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第一次「異」世界大戦  作者: 七十八十
新世界暦1年
125/201

変わるもの、変わらないといけないもの

新世界暦1年11月10日 アフリカ・ドラスト大陸間の海峡(旧紅海・アデン湾)


こちらは(This is)日本国海上自衛隊(JMSDF)いわゆる(So called)日本(Japan)海軍(Navy)である。ただちに転針し当海域より離脱せよ。本海域への未許可船舶の侵入は認められていない』


護衛艦ゆうだちに装備されたLRADで接近してきた小型船舶に警告を発している。


「やれやれ、これで今日何回目だ」


うんざりしたように艦長は言う。

ソマリアの海賊対策名目で派遣されているものの、スエズ運河を航行する日本関係船舶はゼロになったので、ぶっちゃけていうなら撤退すべき案件である。

ただ、従来よりジブチが近くなったので、拠点を維持する意味と、近所の治安維持という意味をあり派遣は続けられている。


「転移後しばらくは大人しかったんですがねぇ・・・」


元々転移前からアデン湾付近での海賊被害はその発生をほぼ抑え込めていた。

日本以外にも欧米諸国やロシア、中国に至るまで、それ以外にも海軍銀座といえるくらい多彩な国が派遣していたのだから、そんな海域で海賊行為なんてできるわけがないのである。


「しかし、あんな小型船舶でドラスト大陸に渡るのは自殺行為では?」

「自分たちの住んでいた場所に戻る気がない片道なのでは?ドラスト大陸で小規模な集落を占拠していた事例があるようですし」


一部の武装海賊がドラスト大陸に渡り、そして戻ったのがいたらしく、海賊以外にもとにかく武装勢力が大量に海を渡ってドラスト大陸に渡ったのである。

結果、アズガルドのドラスト大陸派遣軍は大陸西部で武装勢力狩りに奔走しているわけだが、基本的には自動小銃やRPGを持っているとはいえ、武装勢力側は寡兵であり、ドラスト大陸派遣軍は複数の機甲師団もいる大戦力なので、掃討自体は進んでいる。


だが、ゲリラ戦術が基本の武装勢力に手を焼いているのも事実であり、アズガルドの元の世界にはなかった個人携帯対戦車兵器に少なくない損害を出していた。

ドラスト大陸の不安定化は大陸中央部に莫大な利権を持つ日本としても面白くないので、これ以上の流入を防ぐために海賊対処派遣部隊を転用して海上で捕捉し、アズガルド側に通報しているのである。


「まぁ、アズガルド側の能力向上までの数年間の辛抱か」

「手っ取り早くFFMの就役で除籍になる護衛艦を譲渡する話もあるようですが」

「どっちにしても戦力化に数年かかるじゃん」


しばらくの間、ただでさえ航路警備で忙しい海自はこちらにも手を取られ続けるのだった。




新世界暦1年11月10日 アズガルド神聖帝国ドラスト大陸領西部 地図に載らない小集落


現代先進国並みにかっちりと管理されているアズガルド本国と異なり、フロンティア扱いのドラスト大陸領の管理はかなり雑である。


入植者の数くらいは把握しているものの、原住民の戸籍を完全に作成できているか、というと怪しいもので、大方の測量は出来ていても、集落の位置や名前まで完全に記された地図があるか、というと「ない」というのが回答になる。

そんなわけで、アズガルド神聖帝国陸軍ドラスト大陸派遣軍第3軍団第4歩兵師団に所属する増強歩兵中隊である彼らの視線の先にある集落も、そんな地図に載っていない集落の1つである。


「占拠した勢力の戦力はわからんのか?」

「不明です。たまたま集落外に狩りに出ていた一団が、辛うじて近隣の町まで逃げて開拓庁の出張所に駆け込んで発覚しましたので」


中隊長は肝心の集落が載っていない地図を見ながら溜息を吐く。


「集落の人口はその狩人が言うには概ね30~40人といったところでしょう。武装と言えるほどのものは狩猟用の旧式ライフルが数丁といったところで、そのほとんどは狩りに出ていた人間が持ち出していたとのことです」

「もっとも、全てあったところで情報通りの武装なら数名相手でも勝てないだろう」


最近、大陸西部に駐屯する部隊に緊急警報として出回った情報。

近隣に転移してきた大陸から武装勢力が侵入しており、対応に注意を要する。というものであり、付随情報として想定される武装も記されていた。

それによると、小型の船外機付きボートで渡ってくる程度なので、人数は少ないと見られるものの、全員がフルオート射撃可能な自動小銃で武装しており、個人携行可能な機関銃や対戦車兵器も所持している可能性が高い、ということである。


