売り込みのあれやこれや
新世界歴1年11月21日 アズガルド神聖帝国ドラスト大陸領 セントール空軍基地近傍空域
帝都アガルダからセントール空軍基地に向かう特別機が1機、のんびりと飛行している。
アズガルドが誇る最新鋭大型輸送機だったイーム輸送機である。
「機内サービス無いの?映画も観たい」
「無茶言わんでくださいよ・・・」
アガルダ国際空港と羽田空港の間で飛んでいる日本の民間航路に慣れ過ぎたアルノルド首相が無茶振りをする。
一応旅客仕様で多少の防音と内装は施されているとはいえ、与圧もないレシプロ機では機内環境はお察しである。
「しかし、ランヴァルドの奴が私に泣きついてくるとは、よほど議員団の連中に困っていると見える」
ははは、と笑いながらアルノルドは言う。
もともと軍にいたころは対立派閥にいたこともあり、犬猿とまでは言わないものの、周囲には仲悪いんだろうなー、と思われる程度の関係である。
もっとも、日本で捕虜になって以降は望む望まぬに関わらず一蓮托生なのだが。
アルノルドがセントール空軍基地に向かっているのは、今現在セントール空軍基地とその南側に広がる大演習場で行われている陸空の大規模な武器選定の視察、ということになっているが、実際にはアメリカに弱みを握られてアメリカの都合をごり押ししようとする議員団に手を焼いたランヴァルドが泣きついたのが急遽視察が決まった原因である。
ちなみに、別にアメリカもM1戦車を数年後の引き渡しで代金一括前払い、なんていう無茶を通そうとしている派閥だけではないので、M1A2の生産台数増加で雇用が増える地元議員や、初っ端から不義理なことをして嫌米感情を煽るのは得策ではないと考える国務省関係者や議員を日本がつついたりは一応している。
「まぁ、何にせよ最近は経済絡みの話ばかりだったし、久しぶりに軍の話に噛むのも悪くない」
日本だけでなく、英国や米国、その他APTO加盟国とのなんやかんやで日々多忙なアルノルドは、休暇のつもりで今回の視察を考えているのだった。
新世界歴1年11月21日 アズガルド神聖帝国ドラスト大陸領 セントール空軍基地
「えー、このようにこちらにはレーダーが取得したナマの情報を、こちらにはドップラー情報から余計なエコーやクラッタが処理され、敵味方識別やトランスポンダの情報も組み合わせて表示しています」
JTPS-P14のPPI表示の画面を見ながら陸自隊員が解説している。
「これがさきほど離陸したF-15SJの輝点です。IFFを装備していますので、このように味方として所属と飛行情報が表示されています。一方、こちらの輝点ですが、IFFに応答がないため、所属と飛行情報が表示されていませんが、味方と表示されています」
「それはおかしいのではないか?」
敵味方識別やトランスポンダに応答がないならば本来は国籍不明機のはずである。
そのことについて見学していたアズガルドの将校が疑問の声を上げた。
「はい、確かにその通りなのですが、この機体はアガルダからセントールに向かっているアズガルド神聖帝国空軍の特別機です。事前に判明しているフライトプランを入力しておけば、自動でそのフライトプランに一致するものを味方として表示することで、レーダー員の負荷を軽減することができるのです」
もちろん、一定の空域を民間航路と設定して、そこを飛行するものを脅威目標から除外する、といった設定も可能である。
「仮にこの輝点が、偶々フライトプランと一致する挙動をとっていた別の機体だった場合、ずっとフライトプランに合致する挙動を取るとは考えにくいですから、フライトプランから外れた時点で直ちに警報を発して知らせます」
ううむ、と自国のレーダーとの探知性能以外の面での差にアズガルドの将校たちは唸ってしまう。
「では、続けて、この目標が特別機ではなく、ボギーだったと仮定して話を進めましょう」
そう言うと解説していた陸自隊員は、特別機のフライト情報を消去した。
「これでこの機は国籍不明機です。まっすぐこちらに向かってきているわけですから、脅威と判断し、情報を短SAMに引き渡します」
コンソールを操作して国籍不明機を敵機として情報を対空戦闘指揮統制システムを介して11式短SAMに送信する。
「では隣に移りましょう」
そう言って一団は短SAMの射撃指揮統制装置に移動する。
「今回は展示の都合の隣に設置していますが、本来はもっと離れた位置に設置することで隠匿することも可能です。また短SAMの射撃指揮統制装置にも捜索能力はありますので、連接せずに単独で運用することも可能ですが、能力を十全に発揮させるなら他のレーダーと連携するべきです」
隊員は今は発射はしませんが、と前置きしたうえで話を続ける。
「P14からの捜索情報に基づき、短SAMの射撃指揮装置が現在バンディットを追尾しています。捜索をP14に依存することで、目標の追尾に専念できているわけです。この状態であれば、目標が射程内にある限り、いつでも短SAMを発射し、最高の命中精度を期待することができます」
