ミサイルや無人機だけの損害で勝敗が決まる日は来るのだろうか?
新世界暦2年1月5日 ユーラシア大陸南方海域上空
H-6爆撃機の編隊がJ-16に護衛されながら飛行している。
見事な戦爆連合の攻撃部隊である。
もっとも、H-6が搭載しているのは、その古い設計に似合わない現用の超音速巡航ミサイルであり、敵の対空ミサイルの射程外からぶっ放して帰る、というのがその運用思想なので「飛びさえすればいいや」とばかりに中身の改修はされつつ、飛行機としての設計は使われ続けていた。
搭載兵器がバカにできない脅威、というあたりが最近の兵器の恐ろしいところである。
「まもなく敵艦隊射程内に入ります」
「連中がこのまま航行すれば間違いなく上海が攻撃対象になる。ここで必ず食い止めろ」
交渉とか一切考えずに、敵が攻めて来てると思い込んでいるあたりが実にあれだが、中国が先に墜とされているのは紛れもない事実なので、あながち好戦的とも言い切れない。
「無貞-8、敵艦隊を捕捉中。間もなく射程内」
先導機が事前に発射していた高高度超音速無人偵察機の無貞-8は、敵艦隊の位置情報を確実に編隊に知らせてくれていた。
「警報!敵機接近中!方位165!」
その報告と共に、護衛のJ-16は一斉にアフターバーナーを吹かしつつ旋回する。
「護衛戦闘機隊、ミサイルを発射」
「敵艦隊、YJ-12の射程に入ります」
外見からはおおよそ想像されない、搭載されたデジタルデータリンクによって各機で目標の振り分けが行われる。
無人機からの情報で、編隊内の攻撃目標を振り分けて最大限攻撃が効果を発揮するようにする、という、飛行機の見た目は1950年代なのに、実に今風の戦い方である。
「攻撃開始」
「攻撃開始、1番発射」
パイロンから切り離された1発目のYJ-12空対艦ミサイルは、ブースターによって音速まで加速したのち、ラムジェットに点火して一気にマッハ3以上まで加速する。
1トン近い重量のミサイルが300キロの弾頭を携えてマッハ3から4で突っ込んでいくのだから、破壊力は十分である。
「全機、全弾の発射を確認」
「これより退避行動に移る」
4発搭載していた対艦ミサイルを撃ち尽くしたら、もうこの空域に残っている理由はない。
戦果確認は無人機の仕事なので、さっさと退避することにして、離脱を開始する。
というか、護衛対象である爆撃機が退避しないと、護衛のJ-16も退避できないので、今H-6の編隊に求められているのは一刻も早い撤退である。
新世界暦2年1月5日 ユーラシア大陸南方海域 神聖ゲルマニア連合共和国海軍 防空巡洋艦「イザヴェル」
「敵機、分裂しました。ミサイルを発射した模様」
地球国家の旧式艦、と言われてもわからないCICの中で、レーダー士官の報告が室内に響く。
そもそも艦の外観も、米海軍がかつて保有していた原子力巡洋艦ロングビーチにわりと似ているのだが。
外観上、大きく異なる点と言えば、後甲板の、ロングビーチではタロスSAM発射機があったあたりに、見慣れない大型装置が設置されている点だろうか。
「かなり速い。マッハ3から4で数48が艦隊に接近中」
「ヘルヴォルシステム起動。迎撃パターン全自動。全火器使用自由」
「了解、ヘルヴォルシステム起動。迎撃パターン全自動。グングニル起動準備中。エネルギー充填65%。SAMによる迎撃を優先します」
ヘルヴォルシステムは神聖ゲルマニア連合共和国が開発した、地球で言えば初期のイージスシステムに匹敵する武器システムである。
四角い特徴的な艦橋の各面毎に設置された、捜索用と追跡・誘導用の2つのパッシブフェーズドアレイレーダーが、2基の連装ミサイルランチャーから発射される対空ミサイルや、自衛用の主砲、対空機関砲、そして彼らが「グングニル」と名付けた兵装の全てを管制するという、彼らの世界の技術水準からすればオーバーテクノロジー染みた武器システムである。
「艦隊各艦、艦隊防空ミサイルを発射」
空母1隻、戦艦1隻、防空巡洋艦2隻、防空駆逐艦4隻、対潜駆逐艦6隻からなる完全編成の神聖ゲルマニア連合共和国海軍第2艦隊は、その能力の全てを発揮して迎撃にあたる。
艦隊防空艦6隻のミサイルランチャーから次々に白煙が伸びていく。
