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第一次「異」世界大戦  作者: 七十八十
新世界暦1年
141/201

全てがシナリオ通りにいくとは限らない

新世界暦1年12月13日 パキスタン イスラマバード 官庁街


方々が憲兵によって封鎖され、戒厳令とともに外出禁止令が出された市街地を、パキスタン軍の主力戦車であるT-80UDとAl-Zarrarが走っている。

まぁ、政府首脳が了承しているシナリオに沿ったクーデターなので、ただの賑やかしである。


軍の一部が勝手にやりました、なんていうのは近代国家として非常にまずいので、クーデターで政権入れ替えて、政争のゴタゴタに見せかけて前政権のせいにして幕引きにしようというシナリオである。

というか、中国を巻き込んでいなければこんなことをする必要はなかったのである。


外から見れば前政権は自演で戦争を起こした悪者、クーデター政権は国内政争のために戦争原因を自演と言うことにした悪者である。

見事に誰も得していないが、インドと中国を敵に回して戦争するよりはまし、という判断である。

大統領はシナリオに沿って既に極秘裏に国外に脱出しており、クーデター完了後に海外に亡命したことになる予定である。ちなみに、富豪と言える額の機密費を持ち出している当たりちゃっかりしている。


まぁ、そんなシナリオ通りのクーデターの裏でも、アメリカや中国、インドの情報機関は動き回っているので、様々な人間が闇から闇に消えたり入れ替わったりしているのだが。


何も知らない名だたる国際メディアの記者達が、まるで歴史的瞬間に立ち会ったかのように興奮気味に伝える中継によって、クーデターは世界に伝えられたのだった。




新世界暦1年12月14日 アメリカ合衆国ワシントンD.C. ホワイトハウス


「やれやれ、これで印パのまやかし戦争もとりあえず終結か」


パキスタンに演習参加の中国軍が居座ったせいで双方ともに戦線が碌に動かず、第二次大戦当初の西部戦線にちなんで、今回のカシミール紛争はまやかし戦争と呼ばれていた。


「新政権での影響力は・・・まぁ中国と五分か。維持できただけマシかね?今となってはかつてほどの重要性もないが」


とにかく軍部の発言力が強い国なので、割と政府中枢に情報機関が食い込むのが楽な部類の国であるパキスタンは、わりかし各国のパワーゲームの舞台である。

そんなところが核保有国だというのが非常に危ういのだが、正直パキスタン自身もその時々の自身の利益のために立場を最大限利用して立ち回るので、その辺は実にインドである。まぁ、本人たちに言えば嫌な顔をするだろうが。


「印パの衝突から中露の衝突、という市場メンタルへの大ダメージは回避できたわけだ」


良かった良かった、と大統領は安堵する。

ザルツスタンとかいう地域の統治に戦力を割きたいインドが、ここでわざわざ混乱しているとはいえパキスタンに全力で突っ掛かっていくとは考えにくいので、これでこの紛争は一端終わりである。


CIAからの報告で、パキスタンがクーデターによるリセットを目論んでいると聞いたときは頭を抱えたが、結果的に景気への影響が無くて済みそうなんだから万事オッケーと大統領は喜んでいた。


「全く、ユーラシアなんざイスラエルだけでお腹いっぱいなんだよ。だがこれでタスマンやらなんやらの開発に専念できる」


大統領の本来の最大の関心事は支持率であり、それに影響する国外情勢なんてイスラエル絡みくらいで、他は何より経済である。

ジュラシック大陸やラストールやアズガルドも、経済に大きく関わるから積極的なのである。

そんなわけで、上向くであろう来年の経済にウキウキした気分に大統領が浸ろうとしたとき、勢いよく執務室のドアが開けられて補佐官が転がり込んできた。


「大統領!人民解放軍がイスラマバードを空爆しました!中国軍機撃墜に対する報復だと北京が宣言しています!」


大統領は飲んでいたコーヒーを勢い良く噴き出したのだった。




新世界暦1年12月14日 パキスタン ラーワルピンディー GHQ


瓦礫の山になった陸軍総司令部の周囲をサイレンを鳴らした救急車や消防車が慌ただしく走り回っている。


一度テロの標的になり、多数の犠牲者が出たことはあるものの、そのときは外周の検問所や周囲の建物で食い止めていたが、味方機として領空に侵入してきた爆撃機には無力だった。


中国軍機撃墜の報復として攻撃目標にされたのは、空軍と海軍の総司令部であり、どちらもイスラマバードにあるので、イスラマバードの市街はクーデターの混乱も治まりきらない中で、大混乱に陥っていた。


