戦争の呼び声
新世界暦2年1月3日 アズガルド神聖帝国 帝都アガルダ 参謀本部
本国東島の飛行場が攻撃を受けたことで、軍備再建中のアズガルド帝国軍中枢は恐慌状態に陥っていた。
しかも、敵機にリンドブルム戦闘機が全く追従できなかった、との報告から、敵が日本やイギリスと同等の技術力を持つ相手だと懸念されたからである。
「ようやく復旧した滑走路がまた使用不能になったのか?」
「いや、どうやら敵機は機銃掃射だけで帰ったらしい。前のようにはなっていないが、人的被害が大きいとのことだ」
日英と交戦した際は、日英は一部の主力基地を除いて、夜間に滑走路や格納庫に爆弾を落として使用不能にしていたので、人的損害は大したことなく、滑走路や機材ばかり失ったのである。
田舎の大した規模ではない飛行場では滑走路だけが破壊されて放置されたケースも多かった。
今回攻撃を受けたギムレー飛行場は後者だったパターンである。
「このままだと人的損害はさらに拡大するぞ」
「だがどうする?今我が国にある機体では望みは薄いぞ」
日本から購入予定のF-1Bは先行量産が始まっているとはいえ、ドラスト大陸での飛行試験中であり、実戦投入できる状態には無い。
まぁ、実戦配備されていたとしても視界外戦闘能力のない旧式機の焼き直しがどれほど効果があったかは疑問だが、少なくともレーダーを装備した超音速ジェット機、という時点でアズガルドのどの現有機よりも強力である。
「・・・同盟国に頼るしかないだろ」
自国の領空警備を他国に頼る、というのは彼らのプライドをへし折るには十分なインパクトだが、そもそも航空戦力が半壊している状態なので今更である。
実際、地球においてもNATO加盟国のバルト三国は自国では戦闘機を維持できないので、他の加盟国が持ち回りで領空警備を担っている。
まぁ、バルト三国の位置的にロシアに対する楔となるので、それを請け負う(もしくは請け負っていた)各国にもメリットはある(あった)のだが。
「しかし、根本的な問題があるぞ」
「なんだ?」
「果たして、今回の敵は日本より進んだ国なのか?遅れた国なのか?」
その問いの答えは誰も持ち合わせず、沈黙が満ちたのだった。
新世界暦2年1月3日 アズガルド神聖帝国 帝都アガルダ 首相官邸
慌ただしい参謀本部と同じく、首相官邸も喧噪に包まれていた。
「厄介なことになった」
そう嘆いたアルノルド首相を、分かりきったことを言うな、という顔で軍事大臣が眺めている。
本土が攻撃を受けただけでも厄介なのに、そもそもこちらの戦力は最初から半壊状態、かつ航空戦力は全く歯が立たない可能性が高いのである。
一応、日米から政府中枢にだけは、去年と同じように新たな世界が転移してきた可能性についての情報提供は受けていたので、突然攻撃を受けたこと自体は(不測の事態ではあっても)驚きはない。
ただ、彼らから見た場合、同盟国と、今回の敵の間でどの程度の技術格差があるのかさっぱりわからない、というのも問題だった。
「仮に日英米よりも進んだ技術を持つ国だとしたら」
「我が国は去年より悲惨な目に合うな」
言わなくてもいいことをわざわざ口に出して首相が言う。
元々レシプロ機全盛だったアズガルドから見れば、超音速ジェット機を持つ相手の技術水準を比べることなどできない。
小さな子供から見れば中学生も高校生も大学生も大きな大人に見えるのと同じである。
「ただ、1つだけ確かなことがあります」
そう言った外務大臣に視線が集中する。
「蝙蝠というのはどこの世界でも嫌われるんじゃないですかね?」
その言葉に全員が唸ってしまう。
新たに攻めてきた国と、日英米、どっちが進んでいるか天秤にかけたところで、それを理由に陣営をちょろちょろ移るような国はどこにも信用されない、と言う話である。
信用出来ない国ならいっそ潰してしまおう、という考えに至る覇権国家、というのは別に珍しい話でもなんでもない。
「というか、どっちみち今更陣営移るとかムリでしょ。ここアガルダは日英の爆撃圏内ですよ」
