戦争は当事者だと儲からない
新世界暦1年12月10日 アメリカ合衆国ニューヨーク 国際連合本部近傍ホテル
「クソが!面倒なことしやがって」
悪態をつきながらアメリカ国連大使は急遽借り上げた会議室に急いでいる。
「すまん、遅れた」
約束の時間を10分ほど遅れて会議室に入る。
「まぁ、仕方ないだろ。みんな来てても電話してたり、タブレット見てたりで始められそうにないしな」
やれやれ、と言った感じでちょうど電話が終わった日本国連大使が応える。
室内には、APTO加盟国の国連大使が集まっていた。
「緊急理事会まで時間が無い。APTOとしての統一見解は」
「「「「「関わりたくない」」」」」
「ですよねー」
(パキスタンが言うには)インドの先制攻撃で戦闘機が撃墜され、それの報復でパキスタンが越境攻撃。
中国軍機も撃墜されており、今のところ態度をはっきりさせてはいないものの、中国全土に戒厳令が出されているのは確認されていた。
印パ、下手すれば中露も絡んでくる可能性がある紛争なんて誰が首を突っ込みたいと思うのか、と言う話である。
とはいえ、核保有国4ヶ国の紛争なんて悪夢以外の何物でもないので、さっさと止めろというのが各国の総意である。
「しかし、ほんとにインドが仕掛けたのか?」
「まぁ、十中八九パキスタンの自演だな」
めんどくせぇ、といった感じでイギリス国連大使が言う。
「だろうな」
新たな領土を大量に手に入れているインドがわざわざ面倒なところに仕掛ける理由が無い。
「しかし、脊髄反射でやらかしそうな人民解放軍が沈黙してるのは不気味だな」
「北京がかなり強硬に抑え込んでるみたいだな。とはいえ、数日中にパキスタンの自演と北京が人民解放軍を説得できなければ」
「話がさらにややこしくなるな」
加盟国間でとりあえず簡単な意見交換だけ行い、安全保障理事会出席や傍聴のため各国大使は国連本部に向かったのだった。
新世界暦1年12月10日 中華人民共和国北京 中南海
「クソが!舐めたことしてくれたな」
国家主席は報告書に目を通しながら悪態を吐く。
「しかし、状況証拠だけで確証がありません」
国家安全部長が溜息を吐く。
「現場を飛行していたわが軍のKJ-500のログも確認しましたが、撃墜当時、空域を飛行していたのは我が国のものを除けばパキスタンのみで、インド軍機の飛行は確認されていません」
「撃墜された戦闘機のログは」
「撃墜現場はパキスタンです。すでに証拠は消されているでしょうし、仮にミッションコンピューターを回収できても戦闘機のレーダー警戒装置では探知方位や時間はともかく、細かな周波数や照射パターンまでは記録されていないかと」
忌々し気に国家主席は報告書を投げ出す。
「連中が攻撃に使用した手段は何だ?」
「不明ですね。確証はありませんが、目撃される可能性を考慮するならインド空軍のMirage2000に似せたMirageIIIあたりでしょうか」
「MirageIII?そんな旧式機でか?」
「それ以外だと我が国が輸出したJF-17を使用した、という不愉快な説と、連中がアメリカから買ったF-16を使用したか、といったところですか」
国家安全部長のどっちがいいです?という問いかけに、国家主席は不愉快そうに鼻を鳴らす。
「パキスタンのMirageIIIは改修でBVRミサイルに対応していますから、おそらく視界外からの攻撃だとは思います。ネットには中国軍機を撃墜するためにミサイルを発射するインド軍機、なんて不鮮明な映像がでてます」
スマホを操作し、動画を出しながら国家安全部長は続ける。
「これが本物にせよ、関係ないにせよ、無尾翼デルタの機体がミサイルを発射していることだけは確認できます」
そんなのはどうでもいい、と国家主席は手を振る。
「人民解放軍と世論のバカどもは壊れたレコーダーのように報復を叫び続けとる。パキスタンがやったという確実な証拠があればインドと共同で舐めたことをしたパキスタンを叩き潰せば済む」
「それが出来なければインドとロシアを相手に全面戦争ですか」
ぞっとしますな、と他人事のように国家安全部長は言う。
「しかし、ここでパキスタンを叩くと重要な販路の喪失と」
「後に残るのは印露に挟まれた我が国だろ。わかっとるよそんなこと。だが、ここまで舐めたことをされてパキスタンの思惑に乗ってやる必要があるか?」
