国家は基本的に経済優先
新世界歴1年11月20日 アズガルド神聖帝国ドラスト大陸領 セントール空軍基地
「いやぁ、これは中々壮観ですなぁ」
防衛装備庁の技官は多数の機体が並ぶエプロンを眺めて呟いた。
そこには現在アズガルドの次期主力機として先行量産が始まっているF-1Bと練習機のT-2Bそれぞれの試作機、F-1Bにレーダー警報装置やチャフ・フレアディスペンサーなど電子戦兵装を追加した試作機であるF-1C、F-35の配備で退役予定のF-15SJ、普通の状態のT-4、アメリカで保管状態だったF-4のいくつかの型、F-16A、F-15A、C-130Hに悪あがきのT-7Aという、見た目だけでいうなら一部を除き、80年代?という顔触れである。
アメリカの砂漠送り機体だけでも結構な数を揃えられるはずだが、いくら保管状態(放置状態ではない)にあり劣化しにくい乾燥した高地に置かれていた、といっても経年ゆえの問題はそれなりにあるわけで、部品の供給も途絶えて可能性も高く、40機買ったら20機は部品取りか予備機に回す位で20機を稼働させられればいいほうである。
というか、そもそも保管されている機体の製造時期が一定なんていうことはないわけで、F-16なんかだとBlockが異なるから細かな部品が異なる、なんていうのは普通に起こり得る。
「アズガルドはそのことわかってんのかどうなのか」
F-1Bの生産能力はどう高く見積もっても年間20~30機なので、とにかく戦闘機が不足しているアズガルドとしては手っ取り早く数を揃えられる米軍のモスボール機は魅力なのである。
ちなみに、買ったときにきちんと整備してくれるかどうかは、そのとき払った金額と契約次第である。
まぁ、新造状態でモスボールされてたのをオーバーホールまでした海自のC-130Rでも雨漏れなど細かなトラブルが発生しているので、いくら状態が良くても年数はたっているということだろう。
「しかし、この財政力だけは大したもんだねぇ。最大の油田は全部日本に持ってかれてるのに、産油国の強味ってことかね」
エプロンの別の区画には11式短SAMやアベンジャー近接防空システム、ストーマーHVM、JTPS-P14対空レーダー装置、ARTHURなどの野戦防空機材が展示されていた。
さながら武器展示会であるが、全部アズガルドへの売り込みのための展示である。
この展示会に合わせて、アズガルドの偉いさんもいろいろ来ているので、普段はゆるーい環境で好き勝手に航空機を飛ばして試験しているこの基地もピリピリした空気になっている。
今はその偉いさん達は基地の外に設けられた演習場に、配備が決まっている74式戦車と、米陸軍が自分の機甲戦力再建のために予算の足しにするため押し付けようとしている105mm砲搭載のM1戦車などを見に行っている。
結局、装備の制限よりもビジネスのほうに振れているあたり、国家というのはどうしようもねぇな、とその片棒を担ぎながら技官は思ったのだった。
新世界歴1年11月20日 アズガルド神聖帝国ドラスト大陸領 セントール大演習場砲撃演習場
セントール空軍基地の南側に広がる大規模演習場として日英が整備した演習場で、アズガルドが採用を決めた74式戦車I型と、採用を検討しているM1戦車のデモンストレーションが行われていた。
M1戦車のほうは105mm砲装備のなんの改修もされていない初期型である。
対して74式戦車I型は統合油気圧サスペンションを採用することで面倒な油気圧サスのメンテナンスの手間を省いたモデルである。もっとも、高度な制御については開発する予算が無かったので静止中に俯仰角制御に使える程度にとどまっているが。
ちなみに、M1戦車についても政治的圧力によって採用が決定しているので、完全な出来レースである。
「しかし、あのガスタービン?とかいうエンジン、本当に大丈夫なのか?」
「こっそり仲良くなった日本の技官に聞いてみたんですが、笑って目を逸らされました。産油国の貴国なら問題ないんじゃないですか、とか言われましたが」
2キロ先の目標に砲弾を命中させる戦車を見て歓声をあげる議員団の横で、こそこそとランヴァルド中将と技官が話している。
「装甲は74式戦車より間違いなくあるから使い分ければいいんじゃないか、と言っていましたが」
「いや、55トンの戦車とか、鉄道輸送できないんだけど」
「それ言い出したら74式戦車もムリですよ」
アズガルドのもともとの鉄道規格は、狭軌より少し広い程度のもので、基本狭軌に改軌する方向に進んでいるので、74式戦車でも輸送出来ない。
「まぁ、本国に74式戦車を配備して、ドラスト大陸にM1戦車を配備する形にするしかないんじゃないでしょうか。74式戦車ならトレーラーに載せても50トンですから、なんとか本国内でも輸送できます」
「M1戦車は数があるようだし、ドラスト大陸に分散させるならそれもありか・・・」
ぐぬぬ、とランヴァルド中将は唸るが、根本的な問題はそんなことではなく、大して緊急性もない戦車の調達に予算をとられることである。
「しかし、防空レーダーと迎撃戦闘機や各種艦船のほうが急がねばならんのだが・・・」
「アメリカからの政治圧力がスゴイみたいですからね・・・」
ちらりと議員団のほうを見ながら技官は言う。
「スゴイなんてものではない。俺のところにも連日連夜押し掛けてくるんだぞ」
帝都での日々を思い出してげんなりするランヴァルド。
