移民に求められる役割は調整弁
異世界歴1年11月18日 タスマン共和国 中央平原
神聖タスマン教国を名乗っていた国があった広大な土地は、そのままタスマン共和国という名称の国家が引き継いでいた。
言うまでも無く、アメリカの傀儡国家であり、政府首脳は例外なくアメリカの何かしらの機関の息がかかった人物である。
そして、数か月前まで何もなかった場所に、大規模な即席の街が出来上がっていた。
一応、ここを新政府の首都とすることになっていたが、現状ではただの駐留米軍基地である。
元々何もなかった場所を首都と定めたのは、従来あった都市インフラは全て米軍の核攻撃で吹き飛んだので、瓦礫の処理とか除染とか考えたら、そんな面倒なことするくらいなら別の場所に造ろうぜ!という実にアメリカ的な考え方である。
広大な土地があったからこそできる方法ではあるが、そもそも住民は集まるのか?というのが一番の問題だった。
アメリカ国内での戦いと掃討作戦によって、少なくない数の捕虜をとっていたが、国家を道具にして好き放題していた幹部連中はともかく、あの国が掲げたお題目を心底信じ込まされている下っ端と一部の幹部が問題だった。
正直、再教育も手間と時間がかかるので持て余しているのが現状である。
「ハコが出来ても入れるモノが無いではなぁ」
人の気配が無いタスマン共和国政府庁舎(予定)を見ながら、駐留米軍司令官の中将は溜息をついた。
今のところタスマン共和国で機能しているのは、政府幹部たちが集う大統領公邸のみである。
「いったいいつまでこの規模の兵力を駐留させることになるのやら」
今現在、タスマン共和国駐留米軍は総兵力18万人を数える状態である。
元々神聖タスマン教国の国民は、国家による国民の管理を徹底するため、その居住区は例外なく都市部に集められていたので、米軍の核攻撃でそのほとんどが死亡していた。
反抗的なゲリラによる攻撃が無い、という意味では助かっていたが、逆に言えば国民がほとんどいないということで、インフラ復旧も全て米軍がやらねばならないのである。
「メキシコ湾に面した港湾は未だに仮設桟橋だが、そこまでの道はどうにかなった。というか、道も碌にないとか、どんな国だったんだよ」
神聖タスマン教国は、物流の全てを多脚歩行機械に頼っていたので、道は森を切り開いたり、山に切り通しを設けたりはしていたものの、自動車で走るのは困難な道がほとんどである。
土地だけは余っているので、空港の整備も進んではいるが、今のところ駐留米軍以外誰もいない土地なので、米軍の定期便以外に需要は全くない。
「しかし、各地に都市っぽいものやら道やら空港やら造ってはいるが、誰もいないのに連邦政府は何を考えてるんだ?」
工兵ばかりやたらと多い駐留米軍司令官は首を傾げるのだった。
異世界歴1年11月23日 アメリカ合衆国ワシントンD.C. ホワイトハウス
「タスマン共和国のインフラ整備は順調なようだな」
「現地の米軍はこんなインフラを整備しても使う人間がいないと不思議がっているようですが」
タスマン共和国の全体図とインフラ整備状況の報告をディスプレイでみながら大統領と国務長官が話していた。
「ははは、だろうな。だがいるじゃないか。我が国内に大量に」
「捕虜ですか?しかし、そのまま使えそうなのは幹部連中のせいぜい数千と聞いていますが」
国務長官は国を再建する国民としては少なすぎる捕虜の数に懸念を示す。
「何を言っている?いるじゃないか。戦争が終わったのに我が国に居座って無駄飯を食っている連中が」
「中米諸国の避難民を送り込むんですか!?」
「自分たちの国に帰国したくないというのなら、違う国に送ってやればいい。実に人道的な配慮じゃないかね?」
ははは、と大統領は笑う。
「しかし、それは・・・」
帰国を拒んでいる避難民はアメリカへの移民を望んでいるのである。
それを国外に送り出すというだから、リベラル系の世論が何を言うか、など考えるまでもないことである。
「では、あの数の避難民を受け入れるかね?英語も碌に話せない人間が大勢いる集団をこれ以上受け入れる、と?」
「それはそうですが・・・」
もともと終戦後は帰国するという条件で受け入れた避難民だが、各国の惨状が伝わるにつれ、帰国を拒む人間が大勢現れた。
まぁ、中にはどさくさ紛れにアメリカに移住してやろうと考えていたのも大勢いたのは事実だが、戦闘でぐちゃぐちゃになったところに帰るくらいならアメリカに移住したいと思うのは人情だろう。
ちなみに、中米諸国で一番被害が小さかったのは一番タスマンに近く、ほぼ無抵抗で最初に陥落したパナマだったりするのは皮肉である。
「特需で経済も上向きだ。せっかく下がった失業率をまたぞろ上げるようなことをする必要はあるまい?それに人が必要な場所があるんだ。元の場所に帰りたくないなら、そこに送り込んでやればいい」
