一難去ってまた一難
新世界暦1年12月15日 アメリカ合衆国ワシントンD.C. ホワイトハウス
「なんとか落ち着いた・・・のかなぁ?」
大統領は首を傾げながら、パキスタン情勢の最新レポートを見る。
パキスタンは軍統合情報局が、中国の空爆で吹き飛びかけたクーデターをどうにかまとめて、軍事政権が発足。
中国軍機撃墜は前大統領と軍の一部が共謀して行った謀略、として略式軍法会議で大量の死刑判決が出ていたが、当の大統領はドバイに出国している上に、新政権は口では勇ましいことをいいながらも、正式な外交ルートでは一切引き渡しを求めていないことからお察しである。
やられた中国のほうも、その謀略に関わった軍人の死刑への立ち合いや引き渡しを求めはしても、前大統領にはノータッチなので、多分話がついているのだろう。
なお、中国の求めた死刑への立ち合いについては、パキスタン側が「ほとんどがすでに執行済」と拒否している。
「しかし、パキスタンはしばらくの間、中国に大幅な譲歩を強いられるでしょう。我々には痛手ですよ」
影響力の低下は避けられないですよ、とCIA長官が口を挟む。
「正直、ユーラシアの重要度は以前よりも下がってるだろ。イスラム系テロ組織の動向さえ追えれば問題なかろう」
「最近は中国が軍統合情報局にも手を伸ばしてきてますから、守るだけでは失っていく一方ですよ。まぁ、中国がイスラム系テロ組織を支援するとは考え難いので、そこだけは安心ですが」
重要度が下がっても既得権益や情報網をみすみす失う必要はない、というのがCIA長官の考えだが、大統領のほうは、世界が広がってもそれに見合って予算が拡大するわけじゃないんだから、縮小も必要、という頭である。
「まぁ、戦争のダメージがあるとはいえ、経済も好調じゃん?印パと中露もしばらくはクールダウンするだろうし、やっと落ち着けんじゃね?」
「あれを見てよくそんなこと言えますね」
CIA長官が呆れたように見遣る先、ニュースでお馴染みのホワイトハウス前には、プラカードや横断幕を掲げた結構な数の抗議集団がいた。
「別に国内のことじゃないし?」
「マスコミの前でそれ言ってみ?」
抗議集団は中米諸国からの避難民の扱いについて抗議していた。
一切の例外を認めずに元の国に送り返すか、旧タスマン教国に送っていることについて、非人道的だと言うのである。
「最初からそういう条件での受け入れだろうが。中米の復興資金も出してるのに文句言われる筋合いはねぇよ」
「とはいえ、警備の州兵が脱走しようとした収容者を野犬を追い立てるように棒で叩いて追いやる映像が流出したのは痛いですねぇ」
「別に上が指示したことでも無し、やった奴らは処分したんだからそれでいいじゃねぇか。煩い連中だよ」
最初から移民としては一切受け入れない約束で入国を認めたんだから、追い返して何が悪い、というのが大統領の考えである。
「まぁ、世論に妥協する寛容さを示すのも1つの手じゃないですか?」
「中米の復興も旧タスマン教国の開発も、人手がまるで足らねぇのに、なんで失業率があがってるうちの国で受け入れにゃならんのだ」
あくまでも妥協はしない、と強く決意する大統領。
それを見たCIA長官は、別に自分の仕事の範疇でもないしどうでもいいや、とその話題を打ち切った。
「うーん、今日もコーヒーが旨い」
そう言って大統領がコーヒーに口をつけたところで、勢いよく部屋の扉が開かれ、国防長官が駆け込んできた。
「大統領!大変です!オーストラリアとラストールを訪問していた艦隊が攻撃を受けました!敵は旧タスマンのようなバリアを持つ大型飛行艇とのことです!」
その報告を聞いて大統領は勢いよくコーヒーを噴き出した(2日連続2回目
新世界暦1年12月15日 ラストール・人民統制委員会の間の海域 アメリカ海軍 第50任務部隊
空母ジョン・C・ステニスを中核とした、アメリカ海軍のオーストラリア、ラストール訪問艦隊は、オーストラリアでの日程を終え、残すスケジュールはラストールでの入港関連行事と、多少の合同演習のみである。
なお、ラストールとの大規模な合同演習はオーストラリアへの往路に終えているので、復路は寄港をはじめ儀礼的なイベントが多い。
そして、往路は一緒だった巡洋艦と駆逐艦、潜水艦を1隻ずつオーストラリアに置いてきたので、今も空母の護衛についているのは駆逐艦が2隻に、LCSが1隻のみで、それにさらに補給艦がついている。
とはいえ、駆逐艦2隻はともにアーレイ・バーク級駆逐艦だし、LCSも対水上戦闘パッケージを装備したインディペンデンス級である。
空母の搭載機も合わせれば、そうそう手出しできる戦力ではないし、手を出されてもどうにか、というか手を出される前にどうにかできる戦力である。
「ラストールに入港するときの儀礼は地球と同じでいいのか?」
「APTOの艦隊が入港した時はそのようにしたようですし、問題ないのでは?参加していたマッキャンベルの報告でも市内のパレードで大歓迎を受けたと書いてありましたし」
「それはわけのわからん敵の艦隊を追い払ったからだろ」
ジョン・C・ステニスの艦橋で司令と艦長が寄港時のスケジュールについて確認している。
「入港後に岸壁で交歓行事があって、その後佐官以上全員王城で晩餐会か」
