分かりきった結末
異世界歴1年11月22日 アズガルド神聖帝国ドラスト大陸領 セントール大演習場野砲射撃対象地域
本来なら榴弾砲の射撃訓練の標的にされている丘の上に、英軍の対砲迫レーダーであるARTHURが陣取っていた。
周辺で一番高い丘なのでここが設営場所に選ばれたが、まだ演習場として整備されたばかりで曲射砲の演習は行われておらず、不発弾の心配もないのが選ばれた理由である。
ストーマーHVMもいるものの、携SAMに毛が生えたようなものなので、あくまでもARTHURの自衛用である。
「低空侵入目標探知、って言われてもなぁ」
対砲迫レーダーであるARTHURにとっては本来の使い方ではない。
理想を言うなら、陸自のP9やP18があれば完璧なのだが、持ってきていないものは仕方がない。
P14は中高度より上を飛行する遠距離目標の探知に重点を置いているので、低空侵入目標の探知は苦手である。
そこで暇をしているARTHURにお鉢が回ってきたのだが
「無茶じゃね?」
というのが全員の共通認識である。
とはいえ、日が昇るまで目視よりはマシであろう、ということでこの配置になった。
『高高度目標、全ての消失を確認』
航空基地からの通信に部隊に安堵が広がる。
とりあえず帰ったらベッドが吹き飛んでいる、ということは無くなったからである。
「反応はあるか?」
「ありませんが・・・如何せん索敵方向が限定的ですし、用途が違いますからね・・・」
対砲迫レーダーがなんで展示されていたのか、という話だが、単純にアズガルドが欲しがったからである。
北海道において、陸軍の野砲部隊が一瞬で陣地を特定されて陸自の反撃を喰らって全滅したのだから、当たり前と言えば当たり前である。
ちなみに、レーダー自体はスウェーデン企業のものであり、英国企業が噛んでいるのは移動車体のほうなので、移動車体を変えてしまえば英国企業が一切噛まない製品になってしまうのだが、アズガルドでの販売代理店は英国企業でないといけないので、それなりの旨味があるのである。
「直に日の出ですし、目視で警戒したほうがいいんじゃないですか」
「とはいえ、低い雲もあるしなぁ」
「どのみち上は日本のレーダーが見てるでしょう」
「まぁ、せっかくあるんだ。使わない手もないだろう」
「有効性は疑問ですがね」
というか、いつまで警戒配置なんだ?とは皆思ったが誰も口に出さなかった。
異世界歴1年11月22日 アズガルド神聖帝国ドラスト大陸領 セントール空軍基地
基地にはサイレンが鳴り響き、次々にアズガルド空軍機が離陸していく。
「敵機は探知できたか?」
「ダメですね。報告ではかなりの低空飛行のようですし、おそらく探知と聖域侵入は同時ではないでしょうか」
そんな慌ただしい基地を尻目に、基地防空にあたる11式短SAMの射撃統制装置は未だ敵機を捕捉できていなかった。
「しかし、レーダーを展開しとるのに目視で敵機を発見とは、連中は何をしとるんだ?」
「まぁ、対砲迫レーダーですし、仕方ないのでは?」
敵機発見はARTHURと共に展開しているストーマーHVMの乗員が目視で発見したものである。
射程外だったのでストーマーは攻撃しておらず、発見報告のみである。
「アズガルドの邀撃戦闘に期待ですかね」
「期待できるのか?」
離陸していくアズガルドのレシプロ戦闘機を見送りながら、不安そうに言う。
「・・・まぁ、もともと連中の世界でやりあってたんだし、五分の戦いはするんじゃないですか?」
「一応ジェット機もいる・・・か」
両翼に25mmガンポッドをぶら下げて離陸していくT-4を微妙な表情で見遣る。
「アズガルド機に聖域を徹底させろ、IFFが無いんだ、聖域内は管制通りに飛行してもらわないと撃墜しちまうぞ」
とりあえず空域管制にそれを徹底するよう依頼し、自身の仕事に戻る。
「・・・このタイミングで武装ゲリラ襲撃とかの想定を平気でぶっこんでくる訓練に比べるとマシなのか?」
いやらしい想定をガンガンぶっこんでくる訓練に慣れてしまっているせいで、アズガルド陸軍が基地の警備にあたっているというのに、その基地内に展開する短SAMは偽装網を被っていたり、壕に入っていたり、周囲には自動小銃を携えてタコつぼに入った隊員までいる状況である。
完全にいやらしい想定に慣らされすぎて疑心暗鬼になっているので、周囲から、特に近接防空として展開している米陸軍のアベンジャー対空システムの部隊に奇異の目で見られている。