帰国したら政治的迫害を受ける、という言い訳も使えないしな、と大統領は付け足す。
転移後、戦時体制になってズタボロだった経済だが、ここにきて上向く要因がでてきたことで、にわかに活況を呈していた。
米陸軍再建もそうだが、アズガルドとラストール、という都合のいい製品輸出先が出来たのである。
アズガルドに関しては日本が享受するほどの大型契約祭りにはなっていないが、ラストールについては日本がアズガルド案件で逼迫していたり、地理的にアメリカのほうが近いこともあり、かなりの特需が発生していた。
「国内で不安要素を抱え込むくらいなら、タスマン共和国に送るほうが我が国のためだろう?」
「確かに、それなりに天然資源はあるようですし、商品消費国としてある程度の人口を抱えてもらう方が美味しいのは確かですか」
アメリカじゃないけどアメリカの好きにできる場所、というのはアメリカにとっても重要である。
例えばグアンタナモなどが典型例で、アメリカではダメなことをアメリカじゃないことを理由にやるわけである。
「ま、リベラル連中はともかく、大方の世論は避難民を移民として受け入れることには反対だ。あとはこのデータをうまいことリークさせられれば完璧だがな」
そう言った大統領の手元には、避難民の収容施設から脱走した人間たちが起こした犯罪の詳細や、犯罪率のデータが開かれていた。
「一部保守的な保安官事務所などから個々の犯罪については保守系メディアに流れているようですね」
そのデータを見ながら国務長官は言う。
「ま、凶悪犯罪ならこちらがどうこうしなくても勝手にマスコミに流れるからな」
「しかし、これ捏造じゃないんですよね?すごい犯罪率ですね」
呆れたように国務長官は言うが、収容施設から脱走した人間は、終戦後からは逮捕即送還と決まっているので、まともな職にはつけず、そうなれば犯罪率が上昇するのは当たり前の話だということが抜け落ちている。
ついでにいうと、収容所の設置場所が周囲に何もないネバダの砂漠だったり、大平原のど真ん中だったりと、脱走そのものが著しく困難なので、脱走者の母数自体が少ないことも犯罪率の上昇に拍車をかけているが、さらに脱走グループが途中で倒れた仲間を見捨てていったのを「死体遺棄」、牧場や農場を横切ったのを「不法侵入」や果ては「強盗未遂」にカウントしていたりするのも数字を跳ね上げている。
集計の仕方に悪意はあっても、数字そのものは捏造ではない、という実に世論操作向きの資料に仕上がっているのである。
「住む場所も交通インフラも造ってやったんだ。せいぜい合衆国のために、新しい国を造るのに働いてもらわんとな」
「とはいえ、中米諸国も国民がいなくなれば困るでしょう」
「まぁ、その通りだが、特にメキシコはどのみち今の人口は支えられまい?別に全部をタスマンに送り込まねばならんわけでもなし、フロンティアを求めてアメリカから行くやつも多少はいるだろうし、どこかで釣り合いはとれるだろ」
中露が互いに一触即発の状況にある間はいいが、いずれタスマン方面にも手を伸ばしてくる恐れがあるので、早いうちにアメリカの領域として整備してしまう必要があるのである。
「とはいえ、バハ・カリフォルニア半島沖の島だって結構大きいんですよ?」
「あー、そういえばあの島の名前どうしようか」
忘れてたと言わんばかりに大統領は言う。
「適当に今回の戦役の英雄からつけますか?」
「うーん、それもなぁ。歴代大統領か過去の英雄や将軍の方が良くない?」
結局、島の名前は決まらず、先送りされるのだった。
異世界歴1年11月23日 アメリカ・ラストール中間海域 アメリカ海軍第2空母打撃群
ラストールに向かう大規模な艦隊が1つ。
売り込みのためにラストールに向かうアメリカの空母打撃群である。
通常の原子力空母1、ミサイル巡洋艦1、ミサイル駆逐艦4、補給艦1に加えて、強襲揚陸艦1、民間の自動車運搬船1とコンテナ船1、クルーズ船1が混じっている。
ラストールはアズガルドに引っ張られて主力戦闘機は日本のF-1C採用を決めたのであまりおいしくなさそうに見えて、海軍機の中古を売り込むという道や支援機その他諸々があるのである。
船舶も日英が押さえたものの、陸上装備はまだ手付かずなのでアメリカが張り切った結果が自動車運搬船とコンテナ船である。
ちなみに、コンテナ船は民生品も運んでいるので、その売り込みに行く民間企業の人間を運ぶのと、レセプション会場も兼ねてのクルーズ船である。
日英が取りこぼしている部分を根こそぎ持っていこうという貪欲さを持って、艦隊はラストールを目指すのだった。
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