトランティスに対して、戦車壕に籠って的撃ちしているだけのシンガポール陸軍が優位なのは変わらなかっただろうが。


『情報小隊より報告、3時方向の森林を抜けて迂回しようとする敵歩兵部隊を発見。野砲部隊が射撃を開始するので注意されたし』


そのうえ、シンガポール側は大量のマルチコプター式の軍用ドローンを飛ばしてアトランティス側の動きを把握しているのである。

小型ドローンの存在を知る由も無いアトランティス側は、訳の分からないうちに発見されて各個撃破されていた。


地上の戦いは圧倒的優位であるが、懸念事項は空であった。

なんせどうも敵の数が多いのと、味方の数が少ない、という想定外の事態であった。


一応、部隊防空用のSPYDER地対空ミサイルが稼働してはいたものの、シンガポール陸軍が保有するSPYDER地対空ミサイルは2セットに過ぎず、当然、ここに2セット投入、なんていうバカな話はないので、即応弾は4連装ランチャーが6基で24発。

これが携帯SAMを除けば、シンガポール陸軍アズガルド派遣団が独自に持つエアカバーの全てである。

というか、西側の装備体系なのに複数の地対空ミサイルシステムで防空網を形成しているどっかの島国(日本)がおかしいのである。


不安材料はありながらも、今のところアトランティスの前進を阻むことには成功しているのだった。

次も1週間以内に

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 隔世の兵器も、弾薬の総量に制限があったり、運搬する航空機の絶対量が少なくては・・・・(><) 防空体制が万全になるまではまだまだ時間が掛かりそう。 シンガポール陸軍大…
[一言] 航空戦は天候の悪化によって苦戦が予想されますね。空中要塞もどこまで天気に左右されるのやら。 陸戦も無人機などのハイテク化によって敵兵力が多くてもある程度までなら上手くやれてますが現状は少し…
[一言] お疲れ様です アトランティス「なんか敵がいきなりレベルアップした」 かなりボコられてるけと、そんな用兵(戦略)で大丈夫か? 日本はWWIIのトラウマもそうだけど、冷戦時代、しょっちゅう …
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