そして、そんな混乱したイスラマバードで、中国大使館には完全武装の人民解放軍兵士が大量に出現し、周囲を警備していたパキスタンの官憲を威嚇していた。


クーデターに続く今回の事態に不安そうな表情を浮かべるパキスタンの市民感情以上に、中東情勢は増々不安定化していくのだった。




新世界暦1年12月14日 中華人民共和国 北京 中南海


「誰が攻撃しろといった!!」


集めた人民解放軍空軍の幹部を前に、国家主席(党総書記)が声を荒げている。

そんな国家主席をバカにしたように、空軍幹部達は薄ら笑いを浮かべていた。


「しかし、誰であれ報いを受けさせる、と仰ったのは総書記です。我々は犯人が判明したので報いを受けさせただけです」


総書記をバカにしたように言う中将を、総書記は思わず殴り飛ばしそうになるがグッとこらえる。


「つまり、君らが目標選定と攻撃命令を出したと認めるのかね」

「勿論です。事前に犯人が判明次第すぐに行動するように、と中央軍事委員会主席(党総書記)より命令を受けておりましたので」


党総書記が言ったのは「行動できるように待機せよ」であって、「すぐに行動せよ」などとは言っていないが、このあたりがきっちり残っていないのが独裁主義である。


「私が命令したのはすぐに行動できるように待機せよ。犯人が判明すれば新たに命令を下す、だ。貴様らは全員命令違反で解任だ」


総書記のその言葉に、空軍幹部達の顔色が一斉に変わる。

その顔に薄ら笑いはなく、あるのは冷酷な無表情、敵を見る軍人の顔である。


「総書記、お分かりではないようですね?我が軍にあなたを支持する人間はいませんよ?我が軍に手を出した相手を指を咥えて見ていろ、なんていう最高司令官を誰が支持すると?」


暗に、解任ならクーデター辞さずと仄めかす空軍上将を、総書記は冷めた目で見る。


「随分と強気だな。解任で済まそうというのは私なりの恩情だったのだが」

「その言葉、そのままお返ししますよ」


強気の姿勢を崩さない上将に、総書記はよほど軍の掌握に自信があるのだろうと思ったが、そりゃ政治的な判断も経済も気にせず、強気一辺倒で下を煽ってればいいだけなんだから気楽なものだ、と溜息が出た。


「そうか、上将、中将、そして優秀()()()空軍参謀部の諸君、残念だよ」


全員が何言ってんだこいつ、という目で総書記を見たが、次の瞬間、部屋に雪崩れ込んできた人間達を見て凍り付いた。


「君たちには今回のパキスタン攻撃でスパイ容疑と敵国への利益誘導の容疑がかかっている」

「バカな!?」


部屋に入ってくるなり逮捕状を取り出して空軍幹部を拘束した国家安全部の手際に、誰も何の反応も出来なかった。


「我々がスパイなどと、よくもそんな出鱈目がいえたな!?」

「ふざけるな!そこの男こそが利益誘導の張本人ではないか!」


ギャーギャーと騒ぎ立てるが、多勢に無勢のうえ、いくら軍人でも皆星付き(椅子磨き)の偉いさんばかりで、相手は国家安全部の手練れである。

あっさりと全員が拘束されていた。


「よくもまぁ、口ばかりは回るものです」

「貴様・・・」


遅れて部屋に現れたのは統一戦線工作部部長である。


「貴方達のせいで我々が苦労して築き上げたパキスタン中枢のシンパ達が全滅ですよ。せっかく次の陸軍参謀長を押さえられそうだったのに、どう落とし前をつけてくれるんです?」


味方のシンパを殺したことが、パキスタンで熾烈な影響力争いをしているアメリカへの利益誘導だ、というのが今回の逮捕容疑である。

もっとも、シンパが死んだ数でいえばアメリカもどっこいなので、情報戦では五分五分なのだが、この際そんなことはどうでもいいのである。


ちなみに、この手の情報機関の行動を正規軍が知らないことで起こる味方殺し、というのは割と頻発することである。

正規軍が情報機関の協力者をすべて把握しているとか、どう考えても機密保持に問題があるので仕方ないと言えば仕方ないことである。


なお、そんな中国シンパ達が死んだことが迅速にわかったのは、爆撃直後にパキスタン軍統合情報局が中国シンパの死亡者リストを中国大使館に投げ込んだからである。

ちなみに、死んだ奴だけ投げ込んだのは、「ちゃんと把握しとるんやで?」という脅しと、生き残ったシンパも把握されているのでは?という疑念を中国側に与えるのが目的である。


「命令違反を認めれば恩情をかけてやろうかと思ったが、反乱の意思までもっているようでは救いようが無いな」


総書記の発したその一言に()空軍幹部たちの顔が絶望に染まる。

スパイや反体制の罪は平気で連座させるのが中国式である。軍内部の同派閥の人間ならまだしも、下手をすれば家族も危険なのである。


「私は忙しい。さっさと連れて行け」


総書記のその言葉で、空軍の上層部は人知れず入れ替わったが、特に一般への発表は無かった。

そんなことよりも、パキスタンの騒動をどうやって自分たちのメンツを潰さずにうまく治めるか、ということのほうが中国にとっては重要だったからである。

次は土曜日

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― 新着の感想 ―
[良い点] >今話のタイトルと内容 しばらく前から 「タイトルでテーマや結論を簡潔に述べ、本文での描写を通じてテーマについて掘り下げたり、 結論の説得力を増す事柄を描いたりする」という傾向が強まって…
[一言] 更新乙です。 >パ大統領 そんなに急いでどこ行くの~? まあ、まとまった金あるならドバイあたりで悠々自適の隠遁生活…も可能かなぁ? >中国空軍幹部 (政治的駆け引き面では)ただのカカシで…
[一言] 更新お疲れ様です。 中パのごたごた・・・・ パキスタンは殴ってしまったこぶしの置き場所をリセットの為がだ、中のは天に唾する阿呆の末路(^^;; 曲がりなりにも最高権力者を恫喝したばかりに(…
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