決裂が前提の交渉もままある
新世界暦2年1月13日 アトランティス大陸南方海域 アトランティス帝国領海接続水域
「本当にアトランティス帝国があるとは・・・」
呆れたように敷島大公国海軍巡洋艦「平坂」の艦長は呟いた。
「まぁ、それはいいとして、目的は外交交渉なんですが、大丈夫なんですか?」
そう問うたのはアメリカ国務省の国務次官補である。
「・・・さぁ?なんせ元の世界だと惑星の反対側で接点もほとんど無かったので・・・」
え、じゃあなんで仲介役とか買って出たんだよ、という顔をしているのは日本国外務省のアジア・大洋州局長である。
まぁ、平坂の艦長にしてみたら、そんなこと言われても外務省が勝手に言ったことだし、という感じである。
「で、今の状況は?訪問を喜ばれているようには見えないが?」
そう言ったのはイギリス外務省の次官補である。
「HAHAHA、大歓迎じゃないですか」
虚勢を張って平坂の艦長はわざとらしく笑ってみるが、今現在、平坂はアトランティス帝国海軍の艦隊に囲まれていた。
「いきなり撃たれないのは彼らにとって既知の国だから、ということでしょうか」
苦々し気な表情で艦隊を睨むのはアズガルド外務省の交渉官である。
「まぁ、我々の仕事は連中にあんたらの顔を繋ぐことだが、それで連中がどんな反応をするかは想像もつかんよ?」
「我々も別に彼らにおべんちゃらを言いに来たわけではありませんから、その時に貴方方もどうなるかわかりませんよ?」
敷島大公国はただのタクシー役ではあるが、そうやって運んできた日米英アの外交使節団は、間違ってもアトランティス帝国に、「仲良くしましょう」と言いに来たわけではない。
「さっさと兵を引けこのクソッタレ。さもないとてめぇらの首都を吹っ飛ばすぞ」
と言いに来たのである。
まぁ、これは極論だが。
ちなみに、敷島大公国がタクシー役を買って出たのは、転移による影響があったとはいえ、民間機を拿捕して民間人を拘束したことを帳消しにしようとしたのと、食料自給率が割とアレなので、輸入相手を確保しなければならないという切実な理由である。
「別にアトランティス帝国は同盟国でもなんでもありませんし、そもそも大して接点があったわけでもないのでどうでもいいですが、外務省は約束は守ってもらいたい、と土下座する勢いでお願いしてましたよ」
「普通に貿易するだけだろ?大丈夫、大丈夫」
ほんとに大丈夫か!?という思いしか抱かない軽い返事を国務次官補が返す。
実際、敷島大公国は普通に貿易して食料輸入させて!と言っているだけなので、アメリカからすればいくらでも買えという話である。
アメリカが輸入する製品が敷島大公国にあるのかどうかは不明だが。
「とりあえず国際信号旗を上げて外交使節を乗せてると知らせろ」
艦長はそう指示を出し、再び周囲を囲むアトランティス帝国の艦隊に視線を移す。
「これでいきなり撃っては来ないと思いますが」
「既知の国家の艦艇にいきなり発砲するような国なら我々もそのまま帰りますよ」
それもそうか、と艦長は納得する。
「艦長、アトランティス帝国海軍より返答の旗旒信号、“我に続け”」
「港に案内してくれるようです。行きましょうか」
日英米アの外交団に艦長はそう言うと、艦を先導するアトランティス帝国艦の後ろに続くよう指示を出した。
新世界暦2年1月14日 アトランティス帝国 本国南部 港湾都市セレーネ
アトランティス帝国の植民地との間の海の玄関口でもあった港湾都市セレーネは、大規模な貿易港の顔とともに、アトランティス帝国海軍の大陸南方の主要軍港の側面も持っていた。
その軍港地区に地上の艦隊司令部として造られた建物にある会議室が、外交交渉の場に選ばれていた。
これは別にアトランティス帝国が相手使節を軽く見たとか、そういうことではなく急遽用意できる会場がそこしかなかった結果である。
というか、外交交渉が見栄とはったりの場だというのは彼らの世界でも同じなので、その点で言うとこの会場は完全に失敗であった。
「しかし、敷島大公国が他国の外交交渉を仲介することがあるとは、初耳ですな」
心底意外だ、と言う風に今交渉のアトランティス側の担当官になった帝国評議員は言った。
ちなみに、彼が担当になったのは、評議会の円卓でセレーネの方角に座っていたからである。
基本的に評議員の管轄、というものはないので、何かあった際の担当の決め方もこんな感じで適当に決めているケースが多かった。
「まぁ、状況が変われば方針が変わることもあるんじゃないですかね?」
