いつかどこかで見た光景?
新世界暦2年1月3日 アズガルド神聖帝国 本国東島 東端にある漁村沖合
200年戦争が続いても、世界が文字通り変わってしまっても、国の中枢から離れた田舎の生活なんて早々変わらないものである。
まぁ、徴兵制があるので若い人間が出て行くことはあるものの、大抵は近辺の部隊で地方警備の任務に就いて満期除隊で帰ってきたら親の仕事を継いで死ぬまでそこで暮らす。
それでも若い人間が少しずつ都市部へ出て行っているのはどこの国でも同じであり、人口は減少傾向、緩やかな衰退傾向にある田舎の漁村。
それがこの一帯を包む現実である。
「今日はまた潮の流れが違うなぁ」
新年早々に網を入れていた小さな漁船の船長は小さく呟く。
もっとも、その声に応えるものはいない。
船長が誰かに聞かせるために言ったわけではない、というのもあるが、そもそも船には船長しかいない小さな船である。
他人から見ればちっぽけな船だが、彼にとっては父から受け継ぎ、2人の子供を育てたかけがえのない船である。
その子供2人も、1人は両親に似ず村の学校始まって以来の秀才と言われ、奨学金を勝ち取って帝都の大学に行き、その兄の背を追い続けていた弟も学費のかからない海軍士官学校へと進んだ。
つまり、この船を継ぐ者はおらず、彼が船を降りるときがこの船の終わりである。
「やれやれ、こいつはまた。燃料代くらいにはなってもらわんと困るんだがなぁ」
不漁と言って良い状態の網を引き揚げながら彼は呟く。
去年の1月もそんな状態で、いい漁場を見つけるのに2ヶ月かかったのに、また同じ状態に戻ってしまったのである。
「はてさて、どうしたものか」
今日はもう戻るか、もう少し潮目を探してみるか、思案していると、ふと遠くに地響きのような轟音を感じて視線を上げた。
「・・・飛行機?」
自分の知る飛行機とはかなり異なる音、そして速度で飛行する物体を見つけて彼は顔を顰めたのだった。
新世界暦2年1月3日 アズガルド神聖帝国 本国東島 上空
地球で言うとSu-17によく似た可変翼の機体が編隊を組んで堂々とアズガルドの領空に侵入していた。
日英米から諸々の装備を導入している、とはいっても、ようやく選定が終わった程度の段階であるアズガルドにはこのジェット機の侵入を拒むことはできない。
というか、そもそも全土を網羅するレーダー警戒網もまだ構築できていないので、侵入にすら気付いていないのだが。
アトランティス帝国空中要塞クリティアス搭載航空隊の先鋒である彼らは、そんな何も妨害するものの無い空から悠々とアズガルド本土へと侵入した。
『ヘラクレスリーダーより各機、現状を報告せよ』
『ヘラクレス2よりヘラクレスリーダー、現在不明大地上空に侵入するも、レーダー波の照射は確認されません』
レーダー波も確認できず、無線の呼びかけにも応答がない大地なので、占領しても問題なかろう、という雑な理論に基づき、偵察も兼ねて派遣されたのである。
突然現れた、という点からわかる通り、アトランティス帝国も敷島大公国と同じ世界の国であり、同じ国際ルールの中に存在していたはずなのだが、なぜそんなバカみたいに侵略的なのか。
それはアトランティス帝国が広い本土を持ちながらも、農業生産や鉱業生産は全て植民地に押し付けて搾取することで成り立っていたからである。
その植民地が突然消えて、よくわからん大地が出現したのだから、政府首脳部は阿鼻叫喚である。
本土の特権階級ぶりは行くところまで行きついている感があるのだが、割と人種に関しては寛容である。
まぁ、植民地の文化は一切認めず、宗教すらも徹底的に破壊し尽くし、アトランティス式教育、文化だけを認めた上で、優秀な人間を上に上げているだけなので、それが果たして寛容と言っていいのかは微妙だが、少なくとも「人種での」差別はしていないのである。
中国で例えるならウイグル人でも文化と宗教を捨てれば総書記になれる、ということなのでまぁ奴隷にするよりはマシか?と言った感じである。
『ヘラクレス4よりヘラクレスリーダー、レーダーコンタクト。数は2、低空から登ってきている』
『了解。確認する。恐らく偵察情報にあった飛行場から上がったのだろう。警戒しておけ』
