1隻辺りの戦力が大きいのも考え物
新世界暦1年12月15日 ラストール・人民統制委員会の間の海域 人民統制委員会海軍 飛行戦艦「大団結」
「目標に命中したようです」
「やっとですか。遅いですよ」
艦委員長と革命管理委員がいつものやりとりをしているが、彼らは砲弾が迎撃されていたことに気付いていない。
発砲後に自身の発砲煙で見えていなかったのである。
「しかし、撃ち降ろす形になりますし、従来の戦艦より高い命中率を期待できます」
「まぁ、その通りですかね・・・」
初弾から近弾だったのだから、彼らからすればかつてない精度である。
「主砲も限定旋回にしたことで装填速度が飛躍的に高まっています」
「・・・私が言うのもなんだが、あの配置は大丈夫なのか?」
自信満々の艦委員長に対し、革命管理委員が突っ込みを入れる。
「・・・仕方ないじゃないですか」
艦委員長は目を逸らす。
鹵獲された大型飛行艇はその艦首にあたる部分に無理やり戦艦用の40センチ砲を12門ねじ込まれていた。
基本的には4連装3基の扱いなので、かなりのフロントヘビーになったはずなのだが、特に問題なく飛行している。
そして、艦委員長と革命管理委員が懸念している問題は、通常の戦艦なら船体内の分厚い装甲に囲まれたな中にある弾薬庫が、主砲のすぐ後ろに鎮座していることである。
まぁ、おかげで装填が早くなったことはたしかなので、デメリットだけでもないのだが、どう考えても危険ではある。
「まぁ、例の障壁もあるし、そうそう被弾はすまい」
「これを量産できればいいのですが・・・」
あくまでも鹵獲品なのでサイズが不揃いの3隻しかない、というのがネックである。
「そうだ。本国に報告しませんと」
「そうだな。艦隊管理委員会に打電。我、遭遇したラストールの巡洋艦を撃沈せり。運用試験の結果は上々。即時の実戦投入に支障なし」
彼らは碌に確認することなく、こんなところにいるのはラストール以外ないだろう、という理由で攻撃したのである。
前回の艦隊全滅は、その情報が一切本国に伝わらなかったので、単純にラストールにやられたということになっているせいでもあるが。
「これがあればラストールの王都も火の海にできます」
「ああ、世界革命にまた一歩近付いたぞ!」
革命管理委員はその言葉とともに、人民統制委員会謹製の軍歌を歌い始めた。
血と屍の山を越えて世界革命を成就させるとそんな感じの奴である。
艦橋要員はそれに続いて歌い始め、やがてそれは伝声管を通じて艦内全体に広がる。
若干のめんどくせぇ、バカらしい、そうなったら世界の終わりだ、とかいう思いを含みながら、勇ましい軍歌の旋律が艦内を満たしきったころ。
障壁、船体を問わず、いくつもの爆発が発生した。
新世界暦1年12月15日 ラストール・人民統制委員会の間の海域 アメリカ海軍 第50任務部隊 駆逐艦「ポーター」
「弾庫が空になるまで撃ちまくれ!」
前後のVLSから次々にスタンダードSAMが発射されるポーターの現状は、まさにミサイルカーニバルといった趣である。
「SM-2、SM-6、残弾無!」
前部29セル、後部61セルの90セルのVLSを持つアーレイ・バークフライトIIのポーターだが、勿論その全てが艦隊防空用のスタンダードSAMというわけではない。
個艦防御用のESSMや対潜攻撃用のVLA、対地攻撃用のトマホークSLCMなども積んでいるし、そもそもミサイルもメンテが必要なので、常に満載しているわけではないからである。
「敵は!?」
「まだ浮いてます!」
「トマホークをぶち当てられるか!?」
「無茶言わんでください!」
まぁ、大型の対空ミサイルを大量に喰らった大型飛行艇もわりと無事ではないのだが、レーダー画面上では浮いているかどうかしかわからない。
「あ、まだミサイルあるじゃん。BMD発動!SM-3、攻撃始め!」
「うわぁ、後で怒られても知らねぇぞ・・・」
大気圏外での弾道ミサイル迎撃を目的に開発されたSM-3のその価格は通常のミサイルと比較しても破格であり、本格的な配備型であるRIM-161Dでは1発20億円を超える超高級品である。
基本的には「敵の核攻撃を防げるなら安い」という考えの兵器なので、それ以外の用途に使うのはどう考えても無駄遣いだが、味方艦を沈められて、その敵を逃がした、というほうがまずいという艦長の判断である。・・・決してアドレナリンがドバっとバッファしたわけではない。
発射されたSM-3は、弾道ミサイルを破砕することを目的にしたキネティック弾頭を超高速で叩き込み、分厚い装甲と遮蔽壁に囲まれた魔導炉を破壊し、海中へと叩き落とした。
その後、この海域は放射能汚染によって封鎖されることになるのだった。
新世界暦1年12月15日 ラストール・人民統制委員会の間の海域 人民統制委員会海軍 戦艦「突撃精神」
「革命管理委員、飛行戦艦大団結が呼びかけに応答しません」
大団結が報告してきたラストール巡洋艦1隻撃沈に沸いていた艦橋に、通信委員が水を差す。
「は?先ほど報告を送ってきただろう」
その後、艦隊に合流するよう命令を出し、艦隊司令部はお祭りムードになっていたのである。
「しかし、その後の応答がありません」
「通信機のトラブルかもしれん。連絡機を出せ」
「ついでだし、周囲を索敵してみては?」
他にもラストールの軍艦がいるかもしれない、と誰ともなく提案の声があがる。
こういうわちゃわちゃして誰が言ったかわからないように提案するのは、彼らの処世術である。
