開戦理由はいつも適当
新世界暦2年1月3日 アズガルド神聖帝国 本国東島 上空 アトランティス帝国空中要塞クリティアス搭載航空隊
『ヘラクレス2よりヘラクレスリーダー、航空基地の航過撮影を終了。攻撃は受けませんでした』
編隊長は事実を報告したのだが・・・
『ヘラクレスリーダーよりヘラクレス2、無線状況が悪く良く聞こえない』
ばっちり聞こえる明瞭な無線が返ってきた。
『ヘラクレスリーダーよりヘラクレス2、敵飛行場から攻撃を受けたのか?』
威圧するような声が無線から流れる。
それに対し、編隊長は沈黙を返す。
『ヘラクレスリーダーよりヘラクレス3、ヘラクレス2の無線が不調だ。敵の攻撃を受けた模様。反撃を許可する』
編隊飛行してたのに先頭の編隊長だけが攻撃を受けたなんておかしなことがあるわけないだろ、という話だが、ありもしない攻撃が開戦理由なんていうのは地球でも歴史上よくある話である。
『・・・ヘラクレス3よりヘラクレスリーダー、了解。飛行中の敵機を撃墜します』
副編隊長は完全に貧乏くじだが、そう決断する。
『飛行場攻撃も許可する。駐機中の機体も破壊せよ』
ヘラクレスリーダーからの命令だが、そもそも編隊は編隊長は偵察ポッド装備、他の機体も空対空装備なので地上攻撃は機関砲しか手段が無い。
『・・・了解』
機関砲の射程で攻撃する、ということは(高度と速度の分有利とはいえ)対空機銃の射程に入る、というのと同義である。
というか、普通に考えて対地装備に換装して出直してくるべき案件である。
『ヘラクレス4、ヘラクレス5は敵戦闘機に対処せよ。残りは続け』
そう言うとヘラクレス3は機体の見当たらない駐機場は無視して、大きなかまぼこのような格納庫を銃撃するべく旋回降下を開始したのだった。
新世界暦2年1月3日 アズガルド神聖帝国 本国東島 ギムレー飛行場 対空機銃陣地
「敵編隊別れました。2機は我の戦闘機に向かう模様。残りは旋回降下中。格納庫銃撃コースです」
敵の動きを追い続けている見張り員が報告する。
「隊長、先ほどは航過だけでしたが、今回もそうとは限りませんよ」
「そうは言っても、上が何も言ってこない以上は撃つわけには・・・」
指揮官は今に至るも何の命令も寄こさないこの基地の中枢にやきもきしながらも、部下には待てとしか言えない焦燥感を存分に味わっていた。
もっとも、その基地中枢も方々に問い合わせをかけるのに必死で、あるのかないのかわからないような貧相な基地防空隊を気にかけている余裕がないのだが。
「とにかく待て!今はまだ所属不明というだけだ!ひょっとしたら緊急着陸する場所を探しているのかもしれないだろ!」
指揮官は苦しい理由付けをするが、射撃手や装填手をわずかながら落ち着かせる効果はあったようだ。
一瞬だけだったが。
「敵機発砲!!」
見張り員のその叫びと共に、格納庫とその周辺に大量の着弾音が響き渡る。
曳光弾を積んでいない上に、全て徹甲弾のAPベルトなので着弾しても砂煙があがって穴が開くだけだが、トタン屋根の格納庫には効果てきめんで、中に入れられていた機体も軒並み穴だらけになる。
「射撃用意!」
指揮官の号令で、小銃よりも遥かに大きなコッキングレバーが引かれ、ドラムマガジンから弾が装填される。
「あの速度では狙っても追いきれん!弾幕射撃で落とすぞ!」
「しかし、どこを狙っていればいいんですか!?」
照準点を固定しろ、と言われても次に敵機が通る位置がわからないことには、狙い様が無い。
「一度の攻撃で終わりってことはなかろう!間違いなくもう一度攻撃するはずだ!格納庫が再度銃撃されると見て照準しろ!見張り員、敵機の動きはどうか!?」
指揮官は訓練通りに指示を出す。
相手に対空兵器があると知れれば、間違いなく次の攻撃目標にされるだろうから、泣いても笑っても一発勝負である。
その後は「死んでも武器から手を放しませんでした」と英霊になるか、一目散に逃げるかの二択である。
「敵機、再度格納庫上空に接近!コースは先ほどより少し西寄り、高度は同じ!」
見張り員の言葉に射撃手は照準を微調整する。
「発射タイミングは任せる。泣いても笑っても一回勝負だ」
「任されました」
射撃手はゴクリと唾をのみ込み、照準を覗きこみ続ける。
「敵機まもなく射程内!」
見張り員のその言葉から少し遅れて、25mm連装機銃が猛然と射撃を開始する。
5発に1発の割合で曳光弾の混ぜられた弾幕が敵機の飛行経路上に展開される。
敵機は気づいて回避行動をとろうとしたものの間に合わず、その弾幕に突っ込む形になった。
曳光弾の他に榴弾と焼夷榴弾が入っている対空弾幕は、如何なくその威力を発揮し、敵機の左翼をもぎ取った。
左翼をもぎ取られた敵機はあっという間に制御不能に陥り、飛行場のそばに墜落、爆発して炎を撒き散らすことになった。
「当たった・・・」
信じられねぇ、という顔でポカンとその様子を眺めていた射撃手は、指揮官の総員退避という叫び声を完全に聞き逃していた。
一瞬我に返った彼が最後に見たのは、まっすぐ向かってくる敵機の姿だった。
新世界暦2年1月3日 アズガルド神聖帝国 本国東島 東端にある漁村沖合上空
行きよりも1機減った編隊が空中要塞に帰還するため飛行していた。
『クソッ!あんなちんけな対空機銃にやられちまうなんて!』
『まだ作戦行動中だぞヘラクレス4』
ちんけだろうが原始的だろうが、対空機銃は対空機銃である。
ベトナム戦争でも中東戦争でも湾岸戦争でも、対空機関砲には結構な数の戦闘爆撃機や攻撃機が墜とされている。
低空侵攻する限り、対空機関砲は大きな脅威であり続けるのである。
片翼もげても帰還したF-15とか、胴体に大穴開いても修理して復帰するA-10とかいうのが特異なだけで、普通は20mm機関砲だろうと2、3発もらえば致命傷である。
『ですが!悔しくないんですか!編隊長!』
悔しくないわけがない。わけがないのだが、今は作戦行動中であり、この無線は空中要塞も聴いているのである。
『ヘラクレス6は油断しすぎた。それだけだ』
その言葉でヘラクレス4は黙り込む。
が、海上に何かを見つけて再び騒がしくなる。
『海上に小型船舶を発見!哨戒艦艇かもしれません!攻撃します!』
『おい、待て!ヘラクレス4!』
『こちらヘラクレスリーダー、かまわん。敵戦力は少しでも削っておけ』
『しかし・・・』
どう見ても哨戒艦艇というよりも、ボートとでも言った方が良さそうな小舟である。
そんなものを超音速飛行可能なジェット戦闘機で攻撃するのだから、銃撃が当たらなくてもひっくり返りそうである。
そうこう言っている間に、小舟は銃撃を受けて波間へと消えて行ったのだった。
次も1週間以内に




