開戦理由の自演は割とよくある
土曜日って言ってたけど考えてみたら明日時間ないので前倒し
異世界歴1年12月8日 イスラエル ハツェリム空軍基地
並行誘導路から滑走路に向かうため、甲高いF110エンジンの回転音を響かせて一列に並ぶF-16I。
F-16という名前がついてはいるものの、アズガルドが買おうとしている初期型から見れば、性能も値段も、もはや別物と言っていい代物になっている攻撃機である。
機体の背面にあたる部分には、視覚的に従来のF-16と差別化しているコンフォーマルフューエルタンクとドーサルスパイン。
そして、胴体下と両翼には増槽をぶら下げている。
それだけならどこかに演習のために移動するのかと思うところだが、エアインテーク横にはターゲティングポッドが装着されたままだし、増槽の外側には見慣れた2000ポンド爆弾と短AAMが装着されている。
完全なディープストライク仕様のF-16Iである。
次々と離陸していくF-16Iは、あえて搭載量を減らしている燃料を補充するため空中給油機との会合空域を目指していった。
異世界歴1年12月9日 パキスタン ムシャフ空軍基地
「少将、イスラエルが戦時体制という情報が入っていますが、本当にやるのですか?」
編隊長である中佐は念押しで確認する。
「中佐、その話は私も聞いているがイスラエルに何ができる?」
実際、間にはヨルダンやシリア、さらにイラクもイランもあるのである。
イスラエルが多少暴れたところで、問題になどならない。はずである。
「それはそうですが・・・」
中佐が心配しているのはそんなことではない。
アラブ諸国の目が完全にイスラエルの方に向いていて、パキスタンを誰も見ていないのである。
インドに対するイスラエルの援護射撃なわけだが、パキスタンでそのことを気にしている人間が驚くほど少ないことを中佐は懸念していた。
「何を心配しているのか知らんが、君は作戦を成功させることだけ考えていればいいのだ」
そう言って少将は話を打ち切った。
去っていく少将を見送りながら、中佐は基地の駐機場を見遣る。
そこには八一と書かれた赤い星の描かれたJ-10BとJ-10Cが並んで駐機されている。
インド国境まで200キロもないこんな基地が合同演習の会場の1つになっている時点で異常だが、転移後の利権獲得競争で完全にインドに負けたパキスタンの、特に政府首脳部の懸念は深刻である。
もともと国力で負けているのに、その差がさらに広がりかねないのである。
これまでの紛争も、辛うじて同じイスラム諸国からの(消極的であれ)支援があったからどうにか(基本的に押されていたが)戦えていたのである。
そのイスラム諸国も世界の転移によって新たに見つかった油田のせいで、国際的な影響力は低下の一途、どころか財政危機まである状況で、自分たちのことでいっぱいいっぱいで、かつイスラエルがガチガチの戦時体制では誰もパキスタンを見ていない。
「この状況でのこの作戦は、世界を動かす1発になりかねないとなぜ誰も気づかないのだ・・・」
演習のため離陸していく人民解放軍空軍のJ-10Bを見送りながら、中佐は誰にも聞こえぬよう小さく呟くのだった。
異世界歴1年12月9日 パキスタン グジュラーンワーラ近郊上空
《レフトターン、5、4、3、2、ナウ》
広報用の写真を撮るために人民解放軍空軍の2機のJ-10Bとパキスタン空軍の2機のJF-17、人民解放軍空軍の2機のJ-16とパキスタン空軍の2機のF-16Cが様々な陣形で編隊飛行を行っていた。
とはいえ、こんなにインド国境に近い場所で合同演習を行うことについて、中国の外交部は懸念を示していたものの、人民解放軍がインドに配慮しての演習地域変更は不適切、と反発し、パキスタンが指定した通りの空域で行われていた。
《ブレイク、ナウ》
淡々と事前に決められている演目をこなし、最終編隊飛行を解除し、国ごとに分かれた後、模擬戦に移る予定になっていた。
《なんだ?》
《レーダー警報?まだ演習空域に入ってないぞ?》
《フライングして勝ち拾おうとしてるんじゃねぇのか?》
パキスタン空軍の編隊と別れ、人民解放軍空軍の4機が再度編隊を組もうとしているところで、それぞれのコクピットに大音量の警告が鳴り響く。
《どうした?何かあったか?》
空域管制を行っているKJ-500が編隊内の通信で異常に気付いて割り込んでくる。
《レーダー警報が鳴っている。ロックオンを受けているようだ》
《方角は86。・・・インドのほうだけど、まさかな?》
なんやかんやとやり取りは続くが、警報は鳴り続けているが、KJ-500がロックオンされたならともかく、戦闘機が搭載するレーダー警報装置ではロックオンされたこととその方角しかわからない。
《演習空域への到着が遅れているが何かあったのか》
今度はパキスタン側の管制も空域への到着が遅れているのに気づいて割り込んでくる。
結局のところ、ここで取れる手段は2つ。
1つはレーダー照射を受けている方向に飛行し、相手を確認すること。ただし、この場合は5分ほどでインドに入ってしまうので選択肢に入らない。
となれば、もう1つ。
《一端、退避する》
そう言って西の方に編隊は退避しようとする。
《ミサイル警報!》
《退避!》
が、レーダー警報よりもさらに大音量の警報が鳴り響き、編隊は散開して回避行動をとる。
しかし、チャフ・フレアが散布されECMが開始されるのと、それもむなしく編隊が次々に爆散するのは同時だった。
異世界歴1年12月9日 パキスタン・インド境界線 カラコルム山脈
『インド軍の越境攻撃により、合同演習中だった我が国の戦闘機と中国の戦闘機が撃墜された!』
パキスタン軍の駐屯地で拡声器から響き渡った放送に、動揺とざわめきが広がる。
『この蛮行に対し、大統領はインドに対し、断固たる鉄拳を振り下ろすことを我々に命令した!』
その言葉とともに、全員がそれぞれの部署に向けて走り出す。
インドとの間で普段は「時報」をやり取りしているだけの、旧式の105mm榴弾砲が次々に射撃準備を始める。
最高峰が8000mを超えるこのあたりでは、機甲部隊の機動は困難であり、山岳部に貼りつくように造られた基地に配備できる装備は限定されている。
『砲撃開始!』
号令と共に、”普段は当てないように”調整されている照準を修正した榴弾砲が一斉に発射され、奇襲を受けた対峙するインド軍駐屯地は甚大な被害を被ることになった。
異世界歴1年12月9日 パキスタン ラーワルピンディー GHQ
パキスタン陸軍の総司令部であるGHQは慌ただしく人が出入りするとともに、周囲には物々しく、中国製のSAMであるHQ-7や14.5mm対空機関砲ZPU-2の中国コピーである58式などが展開しており、完全に戦時体制である。
「脆いな」
戦況を見ながら陸軍大将はぽつりと漏らした。
「ええ、現在のところ機甲部隊はあっさり国境線を突破したようです」
険しいカラコルム山脈は大部隊の移動には向かないので、徒歩行軍とヘリコプターの部隊で陣取り合戦するしかないが、それ以外の国境線は機甲部隊が行動可能であり、大統領の命令とともに一斉にインドに雪崩れ込んでいた。
「とにかく、今日一日でどこまで進めるかが勝負だ」
「そして膠着させ、安保理に持ち込む。本当にうまくいくのでしょうか?」
皆のやや不安な想いも含みつつ、世界を巻き込みかねない紛争を彼らは進めるのだった。
次、次かぁ・・・日曜日、ムリなら水曜日