『ヘラクレス4了解。相変わらずレーダー照射はない。目視警戒なのか?』
偵察情報が不十分なので、相手の索敵手段も良くわかっていないのである。
レーダーも持ってない相手なら大したことないだろう。という本国情報部の雑な見立てで、今回の強行偵察は実行されていた。
『ヘラクレスリーダーよりヘラクレス2、飛行場施設の詳細な偵察写真が欲しい。低空での撮影を行え』
編隊内で特に無線交信があったわけではないが、全員がえぇ・・・と思っているのが伝わる。
仮に、相手の技術水準が著しく劣っているとしても、飛行機を作る程度の技術はあるわけである。
つまり、対空砲もあるだろうし、機関銃もあるだろう。
下手な鉄砲も数撃ちゃあたる、という言葉があるのは何も地球だけではないのである。
低空でのフライパスなど、対空砲に撃ってくださいと言っているようなものである。
もっとも、上層部はその「撃たれること」を期待しているのである。
領空侵犯しといてなにいってんだ?という話ではあるが、攻撃されれば反撃しても問題ない、という理屈である。
まぁ、攻撃されなくても飛行場の詳細な写真があれば相手の技術水準も細かく分析できるので、(後方にとっては)損も無駄も無い作戦というわけである。
『ヘラクレス2よりヘラクレスリーダー、これより低空偵察を行う』
ヘラクレス2は覚悟を決めると降下を開始した。
新世界暦2年1月3日 アズガルド神聖帝国 本国東島 ギムレー飛行場
「敵機、高度を下げ始めました!」
「落ち着け!まだ敵機と決まったわけではない!」
基地に据え付けられた対空機銃の周囲で射撃手と指揮官が叫んでいる。
編隊組んで領空侵犯してる時点で敵機でなくてなんなんだっていう話だが、直近の国際情勢でこの方面に編隊組んで侵攻してくる相手がいるとは考えられなかったので、指揮官の言うようにまだ敵機と決まっていない、というのもあながち間違いではない。
「敵機、さらに接近!」
「友軍機は!?」
「まるで接敵できていません!」
元々本土の中でも辺境扱いで、転移後もそれは変わらなかった基地なので、配備されているのは他で余剰になった旧型のリンドヴルム戦闘機であり、下手をすれば普通にホリアセが攻めてきても後れを取る可能性があるので、相手がジェット戦闘機なら言わずもがなである。
「うぐぐ」
対空機銃指揮官は判断に困って唸ってしまう。
一応、アズガルドも交戦規定を定めているので、それに則れば、領空侵犯している相手には無線で呼びかけ、戦闘機が着陸を促すことになっている。
問題はその着陸を促す戦闘機がまるで敵機を追随できていないので、手順を踏めてないことである。
「敵機は我の戦闘機を振り切り、本飛行場に爆撃コースで侵入中!弾込め!」
テンパった指揮官は装填を命令する。
とはいえ、この飛行場の対空火器は申し訳程度に設置されている二連装25mm機関砲が1基だけ、というもうそんなら無い方がマシじゃねぇのかという貧相さである。
旧日本海軍の主力対空機銃と同じ口径で外観も似ているが、弾倉は箱型ではなく80発入りのドラムマガジンが乗っているので旧海軍の九六式25mm高角機銃よりは連続射撃時間が長い。
まぁ、装填が面倒になっているので結局どっちもどっちなのだが。
「速度が速くて射撃指揮装置が追従できません!」
「敵機の高度を割り出せ!滑走路中央付近のその高度に照準固定!指示を待て!」
射撃管制が追従できないなら取るべき方法は2つ。
1つは目視と勘で撃つ。
神がかった熟練兵がいるならそれもありだろうが、実戦とは程遠いこんな辺境の基地にそんなのがいるはずがない。
では、もう1つはというと、相手が通りそうな場所にあらかじめ照準しておいて、通りそうになったら通り過ぎるまで発砲を続ける、いわゆる弾幕射撃である。
「撃ちますか!?撃っていいんですか!?」
見る見る間に大きくなる機影に、射撃手が興奮して叫ぶ。
「・・・だ、ダメだ!敵が攻撃するまで発砲してはならん!」
最後の最後で日和った指揮官の判断が、吉と出るか凶と出るか、この時点の彼らには知る由も無い。
いろいろあるので今後がよくわかんないんですよね。とりあえず1週間は目標にしますが。