「なかなか見応えのある豪華な宮殿らしいですよ。楽しみですね」
「俺とお前、主賓だから変なこと出来ないよ?わかってる?」
そんなことを言いながら艦隊は20ノットで進む。
ちなみに、原子力空母は別に常に30ノットオーバーの最大速力で走っても問題ないが、通常動力艦でそんなことをするとしょっちゅう給油が必要になるし、燃料代も嵩むので普通はしない。
情勢の緊迫で緊急展開するようなケースくらいしか何日も最大速力で突っ走り続ける、ということはないのである。
『E-2Dが接近する大型不明目標を探知。・・・タスマン戦役で敵が使用していた大型飛行艇に反応が酷似しています』
そのとき、艦橋にスピーカーから不吉な報告が流れ、緊張が走る。
「待機中のF/A-18Eをスクランブルします」
艦長が直ちに1、2番カタパルトで待機しているF/A-18Eに発進を命令する。
「とはいえ、仮に例の大型飛行艇だとすると・・・」
「とりあえず目視で確認してみないと」
普通に対空警戒での待機だったので、2機のF/A-18EはAIM-120とAIM-9しか装備していない。
航空機相手なら何の問題もない装備だが、バカでかく、しかもバリア持ちの大型飛行艇だった場合、完全に無力である。
「後続はいつでも装備換装できる状態で待機!」
「というか、攻撃するならバーク級にミサイル攻撃させればいいのでは?」
別に大型飛行艇はステルス、というわけではないので、護衛のアーレイ・バーク級2隻で飽和攻撃すればいいのである。
「まぁ、オプションは多い方がいいでしょう」
取れる手段は多い方がいい、というのが艦長の意見である。
というか、艦長自身は自分の艦しか指揮できないので当たり前だが。
『大型不明目標、駆逐艦ニッツェに急速接近!まもなく視認範囲に入ります!』
新世界暦1年12月15日 ラストール・人民統制委員会の間の海域 アメリカ海軍 第50任務部隊 駆逐艦ニッツェ
艦橋のウイングにはヘルメットを被り、防弾着に身を包んだ乗員がM2機関銃の準備をしている。
「けど飛行目標だろ?これいる?」
「もしかしたらあることで助かることがあるかもしれんやん?」
「うーん?」
果たして、あれすらも潜り抜けてくる対空目標ってなんだよ?と言った感じで、艦橋前、フライトIではファランクスが装備されていた場所にある150kw級レーザーであるHELIOSを見る。
「目標方位246。何か見えるか?」
そんな感じでぐだぐだと準備していると、艦橋内から声がかかる。
「雲が低いです。見えないかも」
1人だけ準備せずに双眼鏡を見ていた乗員が双眼鏡から目を離さずに告げる。
「目視確認はスパホ任せか」
とはいえ、旧タスマンで鹵獲した兵器の解析では、全ての武装は実際の射程はともかく、照準装置が目視しかない、と結論されていた。
こちらから見えない、ということは向こうから攻撃されない、ということである。
「ん、あー、見えました。やっぱり映像でみた例の大型飛行艇に見えますね」
「どこだ?」
「お、あれか」
据え付けの大型双眼鏡で見ていた乗員の発見報告に、艦長や航海長も双眼鏡を持って出てきたので艦橋ウイングは人だらけになり、手狭である。
「視界内に入った、ということは敵の攻撃圏内だ」
「とはいえ、敵かどうかもわかりませんし、先制攻撃するわけにもいきません」
どうしたものか、と幹部連が頭を悩ませていると、大型飛行艇に動きがあった。
「大型不明目標で発煙!発砲と思われる!」
「取り舵一杯、最大戦速!」
艦が増速し、回避行動をとる。
すると先ほどまで艦がいた場所に次々と巨大な水柱があがる。
「CIC、敵の攻撃は探知できたか!?」
『できました。数4、大口径砲と思われます!』
「次攻撃を受けたら迎撃しろ!」
『了解。攻撃はしますか?』
「バカ!迎撃を優先しろ!大口径砲なんざ受けたら轟沈するぞ!」
弾道ミサイル迎撃にも使用されるレーダーであるSPY-1Dは発砲された砲弾もきっちり捉えていた。
「敵大型目標、再度発煙!」
『大型目標から飛翔する目標4を探知』
「スタンダード迎撃はじめ!斉射!」
後部Mk41VLSのハッチが開放され、勢いよくSM-2が次々に飛び出していく。
『HELIOS、Mk15、目標追尾中』
個艦防御の最終手段である2つのCIWSが起動する。
『SM-2、迎撃に成功!続けて敵大型目標から飛翔する新たな目標4!』
「迎撃!」
『SM-2飛翔中!』
再びVLSから迎撃ミサイルが飛び出していく。
『さらに敵大型目標から飛翔する目標4!スタンダード間に合いません!』
「CIWS、迎撃はじめ!」
独特な音で20mm砲弾をばらまくMk15と異なり、150kw級のレーザーであるHELIOSは無音である。
いずれにせよ、そのどちらもが、SM-2の飛翔音に比べれば、乗員の命を託すには頼りないように感じる。
『全目標消し・・・新たな飛翔目標・・・4、8・・・12!』
「イージス武器システムを自動モードへ!」
これまで半自動で制御されていたシステムが全自動で近付く脅威目標を迎撃する状態に切り替えられる。
「総員、耐ショック姿勢!」
迎撃が間に合わないと踏んだ艦長がマイクに向かって館内放送に叫ぶ。
直後、艦中央部と艦首に直撃した40センチ砲弾によって戦闘能力を喪失した。
次は水曜日




