とりあえず現場のせいにする風潮
新世界暦2年1月4日 アズガルド神聖帝国 本国東島 東端にある漁村沖合上空
先日の攻撃から何の変化もないアズガルド本国東島の沖合、その上空に見慣れない巨大な飛行物体が2つ飛行していた。
その大きさは直径2キロに達し、正に巨大なUFOのような趣であった。
アトランティス帝国の空中要塞クリティアスとティマイオスである。
『全降下猟兵は降下準備を完結し、降下甲板に集合せよ』
その内部では双方ともほぼ同じタイミングで同じ内容の放送が流れていた。
『敵の抵抗は軽微であると予想されるが、油断はするな。地上に降りれば人対人、棍棒だろうと武器になると言うことを忘れるな!』
もっとも、そんなことは今更言われるまでもなく理解しているのが、アトランティス帝国の降下猟兵である。
戦場の先駆けは勿論だが、普段は植民地での独立派や反政府派の弾圧を主任務にするのが空中要塞の降下猟兵であり、そんな彼らがいくら武装していたとしても、ゲリラ戦の経験もない一般市民に後れを取るはずが無かった。
『諸君らにアトラス神の導きあれ!第一中隊、降下開始!』
陸地に到達すると同時に次々に降下猟兵は開いたハッチから飛び出していく。
大きさが大きさなので、空中要塞は1基だけでも降下猟兵を最低でも1個連隊は乗せていた。
地球の感覚で見ていれば、次々にパラシュートが開く、と思うところだが、そんなものは開かずに次々にそのまま降下していく。
そして着地の直前、背負っているバックパックが逆噴射を行い、速度を殺して着地する。
正にロケットマンといった感じだが、自然落下から突然人の足で着地可能な速度まで減速するのだから中々殺人的な加速度である。
降下後にバックパックを捨てて装備を整えた姿は、地球で言うならガスマスクを装備した完全装備の現代歩兵に近い。
違いと言えば、装備した武器がオプションでゴテゴテしていないということだろうか。
漁村に降下した第一中隊は、人を見つければ手当たり次第に殴りつけ、広場に引きずっていく。
家だろうがどこだろうがお構いなしに扉を蹴り開けて中に入り、寝ていようがトイレ中だろうが例外なく広場に引きずり出される。
病気で臥せっている老婆を無理やり引きずり出した降下猟兵を見て拳銃を抜いた村の警察官は射殺され、その死体は広場に吊るされていた。
それを見た住民の抵抗の意思はあっさりと折れてしまった。
それほど人口があるわけでもない漁村の制圧は、一瞬にして完了したのだった。
新世界暦2年1月4日 アズガルド神聖帝国 本国東島 ギムレー飛行場
ほぼ無抵抗で制圧された漁村と異なり、大した規模ではないと言え、腐っても空軍基地であるギムレー飛行場はそれなりに抵抗した。
とはいえ、武装といえば基地警備用の旧式小銃や拳銃が多少ある程度、完全武装の降下猟兵3個中隊を食い止める、などというのは不可能である。
が、双方にとって意外なことに、ギムレー飛行場防衛隊(仮称)は善戦していた。
破壊されたリンドブルム戦闘機から取り外した機関砲を即席の砲架に据えて、防御陣地を作っていたのが功を奏したのである。
前日の偵察と攻撃で、飛行場には大した抵抗戦力が無いと判断していたアトランティス帝国は、結局、昨日の機銃掃射後、爆撃は行わずに降下作戦を強行したため、いらぬ犠牲を出すことになったのである。
しかし、それもアトランティス側が航空支援を要請するまでの話であり、空中要塞の砲撃が防御陣地そのものを吹き飛ばしたことでギムレー飛行場はアトランティス帝国の管理下に置かれたのだった。
新世界暦2年1月4日 アズガルド神聖帝国 本国東島上空 アトランティス帝国空中要塞「クリティアス」 作戦室
「やれやれ、こんな相手でも損害は出るのか」
今日の作戦報告を手に取りながら、空中要塞司令は溜息を吐く。
「申し訳ありません。レシプロ機を持っているのですから、機関銃程度は想定してしかるべきだったのでしょうが、現場指揮官が漁村の制圧が容易に済んだことで油断したようです」
それをさらっと現場指揮官に責任転嫁する作戦参謀。
「まあいい。許容範囲内だろう。飛行場設備は使えそうなのか?」
「未舗装ですからそのままではしんどいですね。それでも輸送艇の発着くらいには使えますから、本国からの補給や増援は各段に楽になります」
「早いところ地図を手に入れろと本国の参謀本部からは矢の催促だ。飛行場内の捜索を急がせろ」
そもそも相手の言語もよくわかっていないのである。
とりあえず相手の技術水準が大きく劣るようだから、手っ取り早く植民地にして本国に物資を召し上げさせなければならない、という強迫観念だけで実行されている作戦である。
「しかし、敵は増援の派遣もしていないとは。まともな統治機構が無いのか?」
「それにしては漁村には治安要員がいたようですし、解せませんが」
どういうことでしょうか、と作戦参謀共々首を傾げる。
「少し作戦を急ぎ過ぎている気もするし、増援の到着までは情報収集に徹するべきか?」
「それは良いかもしれませんが・・・本国やあちらさんは大丈夫ですか?」
そう言って作戦参謀は心配そうにもう一つの空中要塞がいるであろう方向に視線を向ける。