「それはそうですが、それを納得させる確証が欠けています」
国家主席は苦渋の表情を浮かべ最後に言った。
「どうにかして証拠を押さえろ。3日だ。3日は人民解放軍を抑える。だが、それを超えれば」
「わかりました」
国家安全部長は急いで退室し、庁舎に戻っていった。
新世界暦1年12月10日 ロシア連邦モスクワ クレムリン
「中国はすぐやり返すかと思ったが」
「別に連中は傍若無人というだけで、バカではないでしょう。実際、パキスタンの自演を疑っているようですね」
大統領は印パの戦況図を見ながらSVR長官と話している。
「で、実際どうなんだ?」
「インドから仕掛けた、とは考えにくいですね。実際、インド軍も中パの合同演習に合わせて警戒態勢はとっていましたが、それだけで特異な動きはありませんでした」
ふーん、と大統領は興味なさげに言う。
「まぁ、普通に考えたら新しく得た領土があるんだから、そっちが落ち着くまで余計なことはせんわな」
「状況証拠的にはパキスタンの自演です。ですが」
「証拠はない」
やれやれ、と大統領は溜息を吐く。
「いずれにせよ、中国に対する警戒レベルはさらに一段上げておく必要があるな」
「・・・あの、これ以上上げると先制攻撃くらいしかないんですけど」
「・・・現状維持で」
新大陸の緊張は今も継続しているのだから当たり前である。
ロシアとしては中国がどっちに転んでも最終敵対することは変わりないので、パキスタンの自演だろうがどうでもいいのだった。
新世界暦1年12月10日 アメリカ合衆国ワシントンD.C. ホワイトハウス
「大統領、間もなく安保理の緊急会合が始まります」
補佐官が執務室にいる大統領に声をかける。
「ああ、後で行く。先に見ててくれ」
大統領は補佐官が出て行くのを確認して、CIA長官に扉を閉めるよう促す。
「それで、パキスタンの自演なのは確実なのか?」
「間違いありません。こちらをご覧ください」
そう言ってタブレットに映像を表示する。
そこにはパキスタンの地図が表示されており、複数のアイコンが表示され、それぞれに高度と速度もくっついている。
「パキスタンが保有する全てのF-16の位置と飛行状況のログです」
「えぇ・・・」
そんなもん全部把握してんのかよ、と大統領はドン引きだが、もちろんパキスタンだけの特例である。
「稼働機全てが中国機が撃墜される直前に離陸、中国機が撃墜され大統領が報復を命令すると同時に国境を越えてインド軍前線を攻撃しています」
「もうちょっと隠す努力しないのか・・・」
「それより、これに関して、我が国としても強い措置を取る必要があります」
隠す気も無い用意周到な奇襲攻撃に、大統領は呆れているが、国務長官が呆れている場合ではないと進言する。
「強い措置?なんで?」
いくらF-16がアメリカ製だと言っても、それを買った国がどう使おうと、基本的にアメリカの害にならなければ無視するか、世論向けのポーズで制裁するくらいである。
「パキスタンに販売したF-16は対テロ作戦に限定して使用が認められており、インドに対して使用することは禁止されています」
「えぇ・・・」
実際、それを確認するためにパキスタンのF-16の動きはモニターされているのである。
情報漏洩を懸念しパキスタンに極秘で行われたビン・ラディン暗殺作戦においても、異変に気付いたパキスタン空軍がF-16を発進させようとした段階でアメリカが警告して発進を取りやめさせていたと言われている。
「パキスタンに対する軍事支援、及び武器関連輸出の即時中止。これくらいは当然ですね」
ちなみに、そんなことを言いながらインドには普通にF-16Vを売り込んでいるのでかなりのド畜生である。
「必要ならパキスタンのすべてのF-16稼働機を使用不能にすることも可能ですが」
横から空軍参謀長が口をはさむ。
「え?そんなこと出来るの?」
「バーレーンにいるEC-130を使えば電源の入っているF-16ならパキスタン領空に入ることなく全て無力化できます」
「何それ怖い。衛星から出来ないの?」
「さすがに以前ならともかく・・・」
「地球なら出来たのか・・・」
パキスタンがF-16をインドとの紛争に使ったことへの制裁措置と、それを記者会見で発表することを決め、安保理の様子を見るためにテレビのある部屋に移動したのだった。
次は水曜日