「やはり、防空インフラが整っていない場所に展開するのにP14と短SAMのみ、ってのはいろいろ辛いなぁ」
「中SAMとは言わないですが、せめてP18は欲しかったですね」
無いものはしょうがないが、と一刻も早く探知できるようレーダー画面に意識を集中させたのだった。
新世界歴1年11月23日 ホリアセ共和国プル 国民統一党本部
総裁室からわずかに漏れ聞こえるヒステリー気味なシャウトを尻目に、情報部長は廊下を進んだ。
その口元には隠し切れない残忍な笑みが浮かんでいた。
「あの口煩いだけのヒステリー女も終わりだな」
セントール空軍基地爆撃作戦は、投入された超大型爆撃機40機のうち、エンジン不調で途中で脱落した8機を除いて全機未帰還という結果に終わっていた。
低空侵入部隊の方は多少ましだが、それでも大損害であることに違いは無く、しかもセントール空軍基地はほぼ被害なし、という結果であった。
「とはいえ、急いては事を仕損じる・・・さて、どうしたものか」
情報部長は自室に入り、自らの手駒と総裁の手駒を頭に浮かべながら、権力簒奪の方法を思い描く。
「国民警察と党風紀委員は抑えた。軍の切り崩しには苦労させられたが・・・あの婆の失態のおかげだな」
総裁がアズガルド侵攻に固執して無駄に戦力を投入したせいで甚大な損害を被った軍の不満は高まっており、新たに何人かの将官の取り込みに成功していた。
「党委員会で解任動議を出しても過半数は取れるだろうが・・・また派閥争いに終始しては意味が無いが、かといってクーデターはもっと悪手だ。国内をまとめたところで、アズガルドとの戦争をどうにかしない限りは建て直しもままならん」
断片的な情報が入っているアズガルドが接触した未知の国や、ユデールと接触した国の動向も気になる。
この国は内にも外にも問題を抱え、瓦解寸前だというのが情報部長の認識だった。
「あの女ではダメだ、ダメなのだが・・・」
政敵のスキャンダルを握り、脅し、味方にするか消し去るか、という手段を取りここまで登ってきた情報部長だが、別に権力志向の汚職政治家、と言うわけではない。
任せられそうな人間がいないから自分がトップになって国を立て直す、という考えを持つ、権力闘争のために上に上がろうとする党員が多いホリアセでは数少ない存在であった。
「いっそ外国勢力の力を借りるか?しかし・・・」
増々膨張する戦費の問題を解決するにはアズガルドと和睦、最低でも停戦するしかない。
しかし、ホリアセが不利な状態なのは疑いようのない事実であり、どんな条件を付けられるか分かったものではない。
「むしろ、国の構造を大きく変えるのならクーデターのほうがいいのか?しかし・・・」
思考は堂々巡りであり、情報部長は総裁をどうやって引きずりおろすかに頭を悩ませるのだった。
おまけ どうでもいい話
異世界歴1年11月22日 アズガルド神聖帝国ドラスト大陸領 セントール空軍基地
《全機の撃墜を確認、これより帰投する》
《ふいー、終わった終わった》
《つっても敵の射程外からミサイル撃ってただけじゃねぇか》
敵の防御機銃の射程外から赤外線誘導ミサイルを撃ち込んだだけでケリがついたので、まだ機関砲弾は全機フルロードである。
《いや、良かった良かった。実は帰ったら彼女にプロポーズする予定なんだよな。もう花の予約は済ませてあったり》
《PJ、おまえ・・・》
《え?なんですか?まさかフラグとか言うんですか?もう戦闘『STALL STALL』も終わりましたし・・・》
《《《はやっ!?》》》
安定の迅速なフラグ回収で全員に戦慄が走る。
《メーデーメーデーメーデー、こちらPJ、エンジン停止!推力喪失!》
《なんてことだ、もう、助からないゾ》
《あ、あれ?EPUが起動しない?》
《ヒドラジン燃料なんて持ってきてないから補充してないんじゃ?》
F-16のEPUはヒドラジン水溶液を燃料にするタイプなのだが、ヒドラジン水溶液は取り扱いがいろいろ面倒なのである。F-2ではそれを嫌って、通常のジェット燃料を使用するタイプを搭載しており、整備性と補給性の向上に一役買っている。
《うっそだろお前!?》
《無いものは補充出来ない。仕方ないね》
非常事態の割に皆暢気なのは、最悪非常脱出できる戦闘機故である。
まぁ、その非常脱出もいうほど安全ではないのだが、機体は安定して飛行しているので、変なことをして姿勢を乱さない限り、安全に脱出できるだろうとの目算である。
結局、高度があったので降下しながらエンジン再始動を行い、事なきを得たのだった。
次は土曜日かな?