自分は軍人だから知らんけど、という感じで平坂艦長は言う。
元の世界において、敷島大公国は非同盟の独立志向で有名だった。
基本的に国際問題も自分たちに実害が無ければほぼ無視、他国と結ぶ協定は貿易関係だけ、という徹底ぶりだが、当人達に言わせれば、なんでどうでもいい対立に首を突っ込まねばならないのだ、ということらしい。
まぁ、そんな姿勢のせいでかえって敵が増えている感もあるが、当人達はどこ吹く風である。
とはいえ、君主制国家であるので、共産主義国家とは明確に対立しているので、貿易相手は資本主義国家ばかりだし、外交関係もそちらに寄っているのだが。
その都合で、惑星の裏側だったとはいえ、敷島とアトランティスは同じ君主国家のよしみで、互いに認識程度はしていた。
まぁ、互いに友好的だったか、というと互いの国の方針を考えれば自然と答えは出る。
「で、そちらが我が国との交渉を望む国々ですか」
評議員はそう言って日英米アの交渉団を見るが、その端々に、敷島の紹介だから一応会ってやるが、アトラス神の教えも理解しない土人が何の用だ、という気配が漏れていた。
敷島は自国に実害が無い相手には冷淡だが、直接の影響がある相手にはそれなりに敬意も払うか、敵対するかの二択だが、アトランティスはとりあえず自国の教えを受け入れない全ての国に冷淡である。
「まずお尋ねしたいが、貴国は西側にある島に無差別攻撃を加えて武力侵攻していますね?」
相手するのも面倒だ、という感じで国務次官補がずばりと切り出す。
「西側の島?攻撃を受けたので布教活動は行っていますが、それがどうかしましたか?」
だからどうした、と言う感じで評議員は言う。
「その島はこちらのアズガルド神聖帝国の領土です。ただちに侵略行為を停止し、兵を引かない場合、APTOは集団的自衛権に基づき、武力行使を開始します」
いきなりの最後通告に、評議員は一瞬ぽかん、とした後、くくくと笑い始めた。
「なかなか愉快なお友達を作られたようだ」
そう評議員が言った相手は、敷島大公国の「平坂」艦長である。
「我が国の力を理解しておられないようだ」
アトランティス帝国は、地球で言えば冷戦時のソ連に匹敵する戦力を保有する軍事大国である。
まぁ、地上戦力の過半が植民地にいたので行方不明、というのを差し引いても、海軍は当時のソ連よりも強力だし、地球にはなかった空中要塞も保有している。
「我らに指示できるのはアトラス神のみ。それ以外の如何なるものの指図も受ける謂れはない」
評議員はそうハッキリと言い切った。
「拒否、ということでよろしいか?」
国務次官補の確認を評議員は鼻で嗤った。
「そう言ったはずだが?アトラス神の教えを知らぬものは言葉も解さないのか?」
あくまでも高圧的な態度を評議員は崩さない。
「そもそも、レーダーも無く、領空警備も行っていない場所が国?冗談も休み休み言え」
「「「あー、それちょっとわーかーるー」」」
「おいいいいいいい!?」
アトランティスの挑発と、なぜかそれにちょっとのっかる日英米。そして絶叫するアズガルド。
ちなみに、「平坂」艦長はこそっと吹き出していた。
「まぁ、それはそれとして、引く気が無い、ということは侵略を認めるのですな」
コホン、と軽く咳払いして国務次官補が言う。
「我々はただ天命に従うのみだ。天命とは世に遍くアトラス神の教えを広めることである。そもそも状況確認の偵察飛行中に警告なしに攻撃を受けたしな」
全く悪びれることなく評議員はそう高らかに宣言する。
「そうですか。平和的解決の意思はない。と本国には伝えましょう。現時刻を持ってアズガルド全域を飛行禁止空域に設定します。侵犯した場合は無条件に撃墜します」
国務次官補のその宣言も、評議員は鼻で嗤う。
出来るモノならやってみろ、という態度である。
「では、我々はこれで」
そう言って日米英アの外交団は退席する。
が、去り際にイギリス外務省の次官補が思い出したように発言する。
「あ、そうそう、先日のことですが、アズガルドの首都に向かう超高速の飛行物体を確認し、ミサイルか航空機かわからなかったので撃墜してしまいました。パイロットが乗っていたので航空機だったのですね。お悔みを申し上げますが、謝罪はしませんので悪しからず」
そう言って退室した次官補に、評議員は驚愕の表情を隠すことに必死で、何の言葉も返すことはできなかった。
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