勝った奴が正しい
新世界暦2年1月9日 東ドネツク共和国上空
ウクライナからの独立を宣言しているが、どこからも(表向きはロシアも含め)国連加盟国には承認されていない東ドネツク共和国の上空をロシア空軍の編隊が飛行している。
地上、海上兵力を極端に中国、新大陸方面に振っていたせいで、ロシア軍の反撃は急速な戦力再配置が可能な航空戦力に偏らざるを得なくなったのである。
しかし、ウクライナ空軍は陸軍と比較すれば、海軍ほどではないにせよ脆弱であり、空軍による打撃、というのは有効な作戦ではある。
ウクライナ空軍はMig-29やSu-27を合わせて70機近く保有はしているものの、ソ連崩壊時から近代化されていないそのままで、維持している、というだけの空軍である。
まぁ、その分、S-300も含めた地対空ミサイルを大量に保有しており、そちらは十分に脅威となり得るのだが。
ともかく、(元々ウクライナから分捕ったとかは関係なく)ロシアのテリトリーを侵したウクライナに制裁するべく、護衛のSu-35SとSAM制圧を目的としたSu-30、Su-34で構成される編隊は、その凶悪な火力を解き放とうと、堂々とウクライナ領空へと侵入していた。
《敵機探知、距離60nm、ヘッドオン》
《ESMからウクライナ空軍のSu-27と推定》
《R-77による攻撃を行う。各機、射程に入り次第攻撃開始》
Su-35の6機は、制空戦闘を目的とした対空ミサイルてんこ盛りの武装であり、ミサイルの信頼性が低いからあんなに積まないといけないんだ、と陰口を叩かれたりはするが、搭載数で見ればこの6機でウクライナ空軍のほぼ全ての戦闘機を墜とせてしまうことになるのだからバカには出来ない。
《警報!S-300のレーダー波とミサイル警報!》
《各機、各自の判断で回避せよ!ジャミング開始!》
節操なく輸出しまくったり、旧ソ連時代のものを周辺国が持っていたりするせいで、ロシア空軍は自国製兵器に対する備えも万全でなければならないのである。
まぁ、そもそもそんなにポコポコと地対空ミサイルを開発しているのはロシアくらいなので、市場に出回っている地対空ミサイルも圧倒的にロシア製が多いのだが・・・。
《え?新たな誘導波?》
《回避しろ!》
《駄目だ!間に合わ》
雑音とともに無線が途切れる。
《S-300だけじゃないぞ!?》
《Kh-58発射!》
SEAD装備のSu-34が対レーダーミサイルを発射するなど、編隊の動きが更に慌ただしくなる。
しかし、そこにウクライナ空軍のSu-27とMig-29が襲い掛かる。
こうなってしまえば、例え旧式機であろうと脅威であることに違いはない。
地上の対空ミサイルと連携した実に嫌らしい作戦である。
《クッソ!地上の対空ミサイルがどうにもならないぞ!》
あっさり制空権を押さえられると思っていた編隊長は、その誤算に悪態を吐いたのだった。
新世界暦2年1月9日 ウクライナ ドネツク西方 ドイツ連邦空軍地対空ミサイル陣地
ウクライナ各地に展開したドイツ軍の中で、最初に交戦することになったMIM-104を装備した地対空ミサイル部隊の展開した陣地は慌ただしい雰囲気に包まれていた。
次々にミサイルが発射されているのは勿論だが、全弾射耗した発射機に予備弾のコンテナを装填する作業も並行して行われているためである。
ドイツ空軍の装備するMIM-104は、いわゆるPAC-3形態ではなく、PAC-2形態にMEADS開発で得られた技術をフィードバックした独特の形態である。
弾道ミサイル対処能力ではPAC-3や、その改修型のPAC-3MSEに劣るものの、対航空機で見れば射程や威力で優っているなど、メリットも多い。
「対レーダーミサイルと思われるミサイルを探知」
「ECM開始」
展開した大隊の中枢である情報調整装置 AN/MSQ-116の中で士官2人が次々にコンソールを見ながら指示を出す。
かつての対レーダーミサイルへの対処と言えば、レーダーの電源を切ることだったが、ミサイル側の性能向上で、最終探知地点をメモリーしてそこに飛行するようになって以降は、迎撃するかECMで発振地点を偽装するしか対処方法はない。
ECMは、電子ビームを空中でぶつけてレーダーの位置を偽装する、というのが典型的な防御手段で、大概のレーダーで搭載されている標準的な防御手段である。
対象ミサイルにハッキングして無効化してしまう、なんていう荒業も存在するが、相手ミサイルが正確に割り出せないと取れない手段なので、演習ではともかく実戦での使用は困難である。
「ECMの効果を認めず。MANTISに迎撃を指示」
MANTISはラインメタルの開発した35mm機関砲であり、バースト射撃に特化することで単砲身でありながら毎分1000発の高速射撃を可能にしているという特殊な機関砲である。
AHEADと呼ばれる特殊な砲弾を使用することで効率的な近接防御を実現している2000年代に登場した最新の対空機関砲であり、CIWSとして艦載化したモデルもあることからわかる通り、対ミサイルの最終防御に力を発揮する。
「MANTISによる敵ミサイルの破壊を確認」
「新たな敵機を探知、数3」
時たま外で発射されるミサイルの轟音がわずかに届くものの、それ以外は戦闘中の喧騒とは無縁の静かな室内で次々に戦況が更新されていくのだった。
新世界暦2年1月10日 東ドネツク共和国 ドネツク
(一応)国家首脳が集まった会議室は、沈痛な空気に包まれていた。
ロシア軍が昨日の戦闘で制空権を喪失したことは確定的であり、空の脅威を気にする必要のないウクライナ軍はその機甲戦力を存分に使ってドネツクを迂回し、ロシアとの連絡を遮断、包囲の構えを見せていた。
実際、一部では突入の構えも見せており、長期化させるつもりも無さそう、というのが大方の見方だった。
「・・・モスクワの返答は?」
絞り出すように大統領は声を出すが、その返答は最早わかっているといった表情である。
「未だ何の返答もありません」
皆まで言わすな、と言う感じで外務大臣が返答する。
結局のところ、クリミア半島はともかく、東ドネツク共和国はロシアにとって何が何でも維持したい勢力圏というわけではない。
ロシア寄りであるとはいえ、名目上別の国家(というかロシアも表立っての国家承認はしていないが)であり、ロシア海軍の拠点であるクリミア半島と異なり、強引にロシア領だと主張できる根拠もないので、あくまでもウクライナだからである。
「徹底抗戦を叫ぶ民兵組織もありますが、大方は諦めムードで早くも厭戦気分が蔓延しています」
元々、大方の市民はロシアとの経済的な繋がりで親露派だっただけで、それに命を懸けるほどの価値を見出していない、というのもまた事実である。
「ロシア軍はクリミア半島に増援を集中しているという情報があります。制空権も明け渡したとなると、こちらへのロシア軍の派遣は今後一切ないとみるべきでしょう」
憔悴しきった顔で外務大臣は告げる。
彼らにとって唯一の希望は、一応独仏がウクライナについている関係で、制圧後に無茶苦茶な弾圧はされないだろう、という消極的なものだけである。
いずれにせよ、確かなことは彼らの肩書も直に無くなる、ということだけは確かであった。
次も1週間以内に