誰が言ったかわからないようにすることで、後から責任を問われないようにする、というこの国で生きるためには必須のテクニックなのだ。
なので、作戦会議などでは意図的にそういう状況が作り出されたりもする。
結果的に、無責任な発言や作戦が横行することになるので、もちろん誉められたものではない。
「周辺の索敵を行う。偵察機を出せ!」
艦隊委員長の指示で、水上艦である突撃精神と攻撃精神から偵察機(水上機ではない)が射出される。
飛行戦艦と名付けられた鹵獲大型飛行艇は、その上面から普通に陸上機を発進させる。
「ラストールに目にモノ見せてくれるわ!」
艦隊委員長はそう言ってまだ見ぬ敵を見据えるのだった。
新世界暦1年12月15日 ラストール・人民統制委員会の間の海域 アメリカ海軍 第50任務部隊 空母「ジョン・C・ステニス」
「駆逐艦ニッツェ、動力・・・喪失・・・、火災停止、なれど浸水・・・止まりません」
絞りだすように通信員が報告を読み上げる。
「総員離艦は出ているのか?」
「浸水停止の目途はついているとのことです」
「いや、浸水止まっても動けないんだろ?」
え、どこまで曳航すればいいの?という顔を全員がする。
「というか、浸水止まっても曳航できるような状態なのか?」
「いずれにしてもポーターに行かせましょう。離艦するにしても曳航するにしてもあれが適任でしょう」
VLSほぼ空ですし、とぼそっと艦長が呟く。
「あ、うん。そうだね。あいつ帰ったら覚えてろよ」
そしてSM-3まで使ったポーター艦長に対し昏い笑みを浮かべる艦隊司令。
「とりあえず他にいないか索敵を強化しませんと」
「E-2Dの発進準備は?」
「もう間もなく」
はあ、と司令はため息を吐く。
「搭載機がフルなら良かったのだが・・・」
「まぁ、ないものはしょうがないでしょう」
格納庫自体はフルに詰まっているが、使える機体は半分も無い。
ラストールに引き渡す第一陣としてモスボールされていたF/A-18A/Bを18機と予備部品を積んでいるためである。
結果的に運用できる機体はE-2Dが2機に、F/A-18Eが12機、F/A-18Fが20機という艦の大きさには不釣り合いな運用機数である。
「他にもいるなら対空装備では火力不足だな」
「対艦、対地兵装に換装させます」
艦内は完全に戦闘態勢に入り、飛行甲板では様々な色のベストを着た乗員が忙しく走り回っているが、艦のレーダーが飛行目標をとらえたのはそんな時だった。
空母には自身の搭載機に対する航空管制能力も求められるので、その搭載するレーダーは割と高性能であることが多い。
実際、ニミッツ級航空母艦が搭載する対空レーダーシステムは、イージスシステム登場以前の艦隊防空艦と同等のものである。
「目標、速度と高度から小型のレシプロ機と思われます!」
「発進済みのF/A-18Eを向かわせて確認しろ!」
なお、ニミッツ級航空母艦自身の防空能力もESSM、RAM、ファランクスの三段構えなので、下手するとそこいらの汎用艦より能力は高い。
とはいえ、基本的には搭載機と護衛艦による多重の防空網で、直接交戦なんていうのはほぼ考慮されていない。まして、レシプロの小型機など、レーダーの探知圏内に入る前に護衛艦か警戒機によって発見されて追い払われているはずのものである。
「くそ!対空戦闘の準備もさせろ!」
ニッツェは戦闘能力を喪失しており、ポーターは対空ミサイルは個艦防御用のESSMしか残っていない状態であり、もはや空母は丸裸である。
一応、護衛艦でもう1隻フリーダム級LCSがいるにはいるが、対艦戦闘ならともかく、対空戦闘では役に立たないというか、下手すると足手まといである。
「とにかく今は逃げ切ればいい!最大戦速!」
アメリカ海軍の、というかアメリカの象徴である空母は、それ故に傷つけられることすら許されないのである。
「しかし、例の大型飛行艇なら向こうの方が足は速いですよ」
「見つからなきゃいいんだよ。攻撃隊の発艦を急がせろ」
米海軍の空母が逃げないといけない、なんて中国やロシアが知ったら面白おかしく広めまくるに違いないが、意地を張って損傷、果ては撃沈、なんてことになればことはそれだけでは済まなくなる。
元々空母のローテーションはカツカツだったうえに、世界が広がったせいで1隻の抜けも許されない状況なのである。
「とにかくここは振り切って、何事も無かったようにラストールに入るしかないだろ」
「我々が引っ張て行く形になりませんか?」
「その時はその時考えよう」
LJDAMやSLAM-ERを抱いて発艦していくF/A-18Fを尻目に、ジョン・C・ステニスは全速で敵が来ると思われる方向と反対に向かっていくのだった。
新世界暦1年12月15日 ラストール王国 王都第二軍港
「楽しみですねぇ、お父様」
「うむ、以前の空母よりさらに倍の排水量の空母とか、楽しみで仕方がない」
そわそわと言う言葉はこいつらのためにあるといった感じで、アメリカ海軍の空母の到着を待つ親子。
子供みたいにはしゃいでいる本人たちの名誉のために誰とは言わないが、この国で一番偉い人とその娘である。
ちなみに、第二軍港は海軍工廠の他にも、港湾工業地帯とも隣接しているので、警備担当者からすればさっさと帰ってくれという感じなのだが、本人たちはお構いなしである。
もっとも、人民統制委員会の艦隊侵攻の報で、見学どころではなくなるのだが、それはもう少し後のお話。
次は土曜日か日曜日