ちなみにその議員たちは硬軟織り交ぜたアメリカの交渉により懐柔されているのである。
「日本が全ての調達武器を選定する、という方法をなぜ拒絶したのか・・・今となっては間違いなくそのほうが良かった・・・」
他国に武器選定の全てを委ねるなどとんでもない!とあのときは猛反発し、調達する武器の種類や性能については制限をかけられたものの、日英米の範囲内なら選定の自由を得たのだが、その直後からこの状況である。
自国の利益のためなら同盟国であろうと諜報、工作活動の対象にし、その手段を一切躊躇わないアメリカの面目躍如である。
これこそ後の祭り、とか、後悔先に立たず、というやつである。
「とりあえず防空レーダーについては固定設置のものを7基200億円で日本から導入できることになったし、戦車に予算を食い尽くされる前に必要なものは契約してしまわねば・・・」
下手をすれば米軍の中古車両なのに、引き渡しは数年先で支払いだけ一括前払い、なんてことになりかねない。
もちろん、そんなことになりかねないのは戦車不足の米陸軍の都合である。
新車の調達予算を確保しつつ、その新車が配備されるまでアズガルドに売った車両を使い続けて繋ぎにしよう、というのだから商売の仁義もクソも無い。
意外な話だが、兵器輸出というのはある種の信用商売なので、輸出先に信頼されていないと成功しない。
逆に言うと、一度でも無茶な商売をすると、二度とそことの取引が無くなったりするのである。
空自が欧州機を徹底して避けるのもそういう理由だし、フィリピンが防空レーダーに日本を選んだのも値段の他に、TC-90やヘリの予備部品などの積み重ねがあったからである。
つまり、M1戦車も、そんな契約を結べば、今は良くてもアズガルドにアメリカ兵器アレルギーを植え付けかねない危険なものなのだが、大きな問題として、メーカーが一切噛まず、米陸軍が中古車両を販売する、ということがあった。
仮にもメーカーが噛んでいれば、納入後の改修や次の契約なども見越して(最初から騙そうとしているのでなければ)無茶苦茶な契約を持ちかけたりはしないが、陸軍にはそんなことは関係ない話である。
まぁ、契約元が値切りまくって無茶を言うようなら不完全なものを売りつけて、後に改修などを持ちかけて追加料金を取る、なんていうのもあるので普通の商取引と同じで互いの信用が大事なのである。
「とにかく、バカな契約ができないように優先度の高いものの選定を急げ」
「わかりました」
どのみち戦車も更新が必要ではあるので、無茶苦茶な契約でなければ中古だろうと安く済むなら買うこと自体は問題ないのだ、とランヴァルドは言い聞かせるのだった。
新世界歴1年11月20日 アズガルド神聖帝国ドラスト大陸領 セントール大演習場市街戦演習場
そしてさらに同じころ、広大な演習場の別の区画では、陸自と英陸軍によって個人携行対戦車兵器の実演が行われていた。
それを見学しているのはアズガルド神聖帝国陸軍の上役もいるが、ドラスト大陸派遣軍の中隊長クラスが大勢いる。
結果として、総火演まではいかずとも、都市近郊駐屯地のイベントくらいの観客の入りになっており、賑やかである。
《右手、煙の上がった建物2階の窓をご覧ください》
拡声器から流れるアナウンスに、観客の視線が一斉に建物2階の窓に向く。
《あの場所に01式軽対戦車誘導弾を装備した部隊が待機しています。続けて、左手、赤い煙の上がった場所をご覧ください》
今度は観客の視線が一斉に左を向く。
《あの場所にエンジンをかけたグルトップ歩兵戦車が停車しています。その戦車を標的に射撃します》
それを聞いた観客たちの間に喧噪が広がる。
「バカな!対戦車砲で狙うにも遠いぞ」
「あんな小さな武器であの距離のグルトップ歩兵戦車の装甲を抜けるものか!」
観客たちの前に軽MATを構えた陸自隊員がいるが、それと射撃位置と目標の距離を見て、不可能だと騒ぎ立てている。
その距離は概ね1500m。対戦車ミサイルの装甲貫通能力に距離は無関係だし、誘導装置が仕事さえすれば射程内で静止目標を外すことはない、と地球基準では思うのだが、ミサイルはもちろん、個人携帯対戦車兵器といえば(ほんとに個人で持てるかどうかは別にして)対戦車ライフルしかなかった世界の住人からすれば信じがたい話である。
ちなみに、当初の予定ではソマリアから海を渡ってくる武装勢力が使用するRPG系列に近い、パンツァーファウスト3やMATADORのデモを予定していたのだが、アズガルド側から「インパクト重視で」という要望があったので対戦車ミサイルのデモになったのである。
《目標敵戦車、軽MAT、発射弾数1、準備出来次第射撃せよ》
アナウンスで射撃命令が流れると数秒後に、建物2階の窓から軽MATがロケットモーターの轟音とともに飛び出す。
トップアタックモードのため、勢いよく高度を取り、上空から勢いよく標的のグルトップ歩兵戦車に突き刺さった。
そして、内部に(賑やかしのために)置かれていた榴弾砲の装薬が派手に爆発する。
「「「「おお!」」」」
命中したのを見て、総火演の観客と同じリアクションをしたのち、再び騒がしくなる。
その後、MATADORや84mm無反動砲、いくつかの自動小銃のデモや、ガスマスク集団とアズガルドの警備小隊の模擬戦などが行われ、アズガルドの大陸西部の戦術と装備の見直しについて様々な議論が行われることになるのだった。
次は出来れば木曜日、ムリなら土曜日




