パスタ!チーズ!ワイン!
ネタ回?
新世界歴1年11月9日 ユデール王国 港湾都市タスパ
転移前のような活気はないものの、そこそこの船が出入りするユデール王国を代表する港湾都市タスパに、赤白緑の三色旗に王冠と4つの紋章を組み合わせた軍艦旗を掲げた5000トン級の軍艦が入港していた。
プレーナアレイアンテナの三次元レーダーをはじめ、パラボラアンテナの火器管制レーダーなど、各種電子兵装から明らかに地球国家の艦船だとわかるのに、艦首に大型の主砲塔を備えるほかに副砲塔にしか見えない小型砲塔を艦首両舷に2基、後部ヘリ格納庫上に1基と、まるで「砲が主兵装」と言わんばかりのてんこ盛りである。
かと思えば、艦首にはゆき型やきり型で見慣れたMk.29対空ミサイルランチャーに似た発射機、後部ヘリコプター格納庫上にはMk.13単装ミサイル発射機、艦中央部には対艦ミサイルと思われる発射筒も見える。
艦載兵装のデパートみたいなこの艦は、イタリア海軍のデ・ラ・ペンネ級駆逐艦ルイージ・ドゥランド・デ・ラ・ペンネである。
どう考えてもトップヘビーの重量過多だが、伝統的に地中海での作戦行動が中心のイタリア艦は重武装のトップヘビーである。
世界中で活動し、長期航海の多い米英仏や、世界的に見ても荒れる海が母港の日本とは根本的に設計思想が異なるのである。
もっとも、そんな独自色もフランスと共同の駆逐艦プロジェクトなどによって薄れつつあるが。
それはさておき、なぜイタリア艦がユデール王国にいるのか、と言う話だが、単純に接触を持ったからである。
そんな彼らが外交交渉をしているかというと・・・
「ううむ、この国のパスタもなかなか・・・」
「ワインは我が国の勝ちだな」
街で1番高級というわけでもなく、むしろ廉価な部類だが評判のレストランで行われた両国の会談は、互いのワイン品評やらなんやらでぐだぐだになっていた。
そもそものきっかけは、ユデール王国の外交官がレストランのウェイトレスを口説き始めたことである。
互いに言語が通じないので身振り手振りでなんとか意思疎通している状態とはいえ、ウェイトレスの手を握り、イケメンスマイル(自称)で甘ったるい声をかけているのを見れば、口説いているのは一目瞭然である。
外交交渉の途中でそんなことを始めた相手に普通なら怒り出すところだが、そこで何をトチ狂ったか、同行していたデ・ラ・ペンネの艦長(既婚)がユデール王国外交官に随行していた秘書官の女性の手を取り、赤いバラの花を渡して口説き始めたのである。
さすがにこれには同席した全員が唖然としたが、そこからは雪崩を打ったように男女問わず口説き始めるのもいれば、互いにワインのボトルを開けて飲み比べを始めるものもいるなど、無礼講の様相を呈していた。
ちなみに、そのきっかけになったユデールの外交官とデ・ラ・ペンネの艦長は、頬にモミジをつけて互いのグラスにワインを注いで笑っていた。
こうして、両国の会談は和やか(?)に終了し、互いのワインを持ち帰ったことで、双方ともに一部から誉められ、大方から呆れられ、怒られることになるのだった。
新世界歴1年11月11日 ホリアセ共和国プル 国民統一党本部
「ユデールのバカどもが未知の国と接触した?」
アズガルドとの戦闘での連戦連敗でヒステリー染みた金切り声を上げ続けている割には、なぜかノドはいつでも絶好調なことが党本部七不思議のひとつに数えられる女総裁だが、自らの置かれた立場はそのノドほど順風満帆ではない。
基本、常に下克上を狙う権力闘争が党内で行われている国民統一党では、他に責任転嫁していいても、敗戦続きによる求心力の低下は死活問題である。
「で、使えそうなのですか?」
「はぁ・・・それは・・・」
外交部の事務官は報告したら自分のせいでもないのに怒られるんだろうなぁ、と気が進まないので思わず口ごもるが、結局そのことが総裁の逆鱗に触れて怒鳴られることになった。
「で、ユデールが接触したという国の情報は?」
「はぁ・・・その・・・ワインの味と香りはユデール以上、チーズとパスタの多彩さはユデール並・・・とのことです」
結果、今度は完全に事務官は悪くないのに総裁に当たり散らされることになった。
「あ、あと女性を口説くことに関してもユデールと同程度、とのことです」
そして最後に事務官がしなくてもいい報告をしてもう一度怒鳴られた。
「というか、そんなくだらない報告しかあげてこないユデール駐在の外交部と情報部は全員収容所に送ってしまえ!」
ここでその事務官を収容所に送らないあたり、ヒステリーを起こしていても総裁は冷静である。
まぁ、そうでもないと権力闘争を勝ち抜いて総裁にはなれないが。
「全員更迭はやりすぎですが、少しユデールに毒されすぎている気もしますね」
外交部長がさらりとフォローをいれる。
こういう時に助けた奴に恩を売って、自分の味方を増やすのである。
「とりあえずあの国のことはもう良いでしょう。それよりもアズガルドとの戦線が問題です。向こうが押し出してこないので戦線は維持されていますが、損害は膨らむ一方です」