艦隊の遥か遠方でいくつかの爆発があり、いくつかの命中弾を認めたものの、全弾命中というわけにはいかず、YJ-12超音速対艦ミサイルは1秒ごとに1キロの距離を詰めてくる。
そんな状況にもかかわらず、艦隊内には切迫した様子が無い。
「グングニル、エネルギー充填完了。安定化装置、冷却装置、すべて正常」
「ヘルヴォルシステムとの接続正常」
「グングニル使用準備完了」
各方面からの報告を副長がまとめて艦長に報告する。
「グングニルによる迎撃を開始する」
「グングニル、照射開始」
艦長の号令とともに、砲術長が照射開始の命令を下す。
もう一隻の防空巡洋艦も準備が完了したのがほぼ同時だったらしく、2隻の防空巡洋艦から光の線が伸びる。
その光の線が振るわれると同時に、空中で複数の爆発が起こる。
「グングニルによる迎撃成功。エリア内に脅威目標無し」
地球のレーザー兵器開発担当者が見たら卒倒しそうなほど短時間の照射で全ての対艦ミサイルの排除に成功した艦隊は、特にそれを誇るでもなく、何事もなかったかのように航行を続ける。
「ここのところグングニルもミーミルレーダーも快調ですな」
「全く、就役当初はどちらも苦労させられたよ」
艦長は過去の苦労を思い出すように遠い目をする。
地球においても、電子走査アレイアンテナの走りである、米海軍のSCANFARは高価な割に信頼性が低く、結局近代化改修の際に従来型の旋回式レーダーの組み合わせに変えられてしまったが、神聖ゲルマニア連合共和国はそれを通常運用に支障ないレベルにまで持って行くことに成功したのである。
ちなみに、地球において一部評判の良くなかったSCANFARも、ベトナム戦争中の空域管制や史上初の実戦における艦対空ミサイルによる戦闘機撃墜などに活躍したことを考えると、能力自体は疑いようもなく優秀だったことになる。
「現在、撤退する敵編隊を我が艦隊の艦上機と空軍の偵察機が追尾中です」
「うむ。間もなく敵の根拠地も判明するだろうし、一層忙しくなるな」
全弾の迎撃に成功したことで、艦隊の士気は否が応にも高まっているし、未知の不気味な敵、という認識だったものが、十分に対応可能な、下手をすれば自分たちよりも劣るかもしれない敵、という認識に変わりつつあるのである。
「敵根拠地を発見次第、直ちに制裁を加え、二度と我が国に舐めたことを出来ないようにせよ、という総統閣下の御意向も、早いうちに叶えられそうだな」
その艦長の言葉に、CIC内に期待する空気が流れる。
「艦長、一度戦闘配置を解除して休憩をとらせてはどうでしょうか」
「ふむ・・・警戒配置を解くわけにもいかんが、長丁場になるだろうし、休憩は必要か」
副長の意見具申に、艦長は同意を示す。
「交代で食事と仮眠をとらせるようにしよう」
次なる戦闘が攻撃なのか防御なのかはわからないが、いずれにせよ戦闘はまだまだ続くと艦長は判断したのだった。
新世界暦2年1月5日 ユーラシア大陸南方海域上空 人民解放空軍編隊
一方の中国軍機は、(わりと出し惜しみしたとはいえ)そこそこ虎の子の超音速対艦ミサイルを全弾迎撃された上に、送り狼が付いて来ているという踏んだり蹴ったりな状況であった。
護衛の戦闘機隊も、中距離AAMは撃ち尽くしたうえ、帰りの燃料の問題で送り狼がいるのはわかっているのにそのまま帰投せざるを得ない状況である。
「途中に味方の艦隊がいますから、そちらに敵をひきつけてもらう、というのはどうでしょう」
「事前に取り決めがあるならともかく、この状況では敵を擦り付けたとしか捉えられんだろ。利敵行為といわれたらそれまでだぞ・・・」
送り狼を追い払うのが重要とはいえ、それを味方艦隊に連れて行っていては意味が無いだろうと機長は考える。
そもそも、明らかに海軍力では敵の方が優勢なのである。
「しかしこのままだと上海まで案内することになってしまいますよ」
「・・・一度韓国かロシアに向かってから領空スレスレを飛行して帰るか?」
そうすれば利敵行為とは言われないだろう、と機長は考えたのだが、政治問題化する可能性が高いあたりが非常に問題なのだが、味方の艦隊に擦り付けるよりはいいか?という考えを機長は捨てきれないまま、決断の時は刻一刻と近付くのだった。
次も1週間以内に