「まぁ、抑えられるところまでは抑えるさ。この感じだと防空戦闘機はさして必要なかろう。情報収集に重点を置いて作戦機の運用計画を立ててくれ」
「わかりました」
作戦参謀は敬礼をすると退室していった。
1人になった空中要塞司令は再び作戦報告書に視線を落とす。
「なんだか嫌な予感が消えないのだが・・・ただの杞憂なのだろうか」
自分たちよりもかなり遅れた技術しか持たないらしいことしか書かれていない報告書を見ながら要塞司令は呟いたのだった。
新世界暦2年1月4日 アトランティス帝国 帝都 帝国評議会議事堂
アトランティス大陸にあるアトランティス帝国本国。
まるで古代ローマやギリシアのような伝統様式の建物だけが並ぶ帝都の中心に、一際目立つドームを備えた大きな建物がある。
それこそがアトランティス帝国の政治・行政の中枢である帝国評議会議事堂である。
ちなみに、帝都に高層建築が無く、低層の伝統建築しかないのは、そう規制されているからである。
見方によっては、密度の低下で首都の無秩序な拡大と地価高騰を招くだけのように思えるが、実際にはそうはなっていない。
これは、そもそも帝都に住める人間、入れる人間が決められているためである。
帝都に住める人間は、皇帝は当然として、皇族、評議員、調停官、行政官、近衛兵のみとなっている。
なお、「近衛兵」という名称になってはいるが、実態は日本で言うと皇宮警察と警視庁の機能を足したような組織である。
住んでいる人間が限られているので、その人的規模は警視庁よりもずっと小さいが。
皇帝は血統によって選ばれるが、その職務は宗教的行事に偏っており、そういう点ではアトランティス帝国は宗教国家であった。
実際の政治は10人の評議員による合議制の評議会が、立法、行政の最高機関である。
司法は帝国調停院がその最高機関だが、評議会に対する監督権などは無い。民事の調停や刑事裁判に関する権限しかないのである。
行政官は日本で言うと中央官庁の局長クラス以上である。
そんなわけで話は、住める人間を選別し、人口を抑制することで景観と威厳を保つ帝都の帝国評議会議事堂の評議会室の中に移る。
10人しかいない評議員のための会議室だと言うのに、100人は座れるんじゃねぇか、という巨大な円卓が置かれた評議会室に、等間隔で10人の評議員が座っている。
円卓なのは、評議員10人の間に権限の差は無い、ということを表すためであり、議長は開催する日毎に時計回りの持ち回りになっている。
「それでは、本日の評議会を始めます」
今日の議長役の評議員がそう厳かに宣言する。
この手の国家だと大抵の場合、人種でどうこう言い出すものだが、文化や宗教は恐ろしく融通が利かない割に人種については何の拘りも持たないのがアトランティス帝国の特徴である。
実際、評議会議員10人も見た目から人種の違いが明らかで、混血だろうと推測できる者も多い。
民族の純血だのなんだと言い出さないのがいいことなのかどうなのか、植民地における文化浄化っぷりを見れば結局どっちもどっちなんじゃねぇのか、と思えるくらいには植民地はアトランティス化されている。
なんせ、元々の文化、宗教は勿論、言語すら残っていないのである。
数百年に渡る統治の賜物だが、生まれがどうであれ画一化された教育を受け、優秀であれば無条件に本土の学校に進めるのだから、そこだけ見れば地球国家でも有数の平等っぷりである。
逆に成績不良だったり、素行不良だと容赦なく植民地に送られて農場奴隷のような生涯を送ることになるのだが。
「新たに見つかった植民地の確保は問題なく進みそうだと報告を受けています。現地勢力の抵抗も寡少なので大兵力で一気に確保を進めると同時に、農場整備を進める方針で問題ないでしょうか」
議長の言葉に、特に異議は出ない。
「食料備蓄と本土の農場だけだと、配給制限が必要ですし、日々の食事の彩りも足りませんからね」
食料生産のほとんどを植民地で行っていたとはいえ、安全保障上の問題で、本国でも最低限必要な穀物を中心とした農業生産は行われている。
ただ、それは「戦闘糧食でずっと凌げ」とか「餓死しないからいいだろ」と言っているようなものである。
植民地の農園労働者はずっとそうだろ、という声が聞こえてくるが、そんなことは本国にいる彼らには関係ない話である。
「新たな植民地人は言語も解さぬと聞きますが、予定通りにいけますでしょうか」
「子供は問題なかろう。問題は」
「大人か。言語問題が解決せんことにはどうにもならんな」
少なくとも、大人を全員粛清とか言い出さないあたりは某タスマン教国よりマシかもしれないが、相手の文化や言語を全く、これっぽっちも尊重する気が無いという点では似たり寄ったりである。
「とにかく新植民地の確保を急ぎましょう」
「それはわかるが、空中要塞を2隻とも新植民地に貼り付けるのはどうなんだ?」
「機動戦力としても現地作戦拠点としても便利ですし、本土防衛向きではないでしょう」
その後も本土防衛のためにどの程度の戦力を残すべきかの議論はあったものの、概ね全員の意見は一致しており、可能な限り戦力を植民地獲得に派遣すると結論付けられた。
「アトラス神の加護のあらんことを」
その言葉と共にその日の評議会は散会となった。
次は1週間以内に出来るといいなぁ・・・。