一応、いまのところ部屋にいる外交部長と内務部長、空軍部長と親衛隊長は総裁派、ということになっているので一蓮托生のはずである。
「海軍の敗北は不用意に敵を深追いした結果ですが、空軍の不利は説明がつきません。まったくもって不可解なほど一方的にやられています」
「情報部では何かつかんでいないのだろうか?」
「情報部はアズガルドで特異な動きは無い、と言っているが、情報部長はなんせあのタヌキだからな・・・」
現在の情報部長は反総裁派の筆頭で、次期総裁に一番近いと言われる男である。
「こちらの失脚を狙って意図的に情報を隠蔽していると?」
「だがそこまでするメリットがあるか?それが露呈すれば次期総裁への道は足踏みどころか、職務怠慢と国家反逆罪で家族ごと収容所送りになりかねないぞ?」
現総裁派としては全くもって不愉快なことだが、放っておいても情報部長に次期総裁の地位が転がり込むのは確実と見られている状況である。
まぁ、その状況を作ったのは情報部長の立場を利用して、総裁選の投票権を持つ党幹部の弱みを握っているからなのだが、それを告発できる人間はこの国にはいない。
なんせ、告発するには自分の醜聞を暴露する必要があるからであり、そもそも脅されていない人間は情報部長が立場を利用して醜聞を集めている証拠が無い。
「親衛隊保衛部を使って少し探らせてはいますが、情報部で不穏な動きは見られないですね。よほど隠蔽が周到なら別ですが、あの規模の情報網で何か掴んだものを完全に隠蔽するというのは困難です」
実際、元の世界において、アズガルドにそれなりの情報網を構築しており、かなりの数の諜報員やスリーパーも潜入させてはいたものの、転移後、特に日英のアズガルド支援が本格化したのちは、情報を送信するために無線機を使用した場合、ただちに位置がアズガルドの公安当局に通報されていたので情報網は各地でズタズタになり、まともに機能しなくなりつつあった。
結果、本国の情報部が受け取れた情報は、アズガルドが日本に降伏したころまでの、それもドラスト大陸で得られた不確かな情報に限られており、それ以降の日本などからの技術導入や、その技術格差については情報網の途中で送信が潰されてしまい、まともに情報を得られていなかった。
「大森林地帯の道路啓開はアズガルドの爆撃で遅々として進んでいないどころか、地雷まで撒かれて後退している状態です」
「飛んでいる敵機を墜とせないのなら、飛ぶ前に叩いてしまえばいいのです」
総裁は簡単に言うが、それが出来れば苦労は無いのである。
「夜間飛行で敵飛行場に接近、日の出とともに攻撃すれば十分な戦果が見込めるでしょう」
「夜間飛行でもレーダーで見られれば見つかりますが・・・」
「低空ならレーダーには見つからないと聞きますが?」
伊達に総裁などやっているわけではないので、無駄に知識は持っているのが厄介である。
「一度でも試したのですか?」
「いえ、それは・・・」
「アズガルド本土爆撃も十分な成功を収めたでしょう。長距離爆撃こそこれからの戦争です」
転移前のアズガルドがホリアセ本土侵攻を決意することになった原因であるアズガルド本土爆撃は、総裁の発案であり、この成功で総裁はかなり支持を高めたのである。
「それに、新型爆撃機も量産に入っていると聞いていますが」
「はあ、すでに40機が飛行隊に配備されてはいますが・・・あれは低空侵攻には向きませんよ」
「なぜ低空侵攻に拘るのです?」
「え?」
お前がそう言ったんじゃねぇか、と空軍部長はノドまで出かかった言葉を飲み込んだ。
「複数のルートで複数の方法で同一目標に攻撃を加えた方が成功率は上がるでしょう」
ミサイル飽和攻撃と同じ考え方だが、この場合はどれか一つでも見つからずに飛行場に接近できれば飛行場を破壊できるので敵航空戦力を減らすことができる、という考えの物である。
もっとも、この場合、レーダーに見つかりやすい高度を飛ぶ部隊は囮ということになるが。
「なんなら囮を迎撃させて、迎撃した機体が飛行場に戻ったところを奇襲できればなおいいですね」
第二次大戦でドイツ軍のMe262を、連合軍が飛行中に落とすのは難しかったので、離着陸時を狙ったというのと同じ戦法なので有効性は高い。彼女らには知る由も無いことだが。
「確かにできれば有効ですが・・・長距離侵攻作戦でタイミングが合わせられるかどうか」
あと、囮部隊は完全に捨て駒なのも空軍部長を躊躇わせた。
「見つかっても攻撃を受けなければいいのでしょう?新型爆撃機の飛行高度は10000メートル以上と聞いていますよ」
「確かに新型のルアキセチー重爆撃機は高高度で比類なき性能を発揮しますが・・・アズガルドにも高高度迎撃戦闘機は存在しますので・・・」
「配備数は多くないと聞いていますし、そもそもその全てが首都防空隊配備、とこの報告書にはありますね」
ヒステリーでも総裁をやっているだけのことはある総裁に押し切られ、ホリアセ空軍はドラスト大陸最大の空軍基地であるセントール空軍基地への大規模空襲作戦を立案することになるのだった。
次は火曜日から木曜日に