一番肝心なこと忘れてない?と外務大臣がさらに追い打ちをかける。
「鉄道も日本規格にしてしまいましたし、どのみちもう後戻りはできないでしょう」
さっさと日英に泣きついて防空部隊送ってもらえよ、という顔の外務大臣だが、え、それお前の仕事じゃね?という顔の軍務大臣。
そしてこいつら仕事しろよ、と思っている首相。
どこかの首相官邸に似てきた気がするが、きっと気のせいである。
「いずれにせよ、話し合い無しでいきなり攻撃してくる相手だ。交渉は絶望的だろう。今できることとしてはAPTOに防空部隊を中心にした防衛戦力の派遣を要請するしかない」
首相はそう結論付ける。
「外務省は外交ルートで、軍務省は軍の現場ルートも通じて派遣要請と受け入れの準備を進めろ。軍は中央海峡を絶対防衛線として戦力集結を図れ。ドラスト大陸の戦力を呼び戻すのも止むをえまい」
「・・・わかりました」
それは最悪の場合、ドラスト大陸と、下手をすれば本土東島も見捨てる、ということである。
「セントーラス基地の部隊を本土に呼び戻すことになりますが」
「止むを得んだろ。もともと現地戦力だけでもホリアセには優勢だった。今は本土を優先する」
セントーラス基地には日本から買った改造T-4が12機と、F-1Bの試験部隊が8機いる。
改造T-4のほうは簡易FCSを積んだだけで、武装も頭がおかしい25mmガトリング2門なのでレシプロ相手以外なら対地攻撃機である。
F-1Bの方は一応対空戦闘可能だが、飛行試験機の4機はレーダーやFCSはおろか、武装を搭載していない状態である。
残りの4機は先行量産試作機として量産機で盛り込まれる機能は全て搭載されている。
ちなみに、レーダーについては元々空自のF-1が搭載していたJ-AWG12は生産終了から時間が経過し、部品も枯渇して久しいので、再設計を面倒がってイスラエル製のEL/M-2032が搭載された。
レーダーは元より小さくなったのに能力自体は向上しているのだから、電子機器の性能向上は恐ろしいものである。
まぁ、たかだか4機いたところで、敵が超音速機を量産していたらどう考えても勝ち目はないが、何もないよりはましであるが、パイロットはいまだ機種転換訓練中のうえ、開発も終了してはいないのだが。
「さあ、忙しくなるぞ!」
首相はそう言って全員を急かしたが、何人かは元からクソ忙しかったんですけど!と思っていたのだった。
新世界暦2年1月4日 日本国沖縄県 アメリカ空軍 嘉手納基地
離陸準備を整えて、次々に誘導路へと向かう機体の列がある。
第44戦闘飛行隊のF-15Cである。
増槽を3つ抱いたフェリー飛行の態勢だが、それ以外のハードポイントには搭載できるだけの対空ミサイルが搭載されている。
もっとも、輸送も兼ねた搭載なので発射できる状態にはなっていないが。
他にKC-46AとC-17も離陸準備を整えて誘導路へ向かっていた。
アズガルドに緊急展開するために急遽準備を整えた米空軍の一団は、アガルダ国際空港に向けて離陸した。
ちなみに、空母を派遣せずに空軍の緊急展開となったのは、海軍は衝突の危険はほぼなくなったとはいえ、未だ交渉が妥結したわけではない敷島大公国の牽制とラストールとの間に出現した陸地の調査に忙しいので、すぐに派遣できる空母が付近に無かったのと、現地で使える基地があるならわざわざ空母を派遣する必要が無いからである。
アガルダ国際空港までなら空中給油は必要ないのにKC-46Aが同行するのは、現地で使用する燃料を緊急輸送するためである。
KC-46Aがこれまでの空中給油機とは異なる特徴として、地上における燃料タンクとしての運用が設計段階から考慮されていることがある。当然、今回のような空軍の緊急展開に対応するための機能である。
中米も落ち着ききっていない状況での新たな海外展開に懸念が無いわけではないが、場所を考えると旧タスマンの西側、ということになるので、これ以上ややこしくなられても困るが故の緊急展開であった。
次は・・・水曜か木曜にいけるといいな?
その次は期間が開くと思いますが。




