休めないって地獄だよね
新世界暦2年1月10日 敷島大公国北方海域 巡洋艦「平坂」艦橋
「連絡のあった機体を電探で確認。連絡通りの経路で接近してきます」
互いの敵味方識別装置が役に立たないので、事前に決めた方位、経路で接近することで敵味方識別を行っているのである。
「回転翼機、とのことでしたが、それにしては速いですね」
表示装置の探知位置に印を着けながら電探員が報告する。
「騙し撃ちの可能性があると?」
それをする利点が向こうに無いと思うが、と感じながらも艦長が言う。
「・・・固定翼機としては遅いですから、特に気にしなくても良いかと」
「そうか。視認圏に入るまでどれくらいだ?」
「まっすぐこちらに向かう経路に入りましたので、間もなく見えるかと」
とりあえずAPTO諸国との外交交渉は民間機と乗員・乗客の返還でケリがつき、外交関係の樹立や貿易協議に議題は移っていた。
その中で、1つの音声記録がAPTO側から出され、敷島大公国側に聞き覚えがある言語かどうかの照会があったのである。
それがアトランティス帝国で使用されている言語であることはすぐにわかったので、敷島大公国外務省はそのように回答した。
すると、今度はアトランティスとの関係性を根掘り葉掘り尋ねられ、大した関係はないと回答すると、外交団を送る仲介を依頼されたのである。
大した関係は無い、という回答に対して、外交団を送る仲介をして欲しい、という依頼の時点で、普通に考えて友好的な外交団であるとは考えにくい。
しかし、食料自給率が低い敷島大公国としては、そんな元々大した関係性も無い排他的な相手に配慮するくらいなら、新たな食糧供給元を確保する方が重要だ、という判断でこの話を受けたのである。
「艦長、目標を双眼鏡で捉えましたが・・・」
見張り員が報告するが歯切れが悪い。
「どうした?」
「固定翼機のように見えます」
そう言われて艦長も双眼鏡を手に取り、見張り員と同じ方向を見る。
「確かにそうだが・・・それにしては妙な形状だな」
彼らの視界に入った機体はその翼端に発動機と見られる膨らみと、妙に大きな回転翼がついていた。
そうこうしていると艦の直上に近づいてきた機体は、突如機体の進行方向を向いていた回転翼と発動機が角度を変えて空中に静止したのである。
当然の変形に、それを眺めていた艦長以下乗員たちはあんぐりと口を開けている。
言うまでも無く飛来したのはMV-22Bなわけだが、ティルトローター機などというのは彼らの世界には存在しない機体である。
いや、発想としてはあっただろうが、あくまでも空想の中にしか存在しないはずの機体である。
「受け入れ準備を進めろ!」
はっと我に返った艦長は指示を出す。
一応、平坂にも回転翼機のための発着甲板はあったが、V-22が降りるには小さすぎるのでホイストで釣り降ろすことになっていた。
ちなみに、後になってから護衛艦ひゅうがが日米航路の警備にいたので、そこでSH-60に乗り換えれば済んだ話では?ということにあとから日米海軍当局者が気付いたが、彼らの心の奥だけに仕舞われることになった。
新世界暦2年1月10日 敷島大公国北方海域 巡洋艦「平坂」士官室
「今までで一番最悪の空の旅だった」
「ほんとにな」
割とグロッキーになっている国務次官補とアジア・大洋州局長を、そんな酷かったか?と言った感じで見ている外務次官補。
ちなみに、グロッキーになっている2人はホイスト降下の際にグルグルと回りまくったせいである。
「しかし、なんというかフォークランドまでの我が海軍の士官室を思い出す華美な装飾だな」
「木材も使ってるしな。手触りもいい」
ぐでっと机に突っ伏したまま机をなでながら国務次官補が言う。
「なんかあんまり軍艦の中って印象はないですなぁ」
軍艦の中とか大して知らんけど、とアジア・大洋州局長は言う。
実際、艦隊旗艦として行動することを前提に造られている敷島大公国の巡洋艦は、士官室が貴賓室も兼ねられるように、華美な装飾が施されており、戦闘時に手術室として使えるように天井に無影灯がぶら下がっている日米の士官室とはかなり様相が異なる。
イギリスは昔からの伝統で、士官室は敷島大公国と同じく、華美な装飾が施された「貴族の部屋」という趣があり、下手をすれば艦内の床板や扉まで木製のケースがあったが、フォークランド紛争を契機に全面的に改められた。
日米も太平洋戦争前までは、割と士官室が応接や貴賓室を兼ねて装飾されていたケースはあったので、敷島大公国は未だに艦隊航空戦の恐ろしさを体感していない、と考えられるわけである。
とはいえ、そこで遇される分にはこのほうがいいからどうでもいいや、というのが外交官達の一致した見解であった。
アズガルドだけはそもそも軍艦に装飾を施す習慣がないので、1人頭に?の文字を浮かべていた。
まぁ、海自でも練習艦かしまだけは例外的に各公室に相応の装飾が施されている上に、国家元首級の来訪を想定した特別公室なんてものまで持っている。
これは練習艦隊の旗艦として、日本国の顔となる場面を想定してのものである。
「数日間はこの艦に厄介になるんだ。居住性が良いのは結構なことじゃないか」
ソファに体を預けながら国務次官補が言う。
「そうですね。蚕棚みたいなベッドだったらどうしようかと思ってましたよ」
ははは、と広くはないものの、護衛艦のベッドよりも広い二段ベッドを確認しながらアジア・大洋州局長が言う。
「うちの国の常識から言うなら空調が効いてるだけでも十分ですけどねぇ」
アズガルドの交渉官が送風口に手を当てながら言う。
「「「後残る懸念事項は・・・」」」
そう言って3人の外交官の視線が、残る一国の外交官に集中する。
「ん?何か?」
テーブルの上にせっせと持ってきた紅茶セットを並べていた外務次官補は見られているのに気づいて手を止めた。
「「「食事か・・・」」」
「おう、なんでこっち見ながらそのことについて懸念示してんだ。マーマイト食わすぞ」
そういうこと言うから懸念を示す対象なんだよ、と3ヶ国は思ったが、皆口には出さない程度に大人だった。
彼らの懸念が解消されるのは、夕食を待たねばならないのだが、艦長が冗談でイナゴの缶詰を出してアジア・大洋州局長以外がドン引きする一幕があったとか無かったとか。
新世界暦2年1月10日 アズガルド神聖帝国 本国 中央海峡
米空軍のアガルダへの展開から遅れること数日。
日英の基地から飛来したE-2やE-3、E-767に頼っていたアガルダ防空の警戒レーダーの任を担うため、英海軍の45型駆逐艦「ドラゴン」がアズガルド本国の中央海峡へと入った。
「ちっとも休めないんですけど」
「もともと転移前から割と休めてなかった気がしますが」
去年はなんやかんやと多島海を走り回っていた上、APTOのラストール訪問艦隊にも参加していたのである。
年末年始は母港でゆっくりできそう、と思っていたらこれである。
「まあ、エアカバーもあるんだし、SAM部隊が展開するまでの辛抱や。気楽にいこうや」
そう艦長は言って気を紛らわすのだった。
次も一週間以内には・・・一応1日くらいは余裕見といてもらえると嬉しいかも