「個人携行可能な機関銃、というのはなんとなく想像がつくが、対戦車兵器ってなんだ?」

「さぁ・・・?持ち運びできる対戦車砲でもあるのでしょうか?」


ある意味では間違っていないが、彼らが想像したのは軽量な対戦車砲で、使用時には組み立てて砲架に据え付ける、というようなものであり、ゲリラ御用達のRPGとはかけ離れたものである。


「まぁ、敵勢力が何名かわからないのは心許ないが、ここで逃がすと後が面倒だ」

「とはいえ、こちらは歩兵1個中隊160名に装甲車が4輌。包囲するには厳しいですね」

「集落に続いている街道両側に機関銃陣地を据えて、歩兵を2つに分けて街道の無い方角から集落に突入させるしかあるまい」

「装甲車は予備として街道に配置ですか」

「歩兵には班毎にサブマシンガンも持たせているし、軽機関銃もある。なんとかなるだろ」


住民が人質に取られる可能性があるとか、人質に取られなくても巻き添えでかなりの犠牲が出る、とかいうことを一切考慮にいれていないが、敵の制圧だけを考えるなら有効な作戦である。

そもそも、彼らに与えられた命令は「武装勢力の制圧」であり、住民の数は情報として与えられてはいても、それを具体的にどうしろと言う指示は無く、また軍の教育でも人質救出作戦や市民への被害なんて教えていないのだから、仕方がない。

警察なら市民の安全を守り、犯人を逮捕するのが仕事だが、彼らは軍隊である。

敵を倒すのが仕事だし、そのように教育されているのである。


「部隊の配置が完了したら斥候を出すか」

「それより、装甲車を単独で突入させてみてはどうでしょう」

「対戦車兵器の存在が考えられる以上、装甲車の単独運用は避けたいが・・・」


装甲車を単独で突入させる、というのは一種の威力偵察である。

敵が装甲車を攻撃してくれれば敵火点の位置が判明するので手っ取り早いが、敵が対戦車兵器を所持していた場合、自殺行為である。

それに、地球の現用装甲車のように、専用設計でIEDや対戦車ミサイル対策まで施した重装甲のものならともかく、アズガルドでいう装甲車は今のところ、「装甲を施して銃塔をつけた自動車」程度のものである。

下手したら自動小銃のマルチヒットで装甲板を叩き割られる可能性すらある。


「第32戦車中隊の話もある。ここは慎重に行こう」

「武装勢力制圧に出動した歩兵戦車6輌が敵歩兵に撃破されたって話ですか?事実とは思えませんが」

「だが公報で回ってきた情報だ。ここは慎重に行く」


結局、集落に斥候が入った段階で銃撃戦になり、増援で装甲車が突入、集落を挟むように展開した歩兵も続き、数に押された武装勢力側が装甲車が突入したのと反対側の街道に飛び出したところで機関銃陣地が仕事をして、決着がついた。


武装勢力12名を射殺したのに対し、アズガルド側の損害は装甲車2輌が大破、戦死者11名、重傷者26名を数え、その他に武装勢力による被害や戦闘の巻き添えを含めて住民18名が死亡した。