対空戦闘指揮統制システムを空自のJADGEシステムに繋ぐことで、日本国内に限って、さらに高精度の民間航空情報を取得したり、迎撃にあたり戦闘機と連携することも可能なのだが、今は必要ないので隊員も触れない。
「今この場でデモできる各レーダーの連接システムの利点はこの程度ですが、戦闘機による迎撃管制なども組み合わせることで、持てる戦力を最大限の効率で利用できるようになるわけです」
それを聞いたアズガルドの将校団は絶句している。
日本側の保有する戦闘機の機数を聞いたときに、少なすぎる、いくら性能差があってもあれだけの完封負けを喫するはずがない、などとかなり議論になったのだが、なんのことはない、相手を見つける良い目と持っている戦力を有効に使うためのシステムがあったというわけである。
絶句している将校団を横目に、解説していた隊員は特別機のフライト情報を戻すために、P14のコンソールに戻る。
「しかし、こりゃフィリピンに入れるのより大変だぞ」
アズガルドに固定レーダーサイト用にJ/FPS-3と、移動用にJTPS-P14を販売することになったのは、フィリピンに対して販売実績があったからである。
フィリピンの防空網は、一時期超音速機すら保有していないほどにズタボロだったのだが、中国の脅威が高まるにつれ、さすがにこれではいかんと増強に走ったのだが、そのフィリピンでもレーダーを扱える人間はもともといたし、民間航空の管制を行っている人材もいたわけである。
「ま、なんとかなるか」
俺の仕事じゃないしー、と陸自隊員は今日の昼めしはなんだろ、とかどうでもいいことに意識を向けたのだった。
世界歴1年11月21日 アズガルド神聖帝国ドラスト大陸領 セントール空軍基地駐機場
「うーん、それにしても・・・」
レーダーのデモのためだけに飛行して帰ってきたF-15SJをハンガーの日陰から眺めていた一団が駐機している機体を眺めながら呆れたように息を吐く。
「なんでわざわざ燃費の悪いF-15にデモ飛行させたんだ?」
「並んでいる機体をよく見てみろ。IFFのモード5に対応してるのはどれだ?」
「・・・T-7Aなら積んでそうだが」
「武装もしない練習機になんでIFFが必要なんだ?あと、積んでたとして日本のレーダーのデモだぞ」
多彩な機体が並んでいるものの、そもそもIFFを積んでいなかったり、砂漠送りで改修されていないのでモード4のままなのである。
F-1B、F-1CにはIFFを搭載する予定になってはいたが、スペースが確保されているだけで試験機には現在のところ搭載されていなかった。
なんの改修もされていないPre-MSIPのF-15Jだが、IFFとJADGE対応の改修だけは(全量ではないが)行われている。まぁ、改修されたのはF-35の入れ替えまで時間がかかる分だけだが。
逆に言うとそれ以外は導入から何も変化が無いのがPre-MSIPのF-15Jである。
AESAレーダーを搭載し、AAM-4やAIM-120、AAM-5はもちろん、JASSMやLRASMといったロングレンジ攻撃兵装にも対応し、コクピットも大型ディスプレイに換装したF-15MJは外装の見た目が同じ別物になってしまっている。
「けど、ほんとにF-15SJも売却対象に入ってるのかね?」
「F-35の配備で余剰になるし、ARHに対応しない機体ならOKってことになったから基準内ではあるだろ。予算増えたとはいえ、いくらあっても困らないんだから、F-15SJの中古を押し付けて防衛力強化、ってことじゃね」
最初のうちはできるだけアズガルドの装備は抑制する方向だったのだが、経済的な要請や好き勝手やってる地球国家に対しある程度自衛できるように基準が緩和されていた。
あと、ドラスト大陸を日英米で防衛するのは財政負担が重すぎるので、アズガルドに持たせよう、という考えもあったが。
「まぁ、先進国並みとは言わずとも、一段落ちくらいの防衛能力はもってもらわないとな」
「次は各航空機のデモだっけ?あれ?そういえばイギリスの航空機なくね?」
EF-2000は基準外なのでアウトでも、軽攻撃機として運用できるホーク練習機くらいは持ってきてもよさそうな気がするが、とつぶやく。
「ああ、なんか装備庁が全力で潰したらしい」
「Oh...」
アドーアの恨みは深い。
世界歴1年11月21日 ホリアセ共和国プル近郊 オヴレー空軍基地
大量の大型機が誘導路から滑走路へと並んでいる。
片翼に3発、計6発装備された、2段2速の遠心式スーパーチャージャーで加給し、ターボコンパウンドも備えた最大出力3000馬力を発揮する空冷星形複列18気筒エンジンが独特の唸りをあげ、それが回す大型プロペラの発生させる風切り音と合わさり、他ではなかなか聞けない騒音が周囲には響き渡っていた。
まさにバケモノの名にふさわしい怪鳥達は、初の実戦投入に向け、その巨体を空へと浮かべたのだった。
次は土曜日