これでも機関銃陣地が有効に機能した結果、アズガルド側の損害は抑えられており、こんな戦闘がいくつも発生しアズガルドを悩ませているのだった。




新世界暦1年11月11日 アズガルド神聖帝国帝都アガルダ 参謀本部 陸軍部


大規模な軍の再編を進めている最中のアズガルドにとって、中枢である参謀本部もその例外ではなく、常に大勢の軍人や官僚が出入りしている。


「しかし、ホリアセさえどうにかできれば、と思っていたが・・・」

「面倒事は尽きませんな。大陸西部の情勢を考えると、個人装備の充実は急務です」

「それに加えて個人携行対戦車兵器の情報収集と周知も必要です」

「それは教育体系の見直しも含んだ話ですから、すぐには無理でしょう」


今、陸軍の懸案は永年の主敵であったホリアセではなく、ドラスト大陸西部の情勢へと移っていた。


「すぐに無理とは言うが、現に今も大陸西部では被害が拡大している。早急に対応しないと士気に関わる」

「そうです。問題は士気だけではなく、大陸西部の治安、ひいては社会不安にも繋がります」


100年以上も戦争を続けていた国なので、日に10人程度の戦死者など、屁とも思っていないが、支配地域の治安を維持できない、というのは由々しき事態だと認識していた。


「正直、日本を始めとした友好関係を結べた各国から資料を取り寄せてはいますが、翻訳作業を行える人間がまだまだ不足しています・・・」

「映像資料などもありますが、再生機材から導入しないといけないうえ、やはり翻訳は必要ですから・・・」


すでにそれなりの数の語学研修者を出しているとはいえ、そのほとんどは通訳などの実務に回されるのが実情で、まだまだ人手は不足していた。


「とはいえ、そんなものいちいち待っておれんし、日本かイギリスにでも頼んで、講義を受けさせてもらうことはできんのか」

「当たってはみているのですが、どのみち通訳を介しての講義、となるとその、専門用語などの翻訳も・・・」

「とにかく今は専門的なことはいいから、概要だけでも説明を受けさせるべきだろう」


当初はのんびりと車両の導入を進めていけばいいや、と考えていた陸軍も、現実の脅威に直面して急ピッチで知識や個人装備の導入に踏み切ることになるのだった。




新世界暦1年11月11日 アズガルド神聖帝国帝都アガルダ 参謀本部 海軍部


もともとのんびりしていた陸軍と違い、艦隊が壊滅したせいで当初から急ピッチで装備の更新を進めていたが、艦船という性質上、いくら急いでも年単位の話であり、急いではいたものの、各所に発注を出して、留学生を日本に送って、と「段階を踏んで軍を再建する」という状態であった。

が、その「整った多忙」もドラスト大陸西部の情勢によって吹き飛んでいた。


「陸軍からは武装勢力の侵入を許したのは海軍の失態だ、と毎日のように抗議が来ている」

「無茶を言うなよ。小型ボートで侵入してくる相手を全て海上で捕捉するなんて不可能だよ」


ドラスト大陸西部にも海軍は配置されているが、哨戒艦6隻に魚雷艇22隻と、全海域を見張るには不足なうえに、哨戒艦6隻はともかく、魚雷艇のほうは哨戒には不向きな短期決戦型である。

哨戒機を兼ねた陸上攻撃機も30機ほどいるが、レーダーも持たない海上監視機でしかない。


「現在は日本海軍の協力を得て哨戒をなんとかこなしているが・・・」

「自国水域を自軍だけで防衛できていない、というのは非常にまずいぞ」


ホリアセ迎撃のための警戒情報を日英に頼っていて今更な気もするが、こちらは情報だけでなく、海自の護衛艦と哨戒機が実際に走り回って警告して追い払っているのである。


「とにかく哨戒艦と哨戒艇をかき集めて大陸西部に送ろう」

「そのまま送ってどうなる。直に日本に発注した対水上レーダーも届く。艤装工事を行ってからでも遅くは無かろう」

「あれは巡洋艦と艦隊駆逐艦に搭載するためのものだろう!?」

「そんなこと言っている場合か。どう考えてもこっちのほうが緊急度が高い」


ちなみに、彼らが届くと言っているレーダーは民間用の航海レーダーであるが、対水上レーダーとして見るならアズガルドの既存のものよりはるかに高性能なので、無いよりはるかにマシである。


「どのみち既存艦へのレーダー搭載なんぞ、繋ぎでしかないんだ。より緊急度の高いところに持っていくべきだろう」

「というか、調達計画を見直すべきでは?最悪、小型の哨戒艦や哨戒艇なら日本からでも早急に調達できるでしょう?」

「それについては日本からもすでに打診があって検討している。海上保安庁?だったかが使用している哨戒艦艇なら安価で建造も早いとのことだ。ただ、問題はあくまでも海上警察としての役割しか考慮されていないから、本格的な軍事作戦には使えないし、武装も軽微とのことだ」

「海上警察向けの船というなら、どのみち長期的に必要な船舶だ。導入してもいいのではないか?」


アズガルドにおいては海上における警察権の行使も海軍の仕事である。

海賊討伐をしていたころの名残だが、証拠保全とか犯罪捜査みたいな専門知識を求められる段階にまだ至っていなかったため、専門の部署が設けられているわけではない。


「やれやれ、次から次へと導入するものばかり増える。とても教育が追いつかんぞ」

「俺たちの頭も追いつかんよ」


諦めたように彼らは首を振り、各々の仕事へと戻っていくのだった。

次は土曜日

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 ちょろっと出てきたもののあまり本編に絡んでこなさそうなアフリカ(のほんの一部)の現状が知れてよかったです。 いや、知れて良かったのかあの現状、てか惨状(汗) [気に…
[良い点] 今話もありがとうございます! [気になる点] アズガルドとラストールが、この世界における秩序維持の一角を担える国になれれば良いなと思います。 我々の世界でも、日本が今後優位に立って欲しい…
[一言] アズガルドって、明治維新が大戦期の技術文明レベルの時にやってきた、みたいな状態なのかもなぁ。 技術レベルの向上と不平等条約の解消まで当面四苦八苦ですね…。何十年かかるんだろ。 でもまぁ、あま…
